回想の現場

回想法で人生の先輩から学ぶ・・・名古屋市ルポ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 4月の穏やかな平日、名古屋市名東区の市営住宅の集会所には、近くに住む高齢者約30人が集まりました。週に1回開かれるお茶会です。体操で体をほぐした後、昔の思い出を語り合う回想法が行われました。

なつかしいものの写真かるたに見入る参加者たち

写真かるたで昔を思い出す

 講師に招かれたのは、同じ区内に住む甲斐敏行さん(73)。みんなの前に、大きな写真かるたを並べました。それぞれのかるたには、柱時計、湯たんぽ、ちゃぶ台など、昭和期の物品が写っています。

 お題に「火鉢」のかるたが選ばれると、甲斐さんはその写真を掲げて、「どんな思い出がありますか」と尋ねました。「餅を焼いた」「みかんを焼いた」「またいで温まった」などと声が上がります。なつかしい昔に思いをはせる参加者たちの表情には、自然と笑顔が広がっていきました。

市認定の認知症予防リーダーに

思い出を尋ねる甲斐さん

 甲斐さんは、いわゆる「猛烈サラリーマン」でした。インド、イラク、ミャンマーなど海外での勤務期間は12年に及びます。約40年前、イランで通信設備の現地調査をしていたとき、地元の部族に銃を突きつけられたこともありました。

 会社を定年退職後、何か人の役に立つことがしたいと考えていた甲斐さんは2年前、区内の福祉会館に立ち寄り、サークル活動を一つひとつ見学しました。

 ふと目に留まったのが回想法です。「おもしろそうだな」と思っていると、チラシで「認知症予防リーダー」の養成講座があることを知りました。

 予防リーダーとは、名古屋市が認定するボランティア資格です。養成講座で受けた回想法の研修では、「話をしたくない人には無理にさせない」「相手の話は批判しないで肯定する」「秘密は守る」といったノウハウを学びました。

 リーダーになった甲斐さんは、福祉会館などから依頼を受け、週に1回ぐらいのペースで回想法を実演し、「半歩さがった同行者」を心がけています。

 人生の先輩たちから学ぶこともたくさんあります。戦後の食糧難で、芋の皮やつるを近所で分け合って食べたという男性もいました。12人きょうだいの末っ子の女性は「お下がりばかりを着て過ごした」と話してくれました。「こうした先輩たちの頑張りが現代の礎を作ったんですね」。甲斐さんは感謝の気持ちを新たにしています。

広がる回想の輪、創意工夫も

メッセージを掲げる甲斐さん

 65歳以上の高齢者の数が55万人を超える名古屋市では、認知症予防を推進するため、2016年度から、回想法を実践する認知症予防リーダーの育成に取り組んでいます。現在の登録者は約400人。リーダーの実演に参加した市民は、のべ約1万人にのぼり、回想の輪が広がっています。

 各リーダーは創意工夫で独自色を発揮しています。市南部の南区では、銭湯で回想法が行われ、大いに盛り上がりました。甲斐さんもいま、80年以上の歴史がある市内の東山動植物園に出かけたり、史跡めぐりをしたりするプランを練っています。

 回想法で参加者の笑顔を見るたびに充実感を味わうという甲斐さん。市営住宅の集会所では、お気に入りの言葉を披露しました。「薬には副作用あり 笑いは福のみ」

(米山粛彦)

名古屋市の「認知症予防リーダー」養成講座
 名古屋市内在住の60歳以上が対象。各区の福祉会館で1回あたり2時間の講座を計5回受講すると、市内16区ごとに予防リーダーに登録される。講座の内容は、認知症に関する知識、人への接し方、体操法など。さらに日本福祉大学による回想法、国立長寿医療研究センターによる健康プログラム「コグニサイズ」の研修を受ける。参加費無料。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

回想の現場