辻仁成「太く長く生きる」(64)「フランスはどこへ行く」

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健康維持に毎日散歩。冬のサンマルタン運河にて。

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 個人的に今年後半のフランスを振り返ると、「ジレ・ジョーヌ(黄色の安全ベスト)の暴動」と「ゴーン氏逮捕」の二つが大きなニュースだった。なんとなく同じタイミングでこの二つが起こり、しかも、どこか根っこでつながりを感じる。どちらにも関係しているのがマクロン大統領だったりする。

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 ルノーの筆頭株主はフランス政府であり、ルノーと日産連合誕生にかかわったのもマクロンさん、今回の暴動の引き金になったのは燃料税の引き上げやガソリン価格の高騰で、ここにもマクロン大統領が深く関係している。偶然なのだろうが、どちらも自動車が関係していて、そこに日本が無縁ではないことも気になる。それぞれの行方が不透明なことも気になる。

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 ジレ・ジョーヌ運動はフランス革命と比較されることが多い。デモというのは、だいたいどこかの労働組合だったり、宗教団体だとか、LGBT(性的少数者)などが組織的に主導しているが、今回のデモは様々な意見を持った市民の中から起こった、強い指導者不在の市民運動である点が興味深い。燃料税の撤廃要求がはじまりだったけれど、こじれにこじれてここに来て、「大統領の辞任」が共通のスローガンになってきた。一般民衆の声を政治に反映させろ、という直接民主制の要求「RIC」というキーワードまでが登場し、燃料税どころの問題ではなくなりつつある。法律で大統領の解任というのはあり得ないようだが、決して楽観できない状態が続いており、これが2019年にどういう形で広がっていくのかも不透明。

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 ゴーンさんの問題は、フランスの新聞などでも勾留の仕方への批判が相次いでいるが、この辺の人権問題はフランス人が一番気にするところ。しかし、知識人とは違う意見が労働者の中では出ている。コストカッターとして有名だったゴーンさんの経営手腕を、当の労働者たちは日本の労働者と同じ感覚で見つめている。こちらの番組の中で、ジレ・ジョーヌのデモ隊へのインタビューがあり、その中でゴーンさん逮捕に言及している人がいた。逮捕されて当然という意見であった。しかし、このゴーンさん逮捕劇も何か不透明感を増しているし、デモ隊は年末年始でちょっと休憩している感じはあるものの火種はくすぶり続けているし、ストラスブールではこの仏暴動騒ぎに乗じるテロも起きた。

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 3年前のテロ事件以降、フランスの観光業には大きな打撃が続いているが、ここに来てジレ・ジョーヌの暴動で観光客の足は遠のきフランスの経済に不透明感が増している。パリ中心部のホテルの稼働率は半減しているという話もある。先日、たまたまパリの老舗デパートのボンマルシェに買い物に行ったところ1階の高級ブランド、シャネルやボッテガなどがそろってシャッターを閉めていた。守衛さんに聞いたところ、ジレ・ジョーヌの一部がデパート内に乱入してきたためにとった「転ばぬ先の杖」的な措置であった。

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 パリ16区の友人の家の前では自動車が燃やされ、大通りのほとんどの商店が破壊された。友人の日本人が支店長を務めるヴァンドーム広場の宝石商でも大きな被害が出た。けれども、「イスラム国」による同時多発テロの時も同じだったが、フランス人はこういう中でも普通に生活をおくっている。デモ慣れしているというのか、実は彼らには、今回のデモに関しては仕方ないという気持ちがあるようだ。市民の声が反映されない政治に対するもどかしさ……。ギャラリー・ラファイエット前でジレ・ジョーヌが道を封鎖していて、私の運転する車は目的地までかなりの迂回うかいを余儀なくされた。その時、普段ならクラクションを鳴らす周囲のパリジャンの運転手たちが「仕方ない」という顔をしていたのが印象的であった。本当は自分たちもデモに参加したいけど現実できないから、今回は目をつむるという感じである。

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 日産とルノーの問題も、現実問題としてこの両者の離婚は簡単ではない。世界販売台数トップの自動車連合に成長したルノー・日産・三菱連合劇は、ここからが第二幕のはじまりであろう。ジレ・ジョーヌ運動劇も同じかもしれない。鬼に笑われるので来年の話はやめておくが、フランスはそれぞれが着地点を探す2019年になりそうだ。

 

今日のひとこと。 『今年もいろいろありましたが、良いお年をお迎えください。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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