辻仁成「太く長く生きる」(52)「いい人になるな」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

「息子とはじめたYouTube、2Gチャンネルの一コマ。モンサンミッシェルにて。」

 ◇ ◆ ◇  

 「あの人はいい人だ」と言われる人たちがいる。

 ちょっと待て、「いい人だ」と言われて喜んではいけない。無責任な他人に褒められる時、私たちは用心をしないとならない。「あの人はいい人だ」という時の「いい人」とはどういう人か一度考えてみるのがいい。まず、「いい人」というのはみんなにとって「人畜無害な人」「可もなく不可もない人」なのだ。あの人はいい人だよ、ということはつまり敵でもないし、いてもいなくても困らない人間ということになる。同じような意味で「どうでもいい人」だったりもする。それはつまり「どこかで信用されていない人」なのかもしれない。もっと言えば「利用されている人」であり「都合よく扱われている人」でもあり、「逆らえない人」「なめられている人」なのである。「利用されやすい人」ということになるので「いい人だね」と言われたら気を付けなさい。利用されやすい人というのはつまり、「断れなくてストレスがまりやすい人」でもある。いい人だと思われたいから「八方美人」になり、いろいろと仕事をふられてストレスが溜まっていく。なぜ断れないのかというと「自分が無い人」だからなのである。自分が強くあれば引き受けたりはしない。たとえ嫌われたとしても自分を大事にできる人でありたいものだ。

 ◇ ◆ ◇  

 なので私は「いい人」という他人の言葉を素直に受け取らない、喜ばないようにしている。「あの人はいい人だよ」と何気なく言われてしまう人というのは確かに「いい人」ではあるが、強力な個性がある人ではない。いいことばかり言ってくれるので何となく弱っている時には便利。しかし、本当に立ち直りたい時には不必要な人でもある。人間は苦言を呈してくれる厳しい人を最後は求める。いつもどんな時もいい人というのはある意味で信用できなかったりする。言うべき時にはがつんと言ってくれる人間の方が信用できる。私はそういう人間を信じている。嫌われても本当のことを言う人の方がよっぽど人間味がある。いつもいつも笑顔でなんとなく優しいだけの人のそばにいても成長はしない。むしろいい人で居続けるためにすべての人にバランスよくいい顔をしないとならないから、本人はストレスが溜まって大変だ。

 ◇ ◆ ◇  

 ついでに言えば、私の知り合いの「いい人」はいい人で居続けるストレスからか時々陰で人の悪口を言いふらしている。その時の本当の顔が恐ろしい。普段から嫌われても構わないので本当のことを言い続けている人は確かに毒が強くてとっつきにくいけれど、裏がないので、本当の意味ではいい人だったりする。うわべだけでは人の良さはわからないということかもしれない。ある人たちが誰かのうわさ話をしていた。「あの人はいい人だよね」と最初は褒めているが、しばらくすると「でもさ、なんかなんにもない人なんだよね。いつ話をしてもいい人以上にはならないんだもの。退屈で面白くないよね」などと悪口に発展している。自分をしっかり持つことは確かに力のいることで、ある人たちからは嫌われることも覚悟しないとならない。けれども、人に嫌われている人はその他の人からすごく好かれていたりもする。つまりどうでもいい人間ではないということだ。どうでもいい人になるくらいなら、嫌われたとしても自分らしく生きてる正直な人でありたい。半分には嫌われるかもしれないけれど、一部には愛される人間の方がいい。みんなにいい顔をするから疲れるので、そんなことに振り回されないで自由に生きられたし。

 「あの人はいい人だ」と聞こえてきたら、私は即座に悪い人を目指すことにしている。

 

今日のひとこと。 『あの人はいい人=どうでもいい人』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』『父 Mon Père』『エッグマン』など多数。近著に『立ち直る力』(光文社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

辻仁成「太く長く生きる」