なつかしスポット巡り
回想サロン
ちゃぶ台、火鉢、黒電話 家族の団らんよみがえる……昭和のくらし博物館(東京・大田区)
東京都大田区に1951年(昭和26年)に建てられた庶民の木造住宅を、当時の家財道具ごと保存し、そのまま公開しているのが、昭和のくらし博物館です。
ここにかって両親や妹3人と暮らしていた生活史研究家の小泉和子さん(84)が「暮らしの面から昭和という時代を考え直してみたい」と1999年(平成11年)に開館しました。館長を小泉さんが、副館長を妹の小倉紀子さん(77)が務めています。週末の金、土、日だけの開館ですが、年間5000人の来場者がある人気スポットです。
東急多摩川線の下丸子から閑静な住宅街を歩くこと約10分。周囲の住宅にしっくりなじんだ木造2階建ての家屋が博物館でした。木の門扉にかかった看板がなければ、見過ごしてしまいそうな普通のお宅です。
木の門をくぐり、石畳を歩いて格子戸を開けると、玄関脇にレトロでとてもおしゃれな洋間が現れました。この家は、1950年(昭和25年)に始まった住宅金融公庫の融資を受けて建てられた公庫住宅だそうです。
洋間の書斎の先の暖簾をくぐると、いわし、あさりのおみそ汁、ほうれん草のごまあえ、昆布のつくだに、白菜の漬物…、懐かしいお母さんの味がずらりとならんだちゃぶ台が目に飛び込んできました(食品サンプルでした、残念!)。
裸電球の暖かい色が、食卓を彩る料理の数々をさらに美味しそうに照らしています。スタッフの鈴木康史(31)さんが「昭和初期の朝、昼、晩の庶民の食卓です。お肉がなくて、野菜とお魚が中心です」と、説明してくれました。
今も“現役“の真空管ラジオ
ちゃぶ台の脇には火鉢が、部屋の隅の茶だんすの上には、四角い大きな真空管ラジオと昔懐かしい黒電話があります。
「この真空管ラジオと電話は今も使えるんですよ」と小倉さん。「当時は電話がない家が多くて、ご近所の方たちあてに来る電話を受けて、取り次いでいました」
居間に続く台所は、電気を使わずに氷で冷やす冷蔵庫や、小倉さんの祖父の手作りのかつおぶし削り器、下水道が整備されるまで活躍したネズミ捕り、すり鉢、ごまを煎るほうろく、手ぬぐいで作ったふきんなど、今ではあまり見かけない台所用品などが所狭しと並んでいます。
おままごと道具や人形、紙芝居……懐かしいおもちゃがズラリ
2階の企画展示室では、昭和の子どもたちに明暗二つの側面から光を当てた企画展「楽しき哀しき昭和の子ども展」(2019年3月まで)が開かれていました。
下宿人さんの部屋だった展示室には、農作物の不作や恐慌で身売りされた子どもの新聞記事のほかに、戦前戦後の子どもたちの元気な遊び声が聞こえてきそうなおままごとの道具やお人形、紙芝居などが並べられ、中高年の女性から「懐かしい!」と歓声が上がっていました。
2階の3姉妹が使っていた四畳半の子ども部屋は、来年3月まで企画展の一部として、都内の女性から寄贈された母娘2代にわたるおもちゃや人形、日記などが展示され、壁には古い掛け時計が今も時を刻んでいます。
チクタクと時を刻む古時計
この古いぜんまい時計がチクタクと時を刻む音や、ガラスサッシのガタガタ揺れる音で、若いころのことを思い出し、生き生きと語りだす高齢者の方々も多いそうです。近県から、デイサービスのスタッフが通所者の方々とマイクロバスで来ることもあります。
普通の女性たちの暮らしの歩みを本に残したいと、友人と一緒に同館を訪れていた横浜市の60代の女性は、「食事も服もおもちゃも、ひと手間かけた丁寧さを感じます。この精神的な豊かさをくみ取って、次の世代につないでいきたいですね」と話してくれました。
木の香りや畳の触感、風がサッシを揺らす音、五感をフルに刺激する「昭和の家」で、温かく丁寧な暮らしに思いをはせるのも豊かな時間ですね。
(菅谷 千絵)
昭和のくらし博物館
【所在地】〒146-0084 東京都大田区南久が原2-26-19
【電話】03-3750-1808
【アクセス】東急池上線久が原駅、東急多摩川線下丸子駅から徒歩約8分
【開館日】金・土・日・祝日(年末年始はHPで確認を)
【開館時間】午前10時~午後5時
【料金】大人500円、小学生・中学生・高校生・友の会会員 300円、協力会員 無料
【ホームページ】http://www.showanokurashi.com/
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