辻仁成「太く長く生きる」(69) 「還暦からの人生、万歳!」

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10月12日のオーチャードホールで会いましょう。

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 今年の10月4日で還暦を迎えてしまう。子供の頃、還暦と言えば、なんとなく「お年寄り」「おじいちゃん」というイメージがあった。小さい頃、人生についていろいろ教わった大好きな祖父が、そのくらいの年齢であった。生前の祖父の写真を見る限り、間違いなく60歳は高齢者に思える。けれども、人生百年時代を迎えつつある昨今、その先がまだ40年もあるというのに、まだぜんぜん働ける身体なのに、老後の中だけで生きていっていいのだろうか?

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 そもそも、この高齢者という呼び方をどうにかしないとならない。先日の東京ライブでは連続4時間熱唱した。何か自分の年齢にあらがうことを、今は生き甲斐がいにしているようなところがある。還暦というのは生まれ変わる年齢だそうで、本来は新たな出発を意味していた。ここから始まる余生40年の旅はあまりに長い。世界一の長寿国である日本の国民は、特にそのことを意識して人生を生きていく必要がある。仕事がある今よりも、その後の人生を真剣に考えたい。還暦を迎える僕の今の一番の楽しみは精神的に生まれ変わって、新しい 自分の可能性に向き合ってみたいということであろう。

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 誕生日の8日後の10月12日、東京 bunkamuraオーチャードホールにて、「RENAISSANCE ~60th ANNIVERSARY CONCERT~」と題した我が人生を総括するソロコンサートを開催することが発表になった。Renaissance という語は本来「再生」「復活」(re- 再び + naissance 誕生)を意味するフランス語である。もともとはギリシャ、ローマ時代の文芸復興運動のことを指した。「再生」、まさに還暦を迎えようとしている僕にぴったりの言葉だと思った。残りの人生を消化試合のように生きることなど、僕にはできない。病気になることばかり恐れていても、なる時にはなる。ただ長生きをすればいいという考えは僕にはない。与えられた一生なのだから、一瞬一瞬を切に生き抜くことを第一の目標に掲げて前向きに生きていきたい。

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 正直に言えば、オーチャードホールを満杯にする自信がないので、主催者さんに何度かお断りをさせていただいた経緯がある。しかし、ECHOESの時代から僕の音楽を支えてきてくれた主催者の一人が「仲間がみんな結集します。全国のファンが集まってくれます。それだけ生きたのだから、堂々とやりましょう」と言った。つまり、60年生きるということはそれだけの方々との出会いがあったということ。自分一人ではないのだ。60歳からの人生は、新旧の仲間たちに支えられて生きていく第二の人生ということだろう。

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 僕はこの通り、自由気ままに生きてきた。主義主張が激しいから誤解も招くし、若い頃は生意気だとよく大人たちに叱られた。何度もテーブルをひっくり返してきたが、自分にだけはうそをついたことがない。そういう人生も、気が付けば正直に生きたからこそ、多くの仲間たちとの出会いがあった。友情が何よりの財産となっている。オーチャードホールが満杯になるかどうかわからないけれど、そこへ仲間たちと向かっていくという人生は悪くないし、そこから人生の再生が始まる。

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 最近はフランスで音楽活動を続けているので、こちらのミュージシャンたちも連れていきたい。日本にはもっと多くの音楽の仲間たちがいる。彼ら彼女らが大挙、僕の還暦を祝うために集まってくれるというのだから、有難いし、頑張らなければ……。そして、今年は作家生活30周年にもあたる。ピアニシモで「すばる文学賞」を受賞したのは30年前の10月だった。いっぺんにいろんな行事が押し寄せてくる一年になりそうだが、まずは10月12日のオーチャードホールで我が人生の総括をしたい。元気で若々しい辻仁成を皆さんに見せつけてはじけることが、僕を応援してきてくれた人々へのお返しでもあろう。人生百年時代に相応ふさわしい辻仁成の活動元年にしてみせたい。 

 

今日のひとこと。 『若返りたいとは思わない。今のままの自分を精一杯せいいっぱい生きてこそ』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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辻仁成「太く長く生きる」