なつかしスポット巡り

あの頃の空気が今も息づく・・・東京・青梅市

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 都心から1時間と少し。豊富な自然に恵まれた奥多摩路への入り口、青梅市には意外にも「昭和の残り香」が濃厚に漂っています。

 「あの頃」の空気を吸い込もうと、JR立川駅から青梅線へと乗り込みました。

青梅市には昭和レトロの見どころがたくさん

懐かしい映画の看板があちこちに

 青梅のすべてを満喫しようと思ったら、とても一日では足りません。古くから信仰の対象だった霊山・御岳山、豊富な清流沿いの渓谷や公園、樹齢1000年以上の杉木立に囲まれた神社仏閣、様々な博物館や温泉など、あまり欲張ると時間も体力も必要になります。とはいえ、「昭和への時間旅行」なら、半日程度でも十分です。お目当てのターゲットはJR青梅駅の周辺にぎゅっと凝縮しているのです。

 外せないポイントは二つ。一つ目は、言うまでもなく青梅の街並みです。

 戦前から高度成長期、そして平成へと、時の移ろいをじっと見つめてきた建物が街のあちこちに残っています。この地域で家族の肖像を撮り続けてきたであろう古い写真館や路地裏の渋い飲み屋さんなどが、忘れかけていたセピア色の記憶に重なります。

 さらに、青梅らしさを決定づけているのが、昭和に封切られた古い映画看板の数々です。商店街の道沿いやお店の屋根を飾っているその数は30枚。1990年代に始まったレトロな街づくりの一環として、「映画看板に彩られた街並み」が青梅の象徴となっているのです。

 ここは今年2月に永眠した「最後の映画看板師」久保板観ばんかんさんが生まれ育った地でもあります。のんびりと通りを歩いていると、久保さんのダイナミックな筆で描かれた名画のワンシーンが唐突に現れ、ついつい足を止めて見入ってしまいます。

 「シェーン」「ティファニーで朝食を」「第三の男」「鉄道員」……。今でこそ「映画はシネコンで」が一般的になりましたが、昭和時代には庶民の身近な娯楽として、小さな街にも一つや二つの映画館がありました。原色のペンキで描かれた名画看板のワンシーンに、誰もが胸を躍らせたものです。スクリーンからはあこがれのスターが飛び出してきますが、古い映画看板を眺めていると、失われつつある街の記憶、そしてあの頃の自分の姿が脳内の銀幕によみがえる気がします。どんな看板がどこにあるのか、探しながらそぞろ歩きするのも楽しいものです。

 かつて綿織物「夜具地やぐじ」(布団などに使われた布地)の生産地として大変なにぎわいを見せた青梅には、映画館も三つありました。市内で夜具地のギャラリーとカフェを経営する金子静江さん(70)は「昔は本当ににぎやかでした。私は近くの勝沼(現在の東青梅駅付近)に住んでいたのですが、青梅の中心街に映画を見に行くのが楽しみでした。当時の映画館はどこもいっぱいで、立ち見になることも多かったんですよ」と回想します。

「あの頃」が詰まった三つのミニ博物館

 二つ目の見逃せない観光ポイントは、「昭和レトロ商品博物館」「青梅赤塚不二夫会館」、そして「昭和幻燈館」の三つのミニ博物館です。

 「昭和レトロ商品博物館」には、名前の通り、お菓子や日用品、雑貨など、懐かしい品物がところ狭しと並んでいます。高度成長期を過ごした人々の記憶の片隅に眠っていそうなものばかりです。

 小さなドアを開けて中に入ると、いかにも昭和っぽい「たばこ屋」が真正面に再現されています。かつてはどこの街でも、たばこ屋と赤い郵便ポスト、公衆電話がセットになった街角がありました。たばこ屋の小さな窓ごしに、店のおばちゃんにチューインガムの代金を払いながら、「大人になったら、ここでたばこを買うのだろうな」などと考えていた小学生時代を思い出します。

 たばこ屋と軒を並べているのは駄菓子屋です。ガラス板がはめこまれた陳列棚には、当時のチョコレートやキャラメルなど王道のお菓子に加え、きなこあめや酢漬けイカなどの変化球おやつの姿も。変身ヒーローのブロマイドや紙風船なども並んでいて、小銭を握りしめて、ワクワクしながら通った人も多いでしょう。

 そのほか、当時ポピュラーだった歯磨き粉などの日用雑貨や家庭用医薬品、文房具、ボードゲーム、メンコなどがぎっしりと陳列されており、どれも懐かしい友人と邂逅かいこうした気分になります。

青梅赤塚不二夫会館には、等身大(?)の「ピストルのおまわりさん」

 レトロ博物館の開館から4年後、2003年にオープンした「青梅赤塚不二夫会館」は、昭和を代表する漫画家の作品世界をさまざまに表現したミニテーマパークのような場所です。原画やセル画、作品内の世界を表現した空間(インスタレーション)など、誰もが親しんだ「おそ松くん」「天才バカボン」などの世界を身近に感じられます。

 実は、赤塚さんと青梅市にはまったく縁がありません。

 同館館長の横川秀利さん(82)は、開館に至った経緯をこう振り返ります。「昭和のイメージをさらに後押しする施設を造ろうとみんなで相談していたとき、元気だった昭和時代を象徴していた文化は漫画だ、と思い至りました。そして、一番元気に感じた漫画家が赤塚不二夫さんだとみんなの意見が一致したのです。ダメもとで赤塚さんのご夫人に何度も掛け合って、ようやく了承をいただけました」

 館内をのんびり歩いていて、ふと気づいたことがあります。「赤塚さんの作品が、元気だった昭和時代の象徴だったというよりも、赤塚さん自身が昭和そのものを描いていたのではないだろうか」と。

 どの作品にも、ナンセンスだけど絶対に毒々しくはならないギャグや、隣近所の人々とのさりげない交流など、現代の人々が失いかけている日常がたくさん詰まっています。

 また、赤塚さんは、背景などを丁寧に描き込むタイプの漫画家ではありません。ただし、家族が過ごす居間の描写や、ちょっとした裏通りの風景など、コミカルな「絵の行間」から、昭和らしさがジワリとしみ出してくる瞬間があります。

 もう一つの博物館「昭和幻燈館」は、懐かしい街並みをジオラマで表現した空間です。ここではノスタルジックなポストカードなど、思わず手にとってしまうおみやげが見つかるはずです。

 駅前で化粧品店を営む野崎弘さん(71)は「今はシャッターが閉まった商店も多いのですが、かつては60人以上の芸者さんが闊歩かっぽするような華やかな街でした。ちょうど女性の社会進出が始まった時代で、BGと呼ばれた女性たちが化粧品を買いに来てくれましたね」とにぎやかだった昭和の青梅を振り返ります。

 2019年、平成時代に「The End」のマークが出ると、ますます昭和は遠くなります。

 だからこそ、薄れゆく幻影をしっかりと街の中に焼き付けている青梅は、切なくも温かいひとときを我々に与えてくれるのです。

(染谷 一)

青梅市観光協会
【所在地】〒198-0042 東京都青梅市東青梅1-2-5 東青梅センタービル3階
【電話】0428-24-2481
【アクセス】JR青梅線 東青梅駅
【ホームページ】http://www.omekanko.gr.jp/home/index.php

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