回想の現場

認知症に眠る「能力」引き出す昔の道具…群馬県太田市

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 群馬県南東部、太田市にある「イムスやぶづかロイヤルケアセンター」は介護老人保健施設(老健)です。ここの認知症専門棟では、毎月2回、理学療法士で群馬大学准教授の山上徹也さん(40)が、昔の道具を題材に、高齢者に思い出や体験を呼びおこしてもらう「作業回想法」を実践しています。

衣服の洗い方を山上さん(右)に教えるお年寄り

 作業を通してよみがえる自信

 8月13日に開かれた作業回想法の会は、入所する70~90歳代の男女15人が集まりました。進行役の山上さんは、用意した木のたらいを両腕で掲げ、「どんな時に使いましたか?」と問いかけました。

 「洗濯!」。異口同音にすぐに答えが返ってきました。次に洗濯板を取り出し、「どう洗うのでしょうか。私は使ったことがないのです」と教えを請いました。

 参加者たちは順に、たらいのふちに載せた洗濯板に、シャツをこすり合わせるしぐさを披露。せっけんを丁寧につける人もいました。いつもとは打って変わり、てきぱきと動く様子を見て、老健のスタッフたちは「すごい!」「かっこいい!」と驚き、何度も拍手しました。

 手を動かすうちに参加者たちは、「汚れがひどい物は最後に回した」「1日に何枚も洗った。鼻歌を歌えば大変さもまぎれた」と熱っぽく語り始めました。「土間で洗った」「(1964年の)東京オリンピックの頃、洗濯機が登場するまで使った」などと、話はどんどん展開しました。

お年寄りの思い出話を聞く山上さん。作業が終わるたびにお礼を伝えた

  終了後、90歳代の女性は「兄弟の分もよく洗った。親孝行だと思い、一生懸命やった」と振り返りました。参加者たちは、それぞれの頭と体によみがえった思いと感触の余韻にひたっているようでした。

 看護部長の内田政枝さんは「ふだん口数や動きが少ない人が、回想法では自信をもって手を動かしたり話したりしていた。適切な支えがあれば、いろいろなことができると感じた」と話しました。

得意な動作、技能を生かす

 認知症が進行すると、質問を聞くだけでは、なかなか思い出はよみがえりません。ただ、自転車こぎのように体に染みついた動作は覚えているものです。そこで、山上さんは、鉄アイロンやそろばんといった昔の道具を活用する作業回想法の可能性を探っているのです。

 もの忘れがひどくなり、絶えず不安を抱える認知症の人にとって、かつて身に付けたことを「理解できる」「若い人に教えることができる」と感じることは、自信につながります。老健の入所者は、トイレの補助などでスタッフに「お世話になっている」という感覚をもっていますが、この立場が作業回想法では逆転し、「対等な人間関係」になるのです。

 また、山上さんは「手や体を動かしたり、昔の洗濯の仕方を説明したりすることで脳を使う。記憶や判断などに関わる認知機能にも、いい影響が出る可能性がある」と、作業回想法の意義を説きます。

 群馬大などの研究チームは、2010年頃、埼玉県内のグループホームの認知症入所者54人を対象に、作業回想法を3か月間、週2回ずつ実施しました。その結果、症状の進行が抑えられ、時間や場所に関する理解が改善しました。ホーム職員との交流や日常生活への関心も増したそうです。

 「作業回想法を行えば、人によって『服を干す』『たたむ』といった動作が得意だと分かる。施設の生活で、認知症の人にもできることを役割として担ってもらえば、残存機能の維持、認知症の進行予防などのメリットがあるうえ、自尊感情も保たれる」。山上さんは、認知症の人に残っている技能に注目し、ふだんから使ってもらう工夫が大切だ、と訴えています。(米山 粛彦)

イムスやぶづかロイヤルケアセンター
全国で医療機関や介護施設などを展開するIMS(イムス)グループが運営する介護老人保健施設。短期入所療養介護や通所リハビリテーションのサービスも提供している。

 

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