なつかしスポット巡り

江戸から昭和の建物を味わう「江戸東京たてもの園」(東京・小金井市)

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 来年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、東京の街のあちこちで工事の槌音つちおとがします。移り変わりの激しい東京の街並み、あるいは農村部の風景を彷彿ほうふつさせるテーマパークが、今回ご紹介する「江戸東京たてもの園」です。農家、商家、モダンな洋館、豪壮な和風建築……様々な建物を1日で楽しめるスポットとして、年間25万人以上の来園者を迎えています。

「生活の場」だった建築物、文化的な価値の高い30棟を保存

 都心から離れた武蔵野の地に広がる都立小金井公園の中に、「江戸東京たてもの園」はあります。広さは約7ヘクタール。江戸時代前期から戦後までの文化的価値の高い建造物を復元、展示しています。オープンは1993年(平成5年)3月。既に四半世紀以上の歴史を刻んでいます。東京都歴史文化財団が運営し、東京・両国にある「江戸東京博物館」の分館で、当初は12棟の建物から出発しましたが、今では30棟にまで増えました。

 財団の担当者によると、両国の本館は、江戸時代から現代に至るまでの東京の庶民生活にもっぱら光をあて、都市となってからの江戸、東京を紹介する博物館という位置付け。対する分館としての「たてもの園」は、人々の生活の場となっていた建築物を残すのが目的です。バブル期の再開発などでどんどん古い建物が消えていった1980年代に、その動きに危機感を強めた建築家らの運動によって、移築・保存が進んだそうです。

山の手のモダニズム建築、農村の茅葺き農家

 では、実際に「たてもの園」に足を踏み入れてみましょう。

 正面の入り口に堂々とそびえるように立つ神殿のようなビジターセンター兼展示室は、「光華殿」と呼ばれる建物です。1940年(昭和15年)に、皇居前広場で行われた紀元2600年記念式典のために建てられた式殿です。威風堂々としたたたずまいに圧倒される思いです。

農家の敷地で遊ぶ子供たち

 中に入ると、三つのゾーンに分類されています。西ゾーンには、山の手にあった三井八郎右衛門邸やモダニズム建築の常盤台写真場、田園調布の洋館などがあるほか、多摩にあった茅葺かやぶきの農家、八王子の千人同心組頭(江戸時代の徳川家の家臣団)の家などが並びます。

 山の手と農村地帯というのが、西ゾーンのコンセプトです。農家といっても名主などの富裕層ですので、その造りは立派です。奥座敷などもあり、その格式の高さがうかがえます。また、三井家の邸宅はまさに豪壮という表現がぴったりで、そのたたずまいには、圧倒されるばかりです。

見どころの和風建築 高橋是清や製糸業・実業家の邸宅

 次に光華殿を含むセンターゾーンを見てみましょう。ここの見どころは、由緒ある和風建築です。

歴史の「生き証人」とも言える高橋是清邸

 戦前、大蔵大臣を務めた高橋是清の邸宅もそのひとつで、木々に囲まれた中に立つ壮麗な住宅で、港区赤坂にあったものを移築したのですが、1936年(昭和11年)の「2・26事件」の現場にもなった、まさに歴史の「生き証人」とも言える建物です。訪れる者を粛然とさせる雰囲気が漂っています。

 西川家別邸は、北多摩屈指の製糸会社を設立した実業家が、大正時代後期に隠居所兼接客用に建てたもので、養蚕・製糸業が盛んだった頃の実業家の裕福さが伝わってきます。ほかにも、茶人の建てた茶室などがあり、落ち着いた雰囲気に包まれています。

一番のにぎわい 下町の風情漂う銭湯、商家、居酒屋

 東ゾーンは、昔の商家や銭湯、居酒屋などから、下町の風情が楽しめる区域で、何となくホッとするのは、筆者も町場の庶民の一人だからでしょうか。醤油しょうゆ店や乾物屋、小間物屋の数々には往時の空気を伝える商品などもあり、今にも客寄せの声が聞こえてきそうです。

 

下町の雰囲気たっぷりの銭湯

 銭湯の「子宝湯」は、神社仏閣の屋根を思わせる曲線状の唐破風からはふが印象的で、銭湯がまちなかからどんどん消えていく現在、とても貴重な庶民の文化遺産になっています。「花市生花店」は、モダンな3階建て。中に入ると花々もあって、心底くつろぐ気持ちにさせてくれるのが、何ともうれしいです。

 ほかにも神田にあった万世橋交番、青梅市にあった旅館などが立ち並び、園内でも一番のにぎわいです。店内に入って写真を撮る建築家志望とみられる学生、懐かしそうに建物を見上げるお年寄りの夫婦など、老若男女がそれぞれ楽しめる一大ゾーンになっています。

 この地を訪れる年間約25万人の入場者のうち、8%程度が外国からの人だそうです。担当者は「アメリカ、中国、韓国、エストニア、アイスランド……。様々な古い日本の家々が見られる場所として、口コミで評判が広がっているようです」といいます。

懐かしさを感じる 「回想法」にも向く場所

 新田太郎園長は「かつての日常生活の保存に力を注いでいます。その意味では、お年寄りの皆さんの『回想法』に向いた場所とも言えるのではないでしょうか。車イスに乗った90歳ぐらいのおばあちゃんを、60歳ぐらいの娘さんが押して園内を歩き、『懐かしいねえ』としみじみ語り合っている光景を見たこともあります。懐かしさを感じる場所として、たてもの園を使ってもらえるのは、本当にありがたいことです」と話しています。

 「たてもの園」の魅力について、新田園長は「乾物屋の缶のラベル一つ一つにまで、本物を求めて調査研究を重ね、再現しています。そんなところが来場者を引き付けているのではないでしょうか」とみており、「保存した建物の居心地の良さを体感してもらい、昔の日本人の暮らしを追体験することで、若い来場者の方々が、高齢者を思いやったり、便利さ一辺倒ではない生活のヒントを見つけたりといった場になってくれたら」と話しています。

 筆者は半日をかけてじっくり園内を見学しましたが、帰り際には去りがたい思いに駆られました。往時の記憶のかけらが体のどこかに残っていて、懐かしさがこみ上げてくるようでした。知って、見て、味わうべき懐かしき日本の要素があふれたテーマパークだと思います。

                            (塩崎 淳一郎)

江戸東京たてもの園

【所在地】〒184-0005 東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
【電話】042-388-3300
【アクセス】JR中央線武蔵小金井駅から西武バス「小金井公園西口」下車、徒歩5分。関東バス「江戸東京たてもの園前」下車、徒歩3分。西武新宿線花小金井駅から西武バス「小金井公園西口」下車、徒歩5分。
【開館時間】4月から9月は午前9時30分~午後5時30分、10月から3月は午前9時30分~午後4時30分
【休園日】毎週月曜日(祝日または振り替え休日の場合はその翌日)、年末年始
【観覧料】一般400円、65歳以上200円、大学生320円、高校生・中学生(都外)200円、中学生(都内)・小学生・未就学児童は無料
【ホームページ】https://www.tatemonoen.jp

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