回想の現場

「昭和」にひたる博物館・・・北名古屋市ルポ(下)

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 愛知県北西部に位置する北名古屋市。市役所東庁舎の西隣には、別名「昭和日常博物館」と呼ばれる市歴史民俗資料館が入る建物があります。3階フロアには、昭和の街並みが再現され、1万点の日用品が常設展示されています。近くに住む元会社員、矢野建市さん(69)は2週間に1回訪れ、少年時代の思い出にひたるそうです。

ちゃぶ台を見ながら思い出を語る矢野さん(右)

 

ちゃぶ台で思い出す「おやじの言葉」

 電気炊飯器や茶わんなどの食器が並ぶちゃぶ台の前で、矢野さんは足を止めました。「5人家族で食事をした頃を思い出した」。おしゃべりしやすい円卓でしたが、板金職人の父親が厳格で、食事中の私語は禁止されていました。何度も聞いた父の言葉が耳に残っています。

 「お百姓さんが汗水流して作った食べ物を粗末にしてはいけない」

 当時はうるさいと思っていた「おやじの言葉」ですが、今はその意味がよくわかります。父の教えがあったからこそ、食べ物を残さずに食べるよう子や孫に伝えているのだと自覚を新たにしました。

 別なコーナーには、おもちゃの野球盤がありました。矢野さんはふと、小学生の時に姉に買ってもらったグローブを思い出しました。毎晩、ワックスで磨き、枕元に置いて寝ました。「ものが少ない時代だったので、大切にしました」

失われる「戦後」に危機感

昭和の街並みを再現したコーナー。来館者は思い思いに回想する

 「記憶のスイッチ」にあふれる博物館は、1990年に開館しました。

 「途中で、戦後のものがどんどんなくなっていることに気づき、97年からフロア全体を昭和のものに統一したのです」と振り返るのは、市橋芳則館長(55)です。「昔のゴミ箱の中も再現できる品ぞろえにしよう」と館内外に呼びかけ、全国から物品を集めました。今や所蔵品は10万点を超え、ジュースのビンだけでも約2700本あります。

 3階フロアに足を踏み入れると、駄菓子やパンが並ぶ食料品店が目に飛び込んできます。向かいには「床屋さん」があります。照明を落とし、夕暮れ時を演出した空間は、若い人たちにも人気で、写真撮影の定番コーナーになっています。

暮らし変わった昭和30年代を重視

往年の乗用車やオート三輪車などが並ぶ地下1階

 展示の中で重視しているのは、「暮らしが激変した」(市橋館長)という昭和30年代です。「三種の神器(じんぎ)」と呼ばれた洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビの電化製品が普及し、炊事にじか火を使わなくなりました。30年代後半には、車、クーラー、カラーテレビの「新三種の神器」が広がりました。時代を象徴するものが所狭しと並び、地下1階には当時の乗用車やオート三輪車もあります。

 思い出を語り合い、心を元気にする「回想法」を推進する北名古屋市にあって、博物館はその中心施設に位置づけられています。同じ愛知県内にある国立長寿医療研究センターの老年医学の専門家が2001年、館内で生き生きと昔話を語る高齢者を見て、回想法の実施を提案したのがきっかけでした。今では、デイサービスの利用者らが訪れては、若かった頃を振り返る姿が日常的な光景となっています。

 年間6万人の来館者でにぎわう博物館について、市橋館長はこう話しています。「今の日用品の多くは、昭和30年代に原型が誕生しました。ここには現代人の原風景があり、人生の原点に立ち返れます」

(米山粛彦)

北名古屋市昭和日常博物館の概要
 愛知県北名古屋市熊之庄御榊53。3階建て建物を図書館と共有。3階、2階、地下1階の博物館フロアは合わせて約1200平方メートル。開館時間は午前9時から午後5時まで。休館日は毎週月曜(※祝日の日は開館し、その後の祝日ではない平日が休館)、ほかに館内整理日などがある。電話0568(25)3600。入場無料。

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