辻仁成「太く長く生きる」(68)「SNSのテーマパーク」

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SNSを駆使して僕は新しいプラットホームを作る。

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 とある人に「滞仏日記を毎日楽しみに読んでいます」と言われた。僕が笑顔で「ありがとう」と告げると、彼は眉根をひそめて「でも、あれ、お金にならないのでしょ? 毎日書いているのに」と耳元でささやかれた。原稿用紙で6枚ほどの日記と称する日々雑感エッセイは確かに一銭にもならない。それを言うのであれば、息子とはじめたYouTubeの2Gチャンネルも一日がかりで撮影をし、数日かけて編集をしているけど一銭にもならない。ツイッターもインスタグラムもフォロワーさんはそれなりにいらっしゃるけど、お金にはならない。

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 これらのことをやるのに、僕は多くの時間と労力を奪われている。たぶん、同業者は「なんてもったいない」と思うかもしれない。その通りだ。同じ時間を割けば何冊かの本を出版することも可能なはず。なんで僕はこんなに真剣にSNSと向かい合うようになったのだろう。そこにいったいどういう意味や目的や活路を見出みいだしているのであろう。

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 滞仏日記を配信している場所は『Design Stories』という僕が編集長を務めるウェブマガジンだ。実験的に始めたのが3年前のことだが、このサイトを構築し運営するのに、毎年、実はけっこうばかにならないお金がかかっている。九州のデザイナーがデザインをし、大阪の構築会社が管理している。毎月の管理費も必要だし、ばかにならないのは取材費。世界各地に出かけ取材をするので、当然、交通費、人件費、旅費、時にはカメラマンの費用もかかっている。僕のような一作家が支出するには決して少なくない額のお金を投下してきた。

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 書いているのは僕だけじゃない。僕と同じように何かを発信したいという海外在住の日本人たちが、異国で生きながら思ったことや経験したことをもとに記事を書いてくださっている。その数は世界各地に点在し、70人を超えた。僕が校正をし、時にはリライトなどもやる。なんとなく、僕が直接編集をやるので書き手は喜んで書いてくれているのかな。これが結構大変な作業で、配信がおいつかない。だから編集アシスタントなんかも雇っている。僕がアルバイト料を払っているのだ。個人事務所も総動員で運営している。なんのために? わからない。でも、おかげさまで『Design Stories』は創刊から3年目で月間60万~80万PVほどの閲覧者が集うようになった。これは少しずつ増えているので、ひとまず100万を目指したいな、と思っている。

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 YouTubeの2Gチャンネルは8か月目ほどが過ぎたけど、再生時間で4000時間に迫っている。こちらもカメラを買ったり、編集機材を買ったり、地方に撮影に行く時には宿代とか旅費とかが必要となる。しかし、相棒の息子は「定期的にもっと配信を続けないとだめだよ。この程度で満足したら」と厳しい評価だ。ツイッターのフォロワーは20万人を超え、インスタも3万人を超えた。何を考えているんだ俺は、と思いながらも、じわじわとこちらも読者、閲覧者が増えている。面白いことにこれらのSNS発信は静かに連動しながらも、それぞれの読者、フォロワーを獲得し、巻き込みながら別々の方向へと動いている。『Design Stories』とツイッターは文字族の間で共有されつつあり、2Gチャンネルとインスタグラムは映像ビジュアル族の間でのつながりを持ち始めた。意外なことだがツイッターのフォロワーとインスタのフォロワーのだぶりは少ないし、同じ内容の投稿をしても、反応は驚くほどに異なる。文字から入る人と映像から入る人とが別々な角度から僕をとらえているということかもしれない。(FBはやってない。いろいろな理由があるけれど、承認を断れないので)

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 僕はこれらを通して世界を立体的に俯瞰ふかんしている。立体的に俯瞰という表現が適切かどうかわからないけれど、今、SNSの需要が増えるこの世界で、要は何が起こりつつあるのかを分析している。そして、最近のことだが、いっそ文化のプラットフォームを建設したらいいのじゃないか、と思い始めた。『Design Stories』で2年前からスタートした25歳以下の若い芸術家を対象にした新世代賞は教育関係者や学生たちの間で急速に認知されてきた。こちらは最近大手企業がスポンサードしてくださることになり、金銭面での負担は回避された。メセナ企業が僕の考えを支援してくださり、賞金や副賞の海外留学費用を捻出してくださっている。それでも僕の活動はボランティアになるので、ここから利益が生まれることはない。まだ、ゴールは見えていないけれど、きっともっともっと面白いことが出来るのじゃないだろうか。言うのはカンタンだけれど、個人でここまでやるのは相当に大変なことも事実だ。僕はきっとSNSのテーマパークを作りたいのかもしれない。もう少し、私財を投下して遊んでみようと思っている。

 

今日のひとこと。 『誰もが発信できる時代に表現することの自由さと難しさがある。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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