辻仁成「太く長く生きる」(66)「還暦というはじまりの年」

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毎週土曜日、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト運動)の人たちのデモは続いています。

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 新年あけましておめでとうございます。去年も健康に気をつけて生きてまいりましたが、今年はいよいよ60歳という大台に達します。作家生活も30周年を迎える今年、特に健康面には気を付けて頑張って生きていきたいと心に誓っている次第です。

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 還暦というのは、生まれた年の干支えとに再び戻るということから、数え年の61歳の年(満60歳)のことを指します。そもそも、還暦というお祝いがはじまったのは鎌倉時代だと言われています。当時の寿命は短かったので、60年も生きたのなら、みんなでお祝いをしましょうということで還暦がはじまったのだとか。今でなら80とか90歳くらいのイメージでしょうね。厄年についても、なんで男が42歳、女性が33歳なのかというと、そのくらいの年齢で旅立つ人が多かったからだという説があります。しかし、長生きをするようになった日本人にとって、還暦の考え方も変わってきているのじゃないでしょうか? 今時の60歳は「初期高齢者」とか言われますが、実際は男性も女性もまだバリバリの働き盛りで、老人という呼ぶには大変失礼……。なので、僕は個人的にこの還暦を人生の再出発を祝う年と決めています。再び生まれる年が還暦というのが素晴らしいですね。

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 平均寿命が延びた日本人にとって、ここからの人生もまた長い。若かった頃の、夢があった時代とは違い、人生を終結させるために残り時間をどう生きるのか、ということに中心が移る時代かと思います。仮に90代まで生きるとなれば、まだ30年以上も生き続けなければなりません。その最終コーナーへ向かって、人生のかじ取りの心構えを持つ一番いいタイミングが還暦じゃないでしょうか? 今まで生かされてきた60年間を含め、あらゆることに感謝をする年でもあるのかな。

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 今年、僕は10月の4日で60歳になるので、その月に何か記念すべきことをやりたいと計画しています。これから新しい挑戦をはじめるためのロケット発射台を建造したいのです。人間は何歳まで夢を持つことができる?と幼い息子にかれたことがありました。何歳でも可能だよ、と僕は答えました。それを実践するために、僕は還暦の今年を大きなステップにしてみせたいのです。1989年の10月5日にすばる文学賞を受賞して作家になりましたから、こちらも今年10月で作家生活30周年を迎えることになります。早いものです。音楽はプロデビュー35周年です。映画は25年目の節目になります。いろいろとあった人生ですが、このように多くの作品と関わってくることができました。自分の作品や自分が関わった編集者やスタッフに感謝する年にしたいと思っています。生きているかぎり、感謝を忘れてはなりませんね。感謝は一つの区切り。どんな時にも、ありがとう、と言えば、ありがとう、が返ってきました。なので、僕は60歳という記念の年に、今までで一番大きなありがとうを言わせてもらいたいと思います。

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 そして、そこから新しい辻仁成がスタートするのです。僕にはまだ多くの夢があります。ここから新しい気持ちで再び前進をしていきたいと思います。与えられた、たった一度の人生。どういうふうに生きたとしても、それは自分の一生です。僕は死ぬその時まで、全力で生に浸り続けたいと思っています。立てる限りステージの上にのぼり、書ける限りの小説を発表し、撮れる限りの映画を残していきたい。今を切に生き切ることが、僕にとっての一番の長生きの秘訣ひけつになれば幸いであります。

今日のひとこと。 『還暦は新しい人生が再びはじまる年』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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辻仁成「太く長く生きる」