辻仁成「太く長く生きる」(58)「フランス的個人主義のすばらしさ」

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「日仏友好160周年を記念してエッフェル塔が日本人ライトデザイナーの石井さん母娘によってライトアップされました。」

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 「フランス人は個性的で変わり者が多い」と決めつけるアメリカ人やドイツ人や日本人とよく出会う。昔、ニューヨークの音楽プロデューサーが「いかにフランス人が変わっているか」を私に力説したことがあった。一理はあるけれど、これにはちょっと反論したくなった。そもそもフランス人のイメージというものは誤解されていると思うし、フランス人全員が個性的で変わり者なわけではない。日本人が全員勤勉で生真面目なわけではないように。当然のように、様々な個性がそろっているし、変わり者よりも断然おとなしくてまじめな人たちが多いと私は分析する。そもそもフランス人とはケルト、ラテン、ゲルマン人を中心に、ブルトン、バスク、アルザス、コルシカ人など幅広い民族が混ざり合ったいわば混成民族なのである。スウェーデン人のような大きな人もいれば日本人並みに小柄な人も多い。また、フランスは移民大国。東欧、アラブ、スペイン、中南米、アフリカ、中国、ベトナムなどあらゆる地域からの移民の二世、三世が国籍を取得し生きている。彼らがフランス人と混ざって異文化を消化してきた歴史も長いので、フランス人とはこうだと考える時に、移民文化についても考える必要がある。

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 では、なぜフランス人は「個性的で変わり者」が多いと言われるのか。それはフランスが個人主義を生んだ国だからであろう。個人主義ということが世界中のどの国よりもしっかりしていることをまず重視しておきたい。集団よりも圧倒的に個人なのだ。それが先祖代々受け継がれ、彼らの自由意思を形成してきた。人と同じことをしないでもよい、ということが子供の頃から徹底的に植え付けられている。そして、それが自由だということを誰よりも知っているし、自由が尊重されているので、はばかることをしない。みんなが同じものを注文していても、合わせることはしないし、親も子供に好きなことをするよう促す、つまり本人の希望や意思を小さい頃から尊重しているのである。これが日本だと「自分勝手」とみなされたり「しつけ」の問題とはき違えられていく。フランス人は個を尊重する。他人の個も尊重するが自分の個は貫く。これがきっと他所の国の人からすると個性的で変わり者とみられるのかもしれない。じゃあ、連帯感がないのかというと伝統的にしょっちゅう大規模なデモをやっており、個が連帯する時の強さは驚くほどだ。彼らは「ソリダリテ」(連帯)という言葉をよく使う。普段はばらばらな人たちだけれど、自分たち個人個人の自由を守るための連帯力には相当なものがある。テロの直後にこのソリダリテが姿を現し、テロに屈しないフランス人の強さを見せつけた。けれども、これが単純な右傾化というものにはつながらなかった。ここがフランス人の驚くべき柔軟さだが、500万人もいるアラブ系の人たちが暴力を受けたり政治力で排除されることもなかった。もちろん、彼らは容疑をかけられ摩擦も起きたけれど、テロが続いても、目に見えるような迫害や脅迫や虐待というものはほとんど起きていないし、ともに連帯しようという包容力の方が強かったように思う。ぼくが見ているかぎり、フランス人は頻発するテロ後、非常に理性的に連帯をやり遂げ、自分たちの自由を集団で守った。

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 あれが日本だったら、どうなっていただろう、とたまに考える。フランス人が作る集団というのは、よく見ると個人個人の輪郭がしっかりと見える集団に他ならない。フランスでファシズムが台頭しにくいのは、この徹底した個人主義が背景にあるからだろうと想像する。フランス共和国の標語は、ご存じのように「自由、平等、博愛」であり、権力に負けない個人の強さを表している。その起源はフランス革命期に遡る。自分の権利を自分たちの力で獲得したフランス人だからこその標語だ。彼らが発明した個人主義が個性的なフランス人を生んだ。在仏16年になる私は最初の頃、彼らが掲げる個人主義に馴染なじめなかった。私のような変わり者でも、彼らの懐に馴染むのに長い歳月が必要だった。個人がこれほど楽に他者に気遣うことなく生きられる環境を、今、私は他所に知らない。この国で生まれた息子は日本人なのに一度もいじめにあったことがない。ゼロではないけれど、日本のような個人が攻撃のターゲットになり続ける環境はほとんど見当たらない。集団が個人を攻撃することをよしとしないお国柄だからである。

 

今日のひとこと。 『私は私の個人主義を貫きたい。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に 『太陽待ち』 『サヨナライツカ』 『右岸』 『永遠者』 『クロ工とエンゾー』 『日付変更線』 『息子に贈ることば』 『パリのムスコめし』『父 Monpere』『エッグマン』『立ち直る力』など多数。近著に『真夜中の子供』(河出書房新社) 。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。
 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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