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超高齢社会、意識改革で「支え合う関係」に…鎌田實さん、上条百里奈さん対談

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 これからの超高齢社会をどう生きていけばいいのでしょうか。団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、介護職場の人材が30万人以上不足すると見込まれるなど、不安は増すばかりです。医療・介護の第一線で活躍する鎌田實さん(70)と上条百里奈さん(29)に、処方箋について語り合ってもらいました。(聞き手・池辺英俊、写真撮影・米田育広)

介護福祉士でモデルの上条百里奈さん(左)と、医師で作家の鎌田實さん

「介護することで、逆にもらうものがある」

かまた・みのる 医師、作家。1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大を卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。地域医療や在宅ケアに尽力。88年に院長、2005年から名誉院長。17年から都内のまちだ丘の上病院の名誉院長も兼務。ベストセラー「がんばらない」など著書多数

 鎌田 世界中が長寿化する中で、各国は日本の介護問題に注目しています。人材難が指摘されていますが、イケメンの「介護男子」の写真集が出版されたり、モデルとしても売れているのに、介護にこだわる上条さんにスポットが当たったりするだけで、生き生きと仕事をする姿が見えて、イメージがグンとアップします。

 上条 今も昔も介護の仕事は素晴らしいと思っています。人生のクライマックス、小説や映画で言えば「大トリ」をどれだけ幸せにできるかは、介護に一番チャンスがあるのではないでしょうか。すごくお得が詰まっている職種だと思います。

 鎌田 疲れるでしょう。

 上条 めちゃくちゃ疲れます。でも、今、特養(特別養護老人ホーム)で働いていますが、ピンクのスニーカーを履いて歩くと、認知症のおばあちゃんたちが「その靴、かわいいね」とほめてくれるんです。前を通るたびに言ってくれます。100%のほめ言葉を1日に何十回ももらえるので、私もうれしくなり、疲れも和らぎます。

 鎌田 介護をすることで、逆にもらうものがあるんですよね。障害のある人にプラスのはずなのに、介護をするあなたにとってもプラスになる。

 上条 そうなんです。たくさんあります。初めて看取みとりをした後、悲しみに耐えきれず、違う部屋のおばあちゃんの横で2時間泣きました。その時、おばあちゃんは唯一動く左手で、ずっと頭をなでてくれたんです。

 鎌田 それはいい話だなあ。

 上条 おばあちゃんとのあの時間がなかったら、介護をやめていたかもしれません。一番支えてくれたのが、寝たきりのおばあちゃんでした。

 鎌田 そのおばあちゃんも幸せだったと思う。介護される側だったのに、あなたの役に立てたから。

「生きることの楽しみ方」学べる

かみじょう・ゆりな 介護福祉士、モデル。1989年、長野県生まれ。短大を卒業後、2010年、県内の介護老人保健施設に就職。11年、モデル活動を開始。13年から都内の特別養護老人ホームに勤務、訪問介護も担当。テレビ出演や雑誌、ブログなどを通じて、介護の魅力を発信中

 上条 支えられる人に、少しでも支える側に回ってもらう視点って大切ですね。

 鎌田 「支える」ことが双方向になると、お互い本当にうれしくなります。人間って自分が存在している意味が見えてくると強い。

 上条 特養で生活保護を受けている方が、テレビでお墓の価格を見て、「こんなに高いの買えないわ」と悩んでいました。私も「確かにこの人、お金がないし……」と声をかけられないでいたら、横のおばあちゃんが「そんなの簡単よ。死ななきゃいいの」って言ってくれたんです。「そうね、ワハハ!」とみんなで笑いました。何でもポジティブに笑顔になろうと思ったらできるんだって教わりました。

 鎌田 それはいいねえ。

 上条 生きることの楽しみ方を学べているような気がします。それまでは、親や学校の先生などから「人生は1回きりだから、ちゃんと生きなさい」とさんざん言われてきたはずなのに、看取りを経験して初めて「本当に人は亡くなるんだ」と実感させられました。

 「私も人生を最高に生きなきゃいけない」ということを身をもって教えてくれるおじいちゃん、おばあちゃんがいる。そこにすごく感謝を感じていて、だからこそ、アクティブにここまで動けていると思うんです。

 鎌田 高齢化はマイナスばかりではない。認知症になっても、いろいろできる人が多い。近所の子どものために食事をつくる人もいる。認知症だからと、その人を閉じ込めると、どんどん病気が悪化します。やはり隠さないこと。「認知症だけど、幸せです」という人をいっぱい見てきました。僕たちの意識改革が大事です。

 上条 自分が困っていること、不安を誰かに打ち明けられることが大切ですね。

 鎌田 僕たち医師は、臓器だけにこだわらず、丸ごとの人間、家族、地域を診なければいけない。その意味で30年ぐらい前から「地域包括ケア」を呼びかけてきました。病院で救急、高度医療をやりながら、自宅に往診にも行く。介護の人とも一緒にやるんです。

 僕が毎月、通っている北海道十勝地方の本別町では、困っている人がいたら、誰もが手を貸すように住民教育が徹底されています。認知症の人も散歩するのが当たり前の雰囲気になっています。社会といつもつながり、出ていけること。閉じこめや閉じこもりは絶対にダメです。情報からの隔絶もダメ。

 上条 本当にそう思います。

 鎌田 僕は今、若い人から企画を募り、出資しようと思っています。たとえば、空き家をシングルマザーの皆さんがシェアハウスにして、一人のお母さんが子どもたちの面倒をみて、ほかのお母さんは介護施設や認知症カフェ、「子ども食堂」を運営するようなことを応援したい。介護保険制度などを上手に利用していけば、日本はまだまだ何でもできると思っているんですよ。

 上条 世代間の支え合いになりますね。

世代間交流、人生振り返るきっかけになる「回想サロン」

 上条 施設にも子どもたちが遊びに来てくれて、仲良く交流しています。

 鎌田 (読売新聞の過去の記事を集めた)「よみうり回想サロン」のDVDを見ると、お年寄りは目の色が違う?

 上条 全然違いますね。当時の出来事についての詳しい解説者になってくれます。私たちが知らない昔のことを聞けるのがいいですね。そんなに流暢りゅうちょうにしゃべれたんだって驚きました。

 鎌田 思い出を語り合う「回想法」は認知症を進行させないための一つのテクニック。実は予防にもなる。僕が診る終末期の患者さんも、「結構大変だったけど、いい人生だったな」と本人の言葉で語り出すと、がんの痛みが和らいで笑顔が出る。自分の人生を肯定的にとらえることは、すごく大事なんです。回想サロンは、いいきっかけになると思います。

 たとえば、回想サロンの「闇市」のコーナーを見て、「戦後を生き抜くのは大変だったんですね」と上条さんが言ってあげると、お年寄りは今度は闇市だけでなく、自分の人生を語り出す。

 上条 そうですね。止まらなくなりました。

 鎌田 「自分の人生、大変だったけど、まあまあだったかな」なんて話すと、それまで文句ばかり言っていたおじいちゃんの愚痴も減ったりします。

 上条 そういう効果も、言われてみたら実感しますね。今やりたいことにつながっていくこともあります。たとえば、回想サロンで過去の街並みを見て、「昔はこうだったのよ」と話しながら、「あっ、そう言えば、あそこに行きたいわね」って言われたら、今度は私たちの出番。目標ができるので、介護のしがいがあるし、おばあちゃんたちも元気になってくれます。

 鎌田 お医者さんも、だんだん変わり出している。

 上条 そうですね。最近、そういう「風」を感じます。鎌田先生が長年おっしゃっているように、人を診るという意識のあるドクターが増えている気がします。「治療とか薬だけでなく、スポーツや遊びを処方する医療もあるんだよ」というお医者さんがいると、うれしくなります。

 鎌田 地方だけで地域包括ケアが成功するんじゃないかって一時言われたけど、都会も変わり出している。

 一番大事なのは、社会的な「フレイル」にならないこと。フレイルは、筋力や口などの機能が低下していく状態を指すけど、社会の中で孤立し、閉じこもると、要介護度がどんどん悪化する。だからこそ、社会とつながっていることがすごく大事だと思んです。

 僕たち人間は、回想サロンのような大きな歴史の中で生きている。人生の主人公として自分はどういう歴史をもって生きてきたのかと考えると、幸せ感が大きく変わっていくんだろうと思います。

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