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介護職は「幸」贈る仕事……安藤優子さん、杉本浩司さんが対談

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 2025年にはすべての団塊世代が75歳以上となり、介護を必要とする人や認知症になる人は、さらに増えるとみられます。親の介護に苦悩している人も多いのではないでしょうか。認知症の母を介護した経験を持つキャスターの安藤優子さん(60)と、介護の魅力を発信する介護福祉士の杉本浩司さん(41)に、介護の大変さや大切さについて話し合ってもらいました。(聞き手・医療ネットワーク事務局長 池辺英俊、写真撮影・奥西義和)

介護をテーマに対談した安藤さん(右)と杉本さん

ヘルパー次々と辞めさせた母、許容できず自己嫌悪に……安藤さん

あんどう・ゆうこ キャスター、ジャーナリスト。1958年、千葉県生まれ。上智大学在学中から報道番組に関わり、卒業後、ニュース番組でキャスターをつとめ、取材・リポートを重ねる。現在、「直撃LIVE グッディ!」のメインキャスター。

 安藤 認知症の母を、母の自宅で介護しました。症状は次第に重くなり、鍋を火にかけたのを忘れて焦がしたり、不要なトイレットペーパーが山積みになったり。介護を姉と分担しましたが、私にも家庭があり、仕事では海外出張や災害発生の呼び出しが頻繁にあってヘトヘトになりました。ホームヘルパーを頼んでも、母はどなりつけて次々に辞めさせてしまう。

 杉本 認知症の人は最初、自分の変化に混乱します。不安になり、怒りや寂しさも混じります。35人のホームヘルパーを辞めさせた人を知っています。

 安藤 母は他人に家に入られること、台所を使われることに強く抵抗しました。

 杉本 プライバシーをさらけ出すので当然です。私は8年間ヘルパーをやりましたが、たたかれながら調理したこともあります。むしろ拒否反応がないと、自尊心を失ったのかと心配になりました。

 安藤 母には「優子、優子」と30秒ごとに呼ばれました。料理や洗濯がそのつど中断され、「いい加減にして」と声を荒らげました。母を許容できない自分を責め、自己嫌悪に陥りました。

 杉本 責めなくていいと思います。後で本人に謝り、だれかに後悔の念を伝えて、自分の気持ちを整理することが大事です。

認知症の辛さ抱え込まないで、第三者入れてゆとりを……杉本さん

すぎもと・こうじ モデル出身の介護福祉士。1977年、千葉県生まれ。日本福祉教育専門学校卒業後、特別養護老人ホームや訪問介護事業所に勤務。2008年から介護の魅力を伝える講演活動を続けている。メディカル・ケア・サービス株式会社所属。

 安藤 社交的できれい好きだった母はどこに行ったのか。目の前の母を認められませんでした。過去の母を肯定し、現在の母を否定していたのです。

 杉本 実の親だからこそです。義理の親を介護する方が冷静でいられるといいます。介護職も他人だから許容できる。第三者が入れば、介護する人にもゆとりが生まれます。
 介護職の本格的な支援によって、興奮していた高齢者が穏やかになる、寝たきりの人が歩けるようになるケースはあります。抱え込まず、地域包括支援センターなどに相談してほしいです。

 安藤 専門家の力を実感したのは施設に母を入れたとき。家を離れることを拒む母に、「家の水道が壊れた」とうそを言いました。母は「こんな所に連れてきて」と暴れましたが、1か月もたつと慣れました。スタッフの真心や誠意に打たれたようでした。
 「臨床美術」との出会いも転機でした。テーマを決め、思い出を回想して絵を描きました。旅でよく行ったハワイのテーマで母はアンスリウムの花を描き、絞り出すように「よく、で、き、た」と言いました。それ以来、母は驚くほど穏やかになりました。
 発症後、好きな旅行や料理、電話ができなくなった母は自己否定の塊となり、怒りを周囲にぶつけていたのです。でも、絵を描くことで「自分にも何かできることがある」と、自分を肯定できたのです。

 杉本 若年性認知症の知人も「弱った記憶力を補う工夫をして楽しめばいい。自分を肯定した時から人生が変わった」と話していました。安藤さんも、絵を見て心境に変化はありましたか。

 安藤 私は母の絵を見て泣きました。明るさと大胆さ。母の感性はそのままでした。母が認知症であることを恥じていた自分に気づきました。

亡くなる日まで食事できた、施設のスタッフに感謝……安藤さん

 杉本 介護保険制度が始まった2000年頃、認知症の人を隠す雰囲気は強かった。ヘルパーはこっそり出入りしなさいと家族から言われ、車は家から数百メートル離れた所に止めましたが、今はだいぶ変わりました。
 介護のやり方によっては、高齢者から活動の機会を取り上げ、認知症を悪化させてしまう。食べこぼしをするからといって一律にエプロンを着けるのではなく、まず介護職が食器を高齢者の口元に近づける工夫をするべきです。介護職は、自力で食事や排せつをしたいという高齢者の目標達成を手助けするパートナーであるべきです。

 安藤 介護現場での人手不足が課題だと感じます。

 杉本 若者は医師や保育士といった職業に憧れますが、介護職に魅力を感じる人は少数派です。介護の現場が若い人の目に付きにくいから、仕事があまり理解されていません。介護職はもっと街へ出るべきです。助けを借りて買い物や旅行に出る高齢者の姿を見せれば、介護する人も介護される人もイメージが良くなります。介護職は「辛(つら)」いと言われますが、横棒を1本足した「幸」せをプレゼントする職業です。

 安藤 施設のスタッフの支えもあり、母は薬の使用をやめてから意識がはっきりし、食欲が戻りました。89歳で亡くなる日の朝までご飯を食べていました。感謝しています。

 杉本 2020年東京五輪・パラリンピックの開会式に、要介護者用の席をたくさん用意してもらえるとうれしいです。お年寄りも開会式を目標にきっとリハビリに励むと思います。

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