相性の良いだしで調整、従来品と変わらない味に…サンヨー食品・高杉早紀さん
即席麺メーカー「サンヨー食品」
高杉早紀さん
減塩食品の開発・普及を通じて、健康社会の実現に貢献する企業へのインタビューシリーズ。節目の10回目は、いまや“国民食”と言っていい即席麺「サッポロ一番」で知られるサンヨー食品(本社・東京都港区、井田純一郎社長)が登場。減塩への取り組みの経緯から、販売促進に向けた苦労など、2017年12月までマーケティング本部でその開発と普及に取り組んだ高杉早紀さんに聞いた。
(※高杉さんは、2018年1月の異動で、サンヨー食品販売東北支店の勤務に変わっています。)
ビジネスチャンスをとらえ、減塩市場に参入
――サンヨー食品が減塩化商品の開発に至った経緯を教えてください。
「世の中の健康志向が高まる中、『塩分が高い=健康によくない』食品として、即席麺が上位に挙げられがちでした。それに対し、食に関するメーカーとしては、消費者の健康のために減塩化を進めることが重要な責務だという認識がありました。一方で、健康志向に高齢化社会の進行が相まって、しょうゆとか、みそ関連の減塩化食品が右肩上がりにあるという現実もあります。即席麺の市場にもビジネスチャンスがあるのではないかと思い、商品の開発・販売化に取り組みました」
――2014年9月に販売を始めた「サッポロ一番 大人のミニカップ きつねうどん」と「サッポロ一番 大人のミニカップ きつねそば」は、翌15年の第1回JSH(日本高血圧学会)減塩食品アワードの金賞を受賞しました。その半年後には「サッポロ一番 大人のミニカップ 中華そば」も販売しています。
「減塩化した商品は、『大人のミニカップ』のきつねうどんときつねそばが初めてで、開発は販売開始の数年前から行っていました。減塩化に加え、従来のおいしさを保つという、二つの課題をクリアできず、なかなか販売できずにいました。
味は、舌に伝わってくる順番に従い、塩味・酸味といった『先味』、うま味のような『中味』、こしょう系やかんきつ系といった香辛料のキレのような『後味』、以上の三つの味で構成されています。即席麺のつゆの場合、塩つまり塩化ナトリウムが加えられることによって、『先味』が強められるのですが、減塩のために塩化ナトリウムを減らすと、どうしてもそこが弱くなり、物足らない味になってしまいます。そこをどう補強するかがポイントでした。
なんとか、だしのうま味で補えないかと、従来使っている昆布や煮干しといった、何種類かのだしのうちから相性の良いものを探し、濃度やうま味の強さなどの調整を試行錯誤しました。その結果、塩分を40%カットした上で、従来品と変わらない味を実現することができました」

開発した商品を実際に作りながら説明する高杉さん
ライフサイクルの短い市場で、息の長い支持
――評判や売り上げはいかがでしたか?
「販売開始後に消費者調査をしていますが、一度手にとり、食べていただいた方の満足度は極めて高いですね。売り上げは、即席麺の業界はライフサイクルが短くて、年間に1000くらいの新製品が出て、お客様の支持が得られなければ、すぐに消えていくというのが現状です。『減塩』といった狭い市場ではありますが、4年近く販売を続けられているのは、消費者の方から一定の支持が得られていて、リピーターが付いているからです。商品力は評価できると思います。
ちょうど、『大人のミニカップ』の発売以降、減塩化商品の品ぞろえを増やそうという機運が各店の売り場の方で高まっており、追い風になっています。さらに今後、需要もゆるやかながら拡大していくことが見込まれます。地道ながら、こつこつと、商品力に磨きをかけていきたいと思っています」
店頭の見栄え重視で、「しずる」感あふれるパッケージ
――先行の3商品のリニューアル版として、2017年秋に販売を開始したのが、「サッポロ一番 大人のミニカップ 国産ぶなしめじが入ったきのこうどん」「サッポロ一番 大人のミニカップ 国産鶏のそぼろが入った鶏南ばんそば」「サッポロ一番 大人のミニカップ 国産丸鶏だし使用の中華そば」の3商品です。味やコンセプトにどのような改善が加味されたのでしょうか。
「だしと素材に国産素材を使うことで、よりおいしさ感をアップさせています。例えば、だしの場合、うどんだと瀬戸内産煮干し、そばだと北海道産利尻昆布、中華そばだと枕崎加工カツオ 本枯節 を使うことで、だしのうまみをより増すことができました。具材にも、国産のぶなしめじ、鶏肉そぼろ、丸鶏エキスを加味することで、さらに味がひきたちました
また、コンセプトについても、それまでの『ヘルシーだけど、おいしい』から、『おいしいのだけれど、ヘルシー』へと、がらっと変えています。4年前の減塩化商品の発売当初から、お客様の『減塩化商品=おいしくない』という固定観念を打破することの大変さをずっと感じてきました。リニューアルでは、商品のおいしさが伝わるようなパッケージデザインを目指す一方で、機能性についても消費者にしっかりそのメッセージが伝わるよう試行錯誤しました。
具体的には、写真の『しずる』感ですね。大々的にCMを打っているわけではありませんので、店頭でいかに手にしてもらえるかが、売れ行きに影響してきます。いかにもおいしいと感じてもらえるよう、店頭での見栄えを重視し、明るい色合いを採用しました。ウェブ上でお客様にアンケートさせていただき、3~4案提示した中から、リニューアル前の商品、さらには他社の競合品と比べて、最も評価の高いパッケージを採用しました」
新たな付加価値でさらなる需要掘り起しを
――今後の減塩化商品の展開予定、さらには健康および減塩に対する取り組みについて教えてください。
「減塩市場がさらに拡大していくだろうことは容易に想像できますので、即席麺市場でも対応していかなくては、と思っています。たとえば需要があるかどうかわかりませんが、通常のサイズより大きいものとか、いろんな形態で広げていくと同時に、しょうゆや塩、みそ、もしかしたら、とんこつや担担麺といった様々な味についても減塩化を進めていきたいと思っています。
即席麺は元々、手軽に調理ができ、安価で、常温で保存が利く、便利な食品です。人口が減少し、マーケットが変わっていく現代においても、基本的な利点に様々な価値を加えることで、その潜在能力をもっと顕在化させることができる、需要をまだ掘り起こせる商品でもあります。減塩化も新しい付加価値の一つであり、即席麺の違った一面を見せることで、これまで即席麺と縁のなかった方、少し縁遠くなっていた方に、また手にとってもらえるよう努力してまいります。商品のラインアップや味など、様々なご提案を通して、消費者の皆さんの健康と豊かな食生活に貢献していきたいと思っています」