辻仁成「太く長く生きる」(45)「シングルファーザーの一日」

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辻38回目写真

「シングルファーザーの楽しみは、家事の後のこの濃い目の一杯なり。」

 ◇ ◆ ◇  

 朝、私はだいたい6時半に起きて、まずツイートを1本打ち、それからキッチンへ。そして息子の朝ごはんをこしらえます。前の日の残りがある時は温めるだけですが、ない時は、冷蔵庫をあさってちゃちゃっと拵えます。だいたいサンドイッチですけど、焼きニョッキやおにぎりの時もあります。

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 7時45分に息子は登校するので、そのあと、眠い時は二度寝。そうじゃなければ、エスプレッソを入れて軽く何か口にします。硬くなった昨日の残りのバケットをトースターで焼き、オリーブオイルと岩塩で頬張る程度。続いて食器洗い、洗濯と掃除。洗濯は乾燥まで含めるとほぼ半日仕事です。

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 9時からまず午前中の仕事の開始となります。だいたいは、サロンの1人掛け用ソファに潜り込んで、パソコンを開き締め切り間近のものをやっつけます。午前中にエッセーを1、2本書くのが日課。ちなみに、この原稿も今、朝の9時半ですが、書いております。窓辺のソファをビジネスクラスと呼んでいます。

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 11時半、買い物へ。市場が開く日には市場へ。開かない時は、近所のスーパーかアジア食材店に顔を出します。週2回開く市場で生鮮食料品を大量買いします。理由は新鮮で安いから。スーパーでは主に酒類、アジア食材店ではお米とか調味料を調達。冷蔵庫は常に満杯です。水は重たいので、買い出しは息子の仕事です。いい子ですよ、パパは腰が悪いから僕が行く、と言ってくれます。ついでにお菓子も買ってきますけど(笑)。

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 さて、買い物の後は行きつけのカフェやレストランで昼食。仕事関係の方とのランチミーティングもこのタイミングで。どこの店も馴染なじみなので順繰り巡るようにしています。日本と比べこっちのランチは割高ですよ。2000円から4000円くらいが相場。カフェだとワンプレート、15ユーロ程度、これにワインを1、2杯飲めば3000円。日本のレストランやカフェがびっくりするくらい安いということを日本の皆さんはご存知ない。逆を言えば日本の飲食の方々は大変だと思います。アイスランドやスイスだとさらにフランスの倍ですから!

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 昼食後は歌の練習です。最近はシャンソンに凝っているので、フランス語の勉強を兼ねて、ピアフやブレルやゲンズブールなどを小1時間歌います。いい運動になるので、欠かさずやっています。ライブが近くなると、ランニングも。ランニングをする時は午前中、昼食前が多いですね。

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 歌の練習が終わると、いよいよ本業の小説家です。ここは時間やノルマに捕らわれずじっくりと向き合います。わずかに1行しか進まない日もありますが、焦らないことが大事。

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 そうこうしているうちに息子が帰ってきます。鍵は落とすといけないので持たせておりません。ベルが鳴るので毎日、決まった時間にドアをあけて、お帰り、と言います。

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 それからおやつ。といっても軽食です。生ハムやチーズのバケットサンドが多いかな。息子は食堂で勉強をはじめ、私は夕飯の準備。時短料理はしません。丁寧に心を込めて毎日、料理と向かい合います。米を研ぐこと自体が修行です。料理をしている時は心を無にすることができる大事な時間。早く準備が終われば、近所のカフェに気分転換に行き、たむろする客らと言葉を交わします。フランス語を使う唯一のタイミングですね。この時間は生ビールが美味うまい!

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 19時半くらいから夕食。食事中、息子は自分の好きなユーチューブの番組を私に見せます。一緒に見たいのです。夕食が一番楽しい家族団らんのひと時なので、映像を見ながらの食事も許可しています。息子の成長や考えを発見できる時間でもあります。

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 夕食後、2人で食器を片付け、テーブル卓球をやります。まだ息子には負けません。一汗かいたら、息子君はお風呂からの、寝る準備。私は食器を食洗器に入れて、キッチンを片付け、明日の朝ごはんの準備などをしてから再びサロンに。そこで寝酒、大概はウイスキーですかね。子供部屋をチェックし、布団をかけ直したりしてから、0時消灯です。日本に向けておはようツイートをしてから眠りに落ちます。

今日のひとこと。 『日常に生きる。切に生きる』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』『父 Mon Père』『エッグマン』など多数。近著に『立ち直る力』(光文社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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