文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

なつかしスポット巡り

回想サロン

昭和の新宿の息吹を感じて~新宿歴史博物館

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 東京・四谷の車の行き交う大通りから一歩入った閑静な住宅街に、新宿歴史博物館はあります。地下1階地上2階の建物はさほど広くはありませんが、旧石器時代から平成にかけての新宿の移り変わりを出土物や複製などで展示するスペースのほか、特別展の空間もあり、平日の昼間でも比較的高い年齢層の見学客の姿が絶えず見られます。

 ここでは、文化住宅や市電の車両などで昭和初期の新宿の姿を復元しており、昭和の息吹を存分に感じられます。写真撮影も限られたスペースなら自由です。旧石器時代から中世、江戸時代の内藤新宿の宿場町の姿を駆け足で見た後、その「昭和初期の新宿」の展示コーナーにたどり着きました。

関東大震災の後に発展した街

 同博物館の後藤理加学芸員は「1923年(大正12年)の関東大震災で下町が大きな被害を受けましたが、現在の新宿区のある場所の地盤は比較的固く、被害はさほどありませんでした。震災後、多くの下町の住民らが新宿に移住し、街が発展していきました」と、説明してくれました。明治大正期の盛り場は浅草や銀座でしたが、昭和初期からは新宿がそこに名を連ねるようになります。今や新宿駅は鉄道の乗降者数が全国一ですが、街が発展したのは意外と新しく、震災後だったことが展示パネルなどからわかります。

外観だけでなく運転席も精巧に復元された5000形の市電

精巧に復元された東京市電5000形

 展示コーナーの東京市電5000形は、従来の木造の車両では急増する乗客に対応できなくなったため、半鋼製の大型車両として1930年(昭和5年)に初めて製造されました。外観だけではなく、乗り込んでみると、運転席のブレーキや圧力計、コントローラーまで精巧に復元されています。鉄道ファンも喜びそうな一角です。この5000形の市電は造りが丈夫だったため、1970年(昭和45年)まで現役で走り続けたそうです。見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

サラリーマンにとって憧れの文化住宅  

サラリーマンにとって憧れだった文化住宅

 もう一つの見どころは、文化住宅でしょう。文化住宅とは、大正の末頃から登場した、小さな和風住宅で玄関脇などに洋風の応接間が造られたものです。当時の新興階級であるサラリーマンにとっては、赤や青の洋瓦をのせた洋間のある家は一種のステータスシンボルで、特に若い世代には憧れだったそうです。

 復元された文化住宅の中に入ることもできて、台所には水道やガスがひいてありました。当時、家事を担った女性たちにとっては重労働からある程度は解放され、大きな力になったことでしょう。茶の間には季節ごとの料理が展示されており、記者が訪れた際にはサンマ(模型)が、ちゃぶ台の上に載っていて、秋を実感しました。

 そして、当時のサラリーマンの生活ぶりを説明するスペース=写真右=もあり、当時の会社員のポケットの中身が紹介され、家計や小遣いなどもわかります。

妖しく光輝くネオン 「ムーラン・ルージュ新宿座」

盛り場の新宿を象徴したムーラン・ルージュ新宿座

 昭和の盛り場の新宿を象徴する劇場兼社交場であった「ムーラン・ルージュ新宿座」のネオンも館内に妖しく光輝いています。軽演劇とレビューが上演されるムーラン・ルージュは、当時の最先端を行く芸能人が活躍し、作家たちが集い、流行に敏感な若者たちを引き付けました。

 1931年(昭和6年)から51年(昭和26年)までの劇場の歴史は、昭和初期の新宿の盛り場の歩みそのもののようです。後藤学芸員によると、「懐かしい」と言ってコーナーにジッと見入るお年寄りの姿もみられるそうです。自らの青春時代を回顧しているのでしょうか。

新宿のうつりかわり パネル展示でたどる

新宿の移り変わりがわかるパネル展示

 そして出口付近には、「戦中から戦後・平成 新宿のうつりかわり」のパネルが展示され、写真で新宿区各地の風景の移り変わりをたどることができます。特に新宿の高層ビルが次々と建ち、その姿を劇的に変えていく高度経済成長期以降は圧巻で、東京都庁も有楽町から新宿に移り、東京の重要な拠点として新宿が位置付けられていく過程が一目で分かります。

 後藤学芸員によると、博物館のホームページでも、新宿区の昔の写真をアップしており、懐かしさに浸ることができます。
※「データベース 写真で見る新宿」は、こちら

 訪れた日は、「近代測量150年記念 測量×地図」と題して、特別展が開かれていました。測量の器具だけではなく、非常に貴重な史料である1881年(明治14年)に参謀本部が測量した東京府(当時)の精巧な地図が展示されています。都内在住の方は、自分の住んでいた土地が明治時代初期、どんな様子だったのかを知ることができます。12月8日までです。

 新宿区内には歴史博物館のほかにも、作家の(夏目)漱石山房記念館=早稲田南町=、林芙美子記念館=中井=、画家の佐伯祐三アトリエ記念館=中落合=、中村つねアトリエ記念館=下落合=の各記念館があり、文化的にも豊かな土地だったことがわかります。秋の行楽シーズンの一日、こうした文化施設を巡って、近代日本、そして昭和の歴史に思いをはせてみるのはいかがでしょうか。(塩崎 淳一郎)

 

新宿区立新宿歴史博物館
【所在地】〒160-0008 東京都新宿区四谷三栄町12-16
【電話】03-3359-2131
【アクセス】都営新宿線「曙橋」から徒歩8分、東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目駅」から徒歩8分、丸ノ内線・南北線、JR中央線・総武線「四ツ谷駅」から徒歩10分
【開館時間】午前9時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
【休館日】第2・4月曜日(祝日の場合はその翌日)
【入館料】一般300円、小・中学生100円
【ホームページ】https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

なつかしスポット巡りの一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事