辻仁成「太く長く生きる」(60)「子役オーディション」

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「子役のオーディションを審査する筆者、右がプロデューサー、左がカメラマン。」

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 映画「真夜中の子供」の子役オーディションが行われ無事に2名を発掘することが出来ました。舞台となる博多中洲のある福岡県を中心に「博多弁を話せる子供」という条件で募集しました。応募総数はわかりませんが最終選考に残ったのは100人程度。過去、アントニオ猪木さん主演で話題になった映画「ACACIA」(東京国際映画祭コンペティション招待作)や前作「TOKYOデシベル」でも重要な子役をオーディションで選んでいます。今回は7歳前後の主役とヒロインの2人になるのでさらに時間をかけての募集だったのです。

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 7歳と言えば小学校の1年生。ほとんどの子供は親御さんの意思でやってきます。中には何が何でも役者になりたいという子もいました。面白いことにほとんどの子供たちが福岡市内のプロダクションに在籍しているのです。どうやって地方でこういうプロダクションを維持していけるのだろう、大変だろうなあ、と思い、付き添って来たマネージャーさんに質問したところ、一つの子役プロダクションだけで千人もの在籍があるのだとか…。赤ちゃんの頃から在籍している子もいるのだそうです。もっと驚いたのは在籍するのに私立学校の入学費並みの在籍料がかかるということ。金額聞いてびっくりしました。そして週に1度のレッスンのお月謝は1万7000円なんだとか。それが千人だとどのくらいのもうけになるのか、ふふふ、思わず計算してしまった次第です。ほぼ全国の大都市にこのようなプロダクションがあるようで、いくつあるかわかりませんが福岡だけでも大手は数社あるわけですから、数千から1万人くらいの子供たちが登録をしている計算になります。赤ちゃんにはもちろん役者になりたいという意思はないので、親御さんの強い思いなのでしょうね。実際、オーディションの最終に残った子たちにいたところ「親が勝手に登録したので自分はなんで芝居をしないとならんのかわからん」という返事が戻って来て一同大爆笑。じゃあ、やめるかい?と訊くと、「よろしくお願いします!」と元気な返事が戻ってくるのでまんざらではないようです。

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 ぼくは子役のオーディションが大好きです。なぜなら、子役には大人の俳優たちのような「なにがなんでも使ってください」という売り込みがないから。中には大人びた子(演技は確かに上手!)もいますが、残念ながらぼくはそういう子を求めていないので最初に候補から外していきます。子役を使う利点は映画の中に芝居とは違う、つまり手あかのついていない自然体の存在を、配置できる点です。彼らがナチュラルに演技すればするほど周囲の大人たちも肩の力が抜け自然な演技をやるようになります。文体に癖があるように、芝居も長く続けているとその人の余計な手癖のようなものがにじみはじめます。そういうものを排除するためにも商売っ気のない子供たちが映画の中に流す風が好きです。子供で泣かせるのはずるいとか言われますが、私は親だから涙を流すのは子供のことが正直多いです。子供を中心に回る世界を今後も書き続けていきたいと思っています。

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 子役は五つのグループに分かれ、オーディションが行われましたが、気になった子たちは次のオーディションにも参加させ、何度も何度も同じ芝居をやらせました。なぜ自分だけ毎回居残りをしているのかわからん、という感じでしたが、彼らが何かを感じ取り、どんどん光を放っていくのを監督である私は見逃すことはありません。実はこの2人、予選の段階から期待されていた子たちのリストには入っていませんでした。ぎりぎりここに潜り込んだいわば補欠の子たちだったのです。けれども、ぼくは彼らの一挙手一投足を見逃しませんでした。結果として大満足しています。遅れてやって来た撮影カメラマンが2人の演技を見て、いやあ、辻さん、決定だね、と笑顔で言いました。新しい才能を発掘出来たと確信しておる次第です。

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 映画「真夜中の子供」は順調にいけば来年2月ごろにクランクインし、山笠が終わる7月15日にクランクアップの予定です。公開は2020年の春を予定しています。どうぞ、皆様、劇場でこの選ばれた子役たちのナチュラルな演技をお楽しみください。

 

今日のひとこと。 『人生は一生オーディションの連続なり』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』『父Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』『真夜中の子供』 など多数。新刊に『人生の十か条』(中公新書ラクレ) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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