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【回想インタビュー】人生を受け入れ、生き方を考えるきっかけに…来島修志・日本福祉大助教
思い出を振り返り、語り合う「回想法」は、脳を活性化させ、認知症の症状の進行を抑える効果が期待され、全国の介護施設や認知症予防教室、高齢者サロンなどで実施されています。各地で回想法に関する講演や研修、指導を行っている日本福祉大学の来島修志助教(作業療法学)に普及の意義を聞きました。
(米山 粛彦)
昔の暮らしを子どもに伝える喜び
――住民が行う回想法を、先生は後押ししています。
世代が近い人同士が思い出を語り合う回想法には、仲間ができ、絆が深まっていく意義がありますが、私は世代間交流に注目しています。
愛知県北名古屋市の回想法センターでは、高齢の方が昔の暮らしぶりを地域の子どもたちに教えています。
――子どもとの交流の利点は何でしょうか?
たとえば、高齢の方が、回想法センターにある「かまど」の前で、「はじめチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いても蓋とるな」と、ご飯を炊く時の火加減の調節方法などを説明してくれます。すると、子どもたちは「面白い」と感じるのか、表情が変わります。高齢の方にとって、「うれしく、経験が役立った」と感じられる瞬間です。
特に退職後の男性にとって、地域に溶け込み、社会参加するきっかけは重要です。回想法がそのきっかけ作りになります。「人のために活動している実感があり、今が一番充実している」と話す方もいます。
介護職員から敬意
――介護施設でも回想法が広がっています。
施設の利用者が若い職員に、「あなたは若いから、アルミのお弁当箱に穴が開くなんて知らないでしょ」と、笑いながら思い出を語る光景が見られます。職員は利用者の生き生きと語る姿にびっくりし、自分の知らない話に触れ、尊敬のまなざしを向けるようになります。こうして、介護を受ける利用者を「先生」に変える回想法の効果に手ごたえを感じ、引きつけられていく傾向があるように思います。
高齢の方は自分の思い出話に関心を持って聴いてくれることに満足し、自信を取り戻します。塞ぎがちだった人が自発的に話すようになったり、怒りっぽかった人が穏やかになったりします。
認知症の人が「分かる」と実感
――認知症の人にも回想法の効果がありますか。
介護老人保健施設で「あたいはどないなっとんの!」と、私に叫んだアルツハイマー病の女性がいました。認知症の症状の一つに見当識障害があり、今がいつで、自分がどこにいるのか分からなくなることがあります。女性は自分が今、何をしようとしていたのか、どこに居たらいいのか分からず、不安でたまらず、救いを求めて叫んだのだと思います。
「分からない」世界の中でもがき苦しんでいる人に、回想法は懐かしく理解できる話題を提供します。「すりこ木」と「すり鉢」、「洗濯板」と「たらい」などの物品を見てもらい、手に取ってもらうと、認知症の人は「物事が分かる」という実感が持て、自分自身を取り戻せるのです。
認知症の症状が進み、言葉だけの会話が難しい人には、聴き手が身ぶり手ぶりを交え、「こう使いましたか」と問うことで、笑顔でうなずき返してもらえるかもしれません。「そうそう!」と分かる世界を得て安心し、「教えてやろう」といった意欲が生まれます。
地域の人が聴き手として活躍を
――高齢の方から「昔の話を若い人は聴いてくれない」という声を聞きます。
世代間の断絶が進んでいると思います。核家族化などにより、高齢の方が、子や孫、ひ孫世代と話す機会が減ったほか、同居する家族から疎まれていると感じたり、話をすることを諦めてしまったりしているようです。
若い世代が高齢の方の話に耳を傾ければ、会話は弾むでしょう。意欲や物事への関心が薄れてしまいがちな認知症の人には、高齢者の集いや認知症カフェなどで思い出話をする機会があるとよいでしょう。地域の人たちが回想法の手法を知り、聴き手に育ってほしいと願っています。
伝承の役割を高齢の人が意識
――思い出にはつらい経験もあります。
聴き手は、無理に思い出させたり、話をさせてはいけませんが、一方で、過去を振り返り、心にしまい込んできた戦争や災害の体験を次世代に伝えるべきととらえ直す人もいます。グループで語り合い、つらい思いをしたのは自分だけではないと気づく人もいます。
体験を積極的に聴こうとすることで、高齢の方が伝承の役割を意識し、地域に貢献しようと考え、社会参加を果たすようになるでしょう。
回想法は過去をとらえ直し、自分の人生を受け入れ、これからの生き方を考えるきっかけになります。
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