辻仁成「太く長く生きる」(63)「パリ食い意地倶楽部発足」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

前菜は「赤い野菜のジュレケーキ」底にサーモン、周りはざくろとフランボワーズのソース。

 ◇ ◆ ◇  

 パリで暮らしだして17年、毎年秋から冬にかけてのこの季節が楽しみでなりません。美食家ではありませんが基本がしっかりした食べ物が好きです。それを食べると季節が分かるものが特に好きでして、この季節のパリならばキノコ、牡蠣かき、それからジビエでしょうか。年間を通して毎週通っている行きつけの市場の表情がまるで変わってきます。

 ◇ ◆ ◇  

 そんな料理好きな小生、この時期になると出張料理人としてあちこちに招かれます。市場で美味おいしい食材をたくさん買い込んで食道楽な連中が集まる場所に出向き、料理を作るのですが、これが楽しい! 料理はストレス解消になりますし、みんなに喜ばれる行為です。

 ◇ ◆ ◇  

 ということで、このたのしみが高じまして、ついにここパリに「食い意地倶楽部クラブ」なる日本人会を発足させてしまいました。会長はおなじみの中村江里子さん、私が副会長です。中村さんは在仏歴がちょうど私と同じで、子育てしながら日仏を行ったり来たりというところまでそっくり。もちろん、食道楽ですから、意気投合しないわけがありません。せっかくだから、パリ中の美味しんぼうを集めて料理会をやろうということになったのです。

 ◇ ◆ ◇  

 第1回目はハンガリーの煮込み料理、グーラッシュを和風にアレンジした一品や、かもを焼いて蕎麦そばで食す一膳だったり、加賀棒茶のブランマンジェなど、アミューズからデザートまでフルコース6皿をご用意させていただきました。第2回目はヤリイカのアヒージョをイカ墨のパスタに絡めたメイン、この季節ならではの野菜とサーモンをパテにしたケーキ仕立ての一品などを作りました。

 ◇ ◆ ◇  

 中村江里子さんのご自宅のキッチンが本当に素晴らしくて、広くて、可愛かわいくて、まるで三ツ星レストランの厨房ちゅうぼうのようです。キッチンのお隣にはレストランのホールくらいある食堂までくっついているのですから、びっくり。キッチンの真ん中には大きなテーブルが置かれており、ゲストはそこに座って、料理する僕を観劇しながら食べるという趣向です。

 ◇ ◆ ◇  

 料理をしながらおしゃべりをするというのも新しい試みで、とっても楽しかったです。やはり、食べることってエンターテインメントですからね、そして、生きる喜びでもあります。美味しいものを楽しい人生に持ち込んでこその長生きじゃないでしょうか。美味しいものをみんなで食べる、これに勝る道楽はないと思います。笑って、満腹になって、人は幸せになるのでしょう。美味しいところには平和しかありません。

 ◇ ◆ ◇  

 パリの食い意地倶楽部は今後も中村邸のキッチンで集会を続けていく予定ですが、このことがきっかけとなって、私はついに「2Gクッキング」という料理番組をYouTubeで配信し始めることになるのです。第1回は「煮卵」、第2回は「フランス風肉じゃが」です。誰でも出来る簡単料理が基本となっております。パリの自宅のキッチンにカメラを持ち込んで撮影編集した数分の番組なんですが、視聴者の皆さんに高評価をいただいております。パリ食い意地倶楽部で出す辻家の料理を今後も2週間に1度くらいの割合でアップしていきますので、どうぞ、皆さま、チャンネル登録よろしくお願いします。

 ◇ ◆ ◇  

 普段は、息子が登校した後は独りぼっちで過ごすことが多い小生ですが、2Gクッキングや食い意地倶楽部をはじめたおかげでここ最近はシングルファザー人生も楽しくなってまいりました。独りぼっちのランチじゃつまらないですからね、子供が学校に行ってる間は美味しく羽を伸ばさせていただきたいと思います。皆様とは2Gでお会いいたしましょう。それでは、ボナペティ!

 2Gチャンネル

 フランス風肉じゃがの作り方(アッシ・パルマンチエ ア・ラ・ジャポネーズ)

 半熟とろとろ煮卵の作り方 

 

今日のひとこと。 『小生、主夫業に疲れた時は何か美味しいものを食べに行きます。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

辻仁成「太く長く生きる」