辻仁成「太く長く生きる」(67)「子育てのプロ」

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辻家、最近の朝ごはんは和食ブームです。豚汁うどんとおにぎり、厚揚げ。笑。

 ◇ ◆ ◇  

 息子が15歳になりました。僕がシングルファザーになった時、息子は小学生の高学年でした。光陰矢のごとし、と言いますけど、もちろん、あっという間ではなかったにせよ、気が付けば今年の九月から息子は高校生です。小学生から高校生になるまで、よく二人きりでやって来れたな、と思います。振り返りたくないですね。過去を今振り返ると、この先進めそうもない気がするのが「子育て」というものかもしれません。登山に似ています。断崖絶壁を登る人は下を意識せず上を見て登るのじゃないでしょうか? 今の僕はまさに頂上しか見ていません。頂上というのは、彼が社会人になる時です。それが7年後か10年後かわかりませんが、その時までひたすら登り続けるしかありません。

 でも、子育てに自信が出てきたのも事実です。シングルファザーの人があまり周りにいないので比較はできませんが、僕の場合、親戚も自分の親もパリにはおりませんから、ほぼ一人で育てなければなりませんでした。子育てのプロフェッショナルになるしか道がなかったのです。親は誰でも子育てのプロかもしれないですね。

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 僕の子育ての基本理念を紹介させてください。
1.自分がされて嫌なことは子供に絶対しない。
2.自分が言われてがっかりするような傷つくことは絶対子供には言わない。
3.自分がされてうれしいことは子供にもしてあげる。
4.子供の頃、自分が褒められて前向きになれたのだから、同じように息子のいいところはどんどん褒めてあげる。

 たいしたことはでありませんが、この四つだけはずっと守ってきました。子供を育てる上で一番大切なことは褒めることです。しつけという言葉は結構ですけど、犬や猫のように躾けるというわけにはいきません。子供はいいところも悪いところも親の行動を見習うので、躾をする前にまずは自分自身が気を付ける必要もあります。子育てはそういう意味で、親の背筋を伸ばす道でもあるわけです。

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 叱るというのと怒るというのが異なるように、子育てにはちょっと勘違いをすると大変な失敗をしてしまうようなデリケートな問題も含まれています。だから、僕は子供のいいところを発見するプロになろうと最初に決意したのです。そして、僕は子供のいいところを積極的に発見する役目を担いました。とにかく、いいところをどんどん褒めていきます。人間、自信がつくと可能性が広がりますね。怒られて、ダメと否定され、叱られ続けて、子供が伸びるでしょうか? 褒められて自信がついた子供は、いろいろなことに発奮し頑張るようになります。褒め上手になり、子供のいいところを伸ばしてあげることで、同時に、彼の苦手な部分が克服されるようになりました。

 息子はフランス語が得意で社会とか算数が苦手でしたが、褒めて褒めて褒め続けたところ、フランス語で一番をとり、自信を持つようになったのです。するとどうでしょう、算数や社会など苦手科目も向上しはじめました。息子が一つでもいい結果を手に入れたら、もう我が家は一日中お祭り騒ぎ。一科目でもいい成績のものがあれば、そこから大きく切り開いていくことが出来るわけです。これは成績のことだけじゃなく、人間性や愛情など、あらゆることにつながりますね。

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 さて、15歳くらいになると子供は親を拒絶するようになります。反抗期ですし、思春期の真っ盛りですから、下手なことは言えません。そこで、僕は子育ての基本、番外編を編み出しました。それは、

5.干渉しない。

 という付き合い方です。15歳になってからは、べったりよりも、適度な距離が必要かもしれません。親を「うざい」と思うのは成長の証し、自分を振り返っても経験のあることですから、特別素直ないい子じゃなくてもいいのです。適度な距離を保つことが健全な関係を構築します。今日は夕食後、彼の時代の音楽と僕の時代の音楽との比較をしました。珍しく長話になりました。45歳の年の差がありますが、音楽を通せば仲間です。今日はいい関係を築けたと思います。でも、用心用心。明日の朝にはまた不機嫌に戻っているかもしれません。そこはまだ15歳ですから、口をきいてくれない日もあります。でも、彼も社会を抱えて頑張っているわけです。親に口ごたえしたり、返事が多少横柄なのは子供の特権ですし、甘えです。

6.子供を大目にみる。

 そうだ、これも付け加えておきましょう。

 

今日のひとこと。 『親は誰もが子育てのプロなのです』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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