なつかしスポット巡り

木造校舎を活用、ノスタルジー誘う「民具資料展示室」(埼玉・幸手市)

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 埼玉県幸手市に昨年10月、郷土資料館がオープンしました。資料館は古代から現代までの市史を振り返る展示内容ですが、資料館の敷地内にある中学校の廃校舎を利用した「民具資料展示室」は、ひと味違った雰囲気です。

 市民が寄贈した石臼などの生活用具、半纏はんてんなどの衣類、炭火アイロンや蓄音機、そして昭和のテレビゲーム機まで、様々な展示品が、訪れる人のノスタルジーをかき立てています。市内の介護施設の入所者が、「回想法」の実践にも使っているそうです。

懐かしそうに農具を見学する人たち

「埼玉都民」の街と農村風景…郷土の歩みたどる

 幸手市はかつて農村地帯でしたが、高度経済成長期から徐々に東京のベッドタウンとして宅地化が進み、「埼玉都民」の街としての顔も持ちます。一方で、田畑が広がる農村風景も見ることができます。

 そんな幸手市の歴史を振り返るため、昨年10月23日にオープンしたのが、幸手市郷土資料館です。そこには、古代の遺跡から出土した土器、平安時代の平将門ゆかりの品々、江戸時代に日光への街道筋として栄えた幸手宿の地図などを展示しています。オープンの日には多くの市民が訪れ、展示品を見つめ、郷土の歴史の奥深さに感嘆の声を上げていました。

歴史学習から「回想法」の場へ 高齢者を元気にする力も

 その隣に今は使われていない中学校の木造校舎を利用して、民具資料展示室が開館したのは、資料館ができる30年以上前の1984年(昭和59年)のことです。同市教育委員会の原太平学芸員に話を聞きました。

――民具資料展示室が開館した経緯を教えてください。

 原さん 昭和50年代に当時の幸手町で民具を収集する取り組みが盛んになりました。高度経済成長期以降、この地域の生活が激変したことが背景にあります。それまでは農村と幸手宿の町でしたが、人口も増えていき、かつては当たり前の生活用具などに価値を見いだす動きが広まりました。教育委員会、一般町民、文化財関係者の間で収集の機運が盛り上がり、農村を支えた道具を、広い意味での文化財保護として保存することにしました。

――稲作の農具、蚕を育てる道具、古い四本脚のテレビなど、様々なモノが集まっていますね。

 原さん 1986年(昭和61年)に幸手町から幸手市になったのですが、その後、市内の全小学校の3年生になった児童がこの展示室を訪れ、見学するのが恒例になっています。電気、水道、ガスなどのなかった時代に人々がどうやって暮らしていたのかを想像してもらう学習です。

――最近では、介護施設の入所者などを受け入れ、「回想法」を実践する場になっていると聞きました。

 原さん ここ2、3年ですが、それまでは児童の見学がメインだったのが、デイサービスの利用者や職員の方なども来られて、「こんなに昔の道具があるのなら、ぜひお年寄りに見せたい」という要望が寄せられました。展示室側もお話があれば、積極的に受け入れようということになりました。実際、ここをお年寄りが訪れると、ふだんはめったに言葉を口にしない方がしゃべりだすなどの反応があるそうです。今では、福祉の側面から、展示室の可能性を見いだしています。展示室が回想法の場になり、脳が刺激されることで、精神状態が安定し、認知機能の改善や認知症予防への効果があると期待されています。市として効果を科学的に検証したわけではありませんが、高齢者を元気にする力はあると考えています。

鉄かぶとや水筒見て、石臼を回す…半鐘に「その音は鮮明に記憶」

かつては農家の必需品だった石臼

 郷土資料館は鉄筋コンクリートの立派な建物ですが、展示室は木造平屋建てで、中に入ると、どこか懐かしさをかき立てます。かつての校舎に響いた生徒の声が聞こえてきそうです。教室として使われてきた部屋や廊下には、所狭しと民具の数々が展示されています。農具や農家にあったタンス、あんどん、出征した兵士が持ち帰った鉄かぶとや水筒、消防ポンプ、川で魚をとる漁具もあります。

 実際に石臼を回すこともでき、記者も挑戦しました。なかなか重く、「ゴリゴリ」という音を聞きながら、やっとのことで回しました。

 ちょうど、その時に来館していた高齢者の女性は、半鐘をじっと見つめていました。「子どもの頃、この半鐘が鳴ると火事が起きたと分かったものでした。今でも、その音を鮮明に覚えています」と語り始め、みのかさの展示場所に差し掛かると、「小学校の頃は、げた履きで通っていましたが、雨が降ると裸足はだしになって歩きましたね」と、懐かしそうに見つめていました。

 また、お神輿みこしを見て、「昔は祭りが本当に楽しみでした。それはそれは、にぎわったものです」と笑顔を見せていました。

テレビゲーム機や電卓も展示 平成生まれには「もはや歴史?」

 40歳代の記者にとって意外だったのは、昭和後期のテレビゲーム機や電卓といったものまで民具として展示されていたことです。一昔前のテレビゲーム機などは、記者にとっては小学校時代などに遊んだ同時代のものですが、平成の後半に生まれた今の子どもたちにとっては、もはや歴史なのでしょう。記者もいつか年齢を重ね、こうしたテレビゲーム機を見て、懐かしさが胸に迫るようになるのでしょうか。                                                  

(塩崎 淳一郎)

幸手市郷土資料館・民具資料展示室
【所在地】〒340-0125 埼玉県幸手市大字下宇和田58-4
【電話】0480-47-2521
【アクセス】東武スカイツリーライン東武動物公園駅から、朝日バス境車庫行きで約15分「吉田橋」下車、徒歩5分
【開館時間】午前9時~午後5時(6月~9月までの土日と祝日は午前9時~午後9時30分)
【休館日】月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始
【入館料】無料
【ホームページ】http://www.city.satte.lg.jp

 

 

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