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【回想インタビュー】記憶のパズルがはまっていく楽しさ…泉麻人さん

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 自分が若かった頃のニュース、出来事、文化・風俗を振り返ることは、一人一人が過ごしてきた歴史や時間を見つめ直すことです。コラムニスト、作家の泉麻人さんは40年近く、都市の文化や風俗、時代時代の人々の生態をおもしろおかしく描き続けてきました。それと並行して、昭和30年代など、過ぎ去った時代の現象や流行、事件などを郷愁的に回想しつつ、ちょっと斜めの視線から楽しいコラムを数多く生み出しています。

 子どもの頃から懐古主義だった?

――泉さんはコラムニストとしてデビューした1980年前後から、リアルタイム世代の生活スタイル、都市における振る舞い方法などをテーマに、たくさんの文章を発表してきました。それと同時に、過ぎ去った時間に対してもちょっと皮肉を込めつつ、愛情あふれるコラムをたくさん書いてこられました。泉さんにとって、過去を振り返ることはどういうことなのでしょうか。

 

「過去への興味はむしろ強まっていきますね」

 子どもの頃から、自分の記憶をよみがえらせて、パズルのように組み立て直す作業が好きだったのです。

 たとえば僕が小学校高学年ぐらいの時、自宅の大掃除中、たたみの下から5、6年前の新聞が出てきたことがあったんです。一般的に、人は4、5歳が記憶のスタートとされていますよね。そのときに見つかったのは、自分の記憶が始まった頃の新聞だったのです。テレビ番組表を見て、「ああ、これを見ていたな」みたいに思い起こし、そこからさらに当時の記憶を探したりもしました。そのときに回収した古新聞は、いわば自分の原点としていまだに保存してあり、事務所の中を探せば出てくると思います。

――わかる気がします。思いがけないきっかけで、いきなり古い記憶がドサッとよみがえることはありますよね。

 何かフックとなるデータがあると、自分の記憶は次々に再生されます。その過程にパズルがはまっていくようなおもしろさを感じていたのです。

 1970年代には、まだ「レトロ」という言葉はなかったのですが、「ノスタルジー」という概念は流行し始めていました。高度成長が始まった時代を、誰もが懐かしがっていたのかもしれません。それ以降、過去を振り返る楽しさはみんなに根付いていくわけです。

 僕が中学生の頃には、すでに古いテレビヒーロー物が懐かしい存在となっていました。「月光仮面」とか「ナショナルキッド」とか、タイツをはいた主人公が正義の味方を演じているような……。

――(笑)。

  「少年ジェット」「快傑ハリマオ」など、再発売されたテレビ主題歌のレコードなどを集めたりもしました。「確か2番の歌詞はこうだったな」と回想したりして。

新聞の縮刷版は過去へのポータルサイト

――泉さんは中学から慶応の付属校育ちですよね。デビュー当時に書かれたコラムでは、ご自分の立ち位置をはっきり打ち出しており、当時の言葉で「ナウい」ものについて、ちょっと斜めからの独特の視線で書いていました。その一方で、「ナウなもの」へのコントラストとして、「レトロ」への愛情も打ち出しているように感じました。

 慶応に限らず、付属中高生には受験がない分、自由な時間が多いわけです。だから、自分の趣味や嗜好しこうが育ちやすい環境だったと思います。ただ僕の場合は、環境とは関係なく、「近過去」の歴史に触れたり、それを調べたりするのが先天的に好きだったことは確かです。それに加えて、大学卒業後、文章を書く仕事を始めて、結果的にレトロがネタとなったことも、そんな自分の嗜好を後押ししたと思います。

 1990年ぐらいには、新聞に載っていたおもしろいニュースを集めて、それをネタにした書籍「B級ニュース図鑑」を出版しました。図書館で新聞の縮刷版を読みあさって、社会面の変わった記事などをピックアップして、独自の解説を加える内容です。

――覚えています。事件そのものが不思議だったり、記事への取り上げ方が変わっていたりしたものがネタになっていましたね。

 高校生ぐらいのとき、昭和33年から35年ぐらいの新聞縮刷版を30冊ぐらい自宅近所の古本屋で手に入れたんです。全部で3000円ぐらいだったかな。あまりにも重かったから自転車に積んで自宅と2往復しました。

「新聞の縮刷版は記憶の再生装置で、眺めているのが本当に楽しいです」

 新聞には政治、経済、事件、テレビ番組表、広告まで載っているから、脳内でその時代を再生するためには本当に便利ですよね。古い縮刷版を見ていると、お目当ての記事が載っている紙面の広告欄も連動して楽しめるのですよ。今でもちょっと暇が出来ると、大きな図書館に行って古い縮刷版をめくり、その時代にトリップすることがあります。たまたま見つけた昔の広告に刺激されて、その企業の社史を調べてみたりもします。僕にとって新聞の縮刷版は、今の言葉で言うと「過去へのポータルサイト」みたいなものでした。楽しいだけじゃなく、記憶を再生させる装置としての機能は本当に高いですね。

――そうやって新聞を使っていただくとうれしいです。

 記事の時代性や、それを書いている記者の文体、見出しのつけかたも時代によって違いますよね。「今の記者はこんな言葉は使わないだろう」「こんな切り口はないよ」「話のオチはそうじゃないだろう」「昔の人は、こういうおもしろがり方をしていたんだ」など意外な発見もあります。

 だから、高齢者施設などで回想法を実施するときにも、紙の新聞を見本で持って行くとさらに効果が高まるんじゃないですか? ピンポイントのニュースや出来事だけでなく、その周辺までを含めて、よみがえっていく記憶はあると思います。

いろいろな意見の交差が期待できる回想法

――泉さんは、デビューした当時、活躍の場は雑誌「POPEYE」「OLIVE」などの同時代を投影したマガジンハウス系のメディアが多かったのですが、そこに過去を振り返るおもしろさを持ち込んだ張本人だったイメージがあります。

 「POPEYE」なんかは、カタログ的にモノを紹介する雑誌だったから、むしろ昔のチョコレートの包み紙などに敏感に反応して、おもしろがる編集者もたくさんいました。1960年代特集なんかも早い時代からやっていましたよ。もうお店では買えないブリキのおもちゃなどもたくさん取り上げました。同時代のトレンドだけではなく、それまでの消費文化を振り返ることも、時代の要請だったのだと思います。

――ご自身で回想して最も楽しい時代はいつごろですか?

 僕にとっては昭和30年代の中頃ですね。「あ、そういえば」と記憶がよみがえってくる楽しさではそのころが一番かな。自分の記憶がぼんやりしてきている部分が再生され、その上に再発見がオーバーラップしてきますからね。記憶が薄れて、かすかになっている部分の再生が一番おもしろいのです。

――記憶の再生で、何かの刺激を受けることもありますか?

 それはよくあります。何歳ぐらいの記憶が脳細胞を活性化させるのかなど、医学的にわかるようになるといいですね。

――泉さんが、デビューされてから、もう40年近くが過ぎています。過去への興味は薄れないのですか?

 薄れるどころか、むしろ強まっています。私がデビューした以降もいろいろなことが次々に起こっています。とはいえ、必ずしも自分自身がリアルタイムで見聞きしたこととは限らないのが記憶のおもしろいところ。過去の記事など調べたりしたことが、後付け的に根付いていった記憶もまたあるわけです。自分の記憶と思いこんでいても、実は後に無意識のうちに身についた後発的なものもありますよ。

――90年代初め、お父さまが亡くなったときに、遺品から昭和の写真などが出てきたとうかがいました。

 父親は写真を撮るのが好きだったらしいのです。都内の実家からバス通りを撮った写真などが遺品から出てきたのですが、当時の古い街の景色に思い入れがあったみたいです。かつての街に郷愁を覚える部分などは、自分との共通点だったのかなと思いました。

――とはいえ、お父さまと泉さんは性格のタイプが違ったそうですね。

 父親は高校の数学の教師で、いわゆる「数学オタク」だったんです。仕事から戻ってきても、応接間を書斎がわりにして、幾何の問題を考えて楽しんでいるような人でした。僕は文系だったので、明らかに父親とはタイプが違っていましたね。父親は子育てに熱心なタイプではなく、僕との会話もあまりありませんでした。それだけに、古い街並みが好きなことなど、自分と共有する部分が見つかったのは意外でしたね。

――高齢者に元気になってもらう試みとして、回想法についてどう思われますか?

 過去の新聞記事やニュース映像を題材にするのはおもしろい試みだと思います。かなりの高齢になった方には、このやり方はありがたいでしょうね。自分ひとりでテレビやDVDを見て懐かしがるだけではなく、誰かとのコミュニケーションが新しい刺激になると思います。例えば、みんなで一緒にワンマン宰相だった吉田茂氏のニュースを見て、それについて話し合えば、きっと意見の交差があるはず。それが大切だと思います。

 おそらく回想法は、古い記憶や話題を提供するきっかけであり、「それについて誰かと話す」ことが本質になるのだと思います。それだけに、テーマ選びもあまりにも知る人ぞ知る、マニアックなものではだめでしょう。みなさんの共有体験に基づいたものでないとね。

(聞き手・染谷 一)

 

 泉 麻人(いずみ・あさと)
  コラムニスト、作家。1956年東京都生まれ。慶応大学卒業後、会社員生活の傍ら、若者向け雑誌などでのコラム執筆を開始。84年フリーになり、以降、テレビ、ラジオ、DVDなどにも活動範囲を広げた。「昭和40年代ファン手帳」「東京いい道、しぶい道」(いずれも中公新書ラクレ)など多数。今年7月に「大東京のらりくらりバス遊覧」(東京新聞出版部)が発売される。

 

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