辻仁成「太く長く生きる」(56)「今年もまた、新世代賞始動」

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「手作業で全国の美術系の学校を探して郵送しています。貼って頂けるところがあれば送ります!」

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 「新世代賞」という名前のアート&デザイン新人賞を主宰しています。今年、第2回の応募がはじまりました。第1回は日本画家の千住博さんを審査員長にお迎えして、600もの応募の中から最優秀賞、優秀賞、特別賞を選出することができました。

 一応、25歳以下の学生さんを対象にしております。なぜこのような賞を創設したのかといいますと、大人たちを対象にした賞は多いのですが、若い世代のための重要な賞が物すごく少ないことに気が付いたからです。すでに出来上がった方々も大事ですけど、まさにこれからの若い世代にチャンスを与えることこそさらに大事。結局、その子たちがこの世界を受け継ぐからです。あまり余計な色のついていない、ピュアで向こう見ずな若者たちの背中を押せるような賞でありたい。

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 自分が若かった頃、ある程度大人になるまで無意味にスタートを待つ必要がありました。でも、結局、創作に年齢は関係なく、その世代にしか作ることのできない作品というものも確実にあるし、その時にしか気づくことのできない可能性というのもあります。そういう若い人たち、子供たちは未来の世界の財産です。彼らの想像力が次の時代を形作ります。

 第1回からいきなり600を超える応募があったのは、それだけ待たれていた賞なのだという証拠だと思いました。こういう賞を運営するというのは資金面でも人的にもそれなりに大変です。でも、受賞者たちと向き合った時、私はやってよかったと思いました。審査会場に並んだ作品はどれも若い世代にしか作ることのできない斬新な才能の萌芽ほうがそのもので、私は審査中ずっと興奮しておりました。何かを生み出すことは本当に大変なことの連続です。たった一人の何者でもない人間が創造した作品がある時見知らぬ誰かを感動させる。ここにアートやデザインのすばらしさの根本があるからです。

 私たちの生活を見回してください。そのほとんどが人間の手によるデザインで成り立っています。人間が楽しく幸福にのびのびと人間らしく生きていくために必要なものがすべてアートやデザインの中に包含されています。それを作り出すのは人間なのです。まさにアートやデザインは人間力であると言っても過言じゃないでしょう。学生諸君のまだ色のついていない純粋な才能を見つけ出し、世の中に送り出すことが新世代賞の大きな使命だと思っています。

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 去年のテーマは「生活に寄り添う」でした。今年は「古きものを新しく」というテーマに決まりました。例えば過疎地の今は誰も住んでいない空き家を新しい発想で一つの集合体にしてしまうというアイデアでもいいのです。例えばもう今は使われることのなくなったカセットやシングル盤やビデオや白黒テレビを現代によみがえらせても構いません。大昔の家具とか本とかあるいはことわざとか手紙とかクラシック音楽なんかを現代に生き返らせることも可能かと思います。過去のもの、古いもの、ちょっと前に流行が過ぎ去ったもの、老い、昔の考え方、アンティーク家具、大昔の書物などを利用して今とコネクトする作品を作ってください。その手法や内容は全て作者に委ねられています。古きものを新しく、というコンセプトをかじっていてくれさえすればどのような作品でも審査対象とします。

 国籍人種は問いません。ただ、応募は日本語でお願いします。現在、募集期間中ですが、10月25日(木)まで作品を受け付けます。応募書類のみ受け付けていて、作品(現物)は送らないでください。賞は大きく三つあり、最優秀賞(1点):賞金50万円+海外短期研修、優秀賞(1点):賞金30万円、特別賞(1点):賞金10万円となります。審査員長は私がやり、他に、26歳でエストニア国立美術館のコンペに優勝した建築家、田根剛氏、アーティスト集団Chim↑Pomメンバーのエリイ氏、卯城竜太氏、そして私の友人の実業家、飯塚達也氏の5人となります。

 若い才能をご存じのお父さん、お母さん、或いは美術学校の先生の皆さま、ぜひ、この募集要項を家の片隅でくすぶっている若き才能を持った子供たちに届けてあげてください。そして彼らの背中をそっと押してあげてください。そこにこの世界が必要とする物凄い才能が眠っているかもしれないのですから。

 募集要項:http://www.designstoriesinc.com/other/art_and_design2-1/

 

今日のひとこと。 『若い子供たちの才能が日本を創る』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』『父 Mon Père』『エッグマン』など多数。近著に『立ち直る力』(光文社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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