【特集】睡眠のヒント

<子どもの眠りを守る>(3)小中学校で「良い眠りの出前授業」を

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「栄養」「運動」に後れを取った「睡眠」の啓発

 開始早々は少し眠そうな生徒もいた。午前の授業を乗り切り、給食、昼休みを終えたばかりの時間だから当然だろう。ところが講演が始まると、体育館に集まった400人あまりの全校生徒は、誰もが真剣な表情で話に耳を傾けていた。

 今年9月、東京都八王子市の城山中学校では「学校訪問型睡眠講座」が開かれた。

 この講座は2017年に精神・神経科学振興財団「睡眠健康推進機構」がスタートさせた「出前授業」。財団が全国の小中学校に講座開始を告知したところ、合計308の小中学校から応募があり、抽選で選ばれた40校に講師らが出向いて、生徒たちに睡眠の重要性を伝えている。

東京都八王子市の城山中学校で開かれた「学校訪問型睡眠口座」(2017年9月)

東京都八王子市の城山中学校で開かれた「学校訪問型睡眠講座」(2017年9月)

 同財団の高橋清久理事長は「これまで食事や栄養、運動の重要性は子どもたちに啓発されてきましたが、なぜか睡眠の重要性については置き去りにされてきました。勉強や運動などにしっかり取り組めて、毎日を元気に過ごすためにも、しっかり眠ることの大切さを伝えていきたい、と学校訪問型の公開講座を始めました」と狙いを話す。

 城山中の門馬弘校長は、応募の理由について「もっと生徒の学力向上を図りたいのですが、最近の中学生はスマホやゲームをやっている時間ばかりが長くなっています。だから勉強と睡眠の関係を根本から見直すことから始めるために、特別授業として申し込みました。結構な競争率の抽選になったと聞きましたので、幸運でした」と笑顔を見せる。

 

 講演前、同校の保健委員の生徒から、睡眠についての全校生徒へのアンケート結果が発表された(回答はすべてYesの割合)。

【設問1】 平日は朝7時までに起きますか?
1年生 80%
2年生 68%
3年生 49%

【設問2】 毎朝、すっきり目が覚めますか?
1年生 25%
2年生 13%
3年生  7%

【設問3】 平日、24時以降にも起きていますか?
1年生  8%
2年生 18%
3年生 57%

【設問4】 平日は、7時間以上寝ていますか?
1年生 73%
2年生 57%
3年生 28%

 予想通り、受験を控えた3年生の寝不足ぶりが明らかだった。

 驚いたのは「設問2 毎朝、すっきり目が覚めますか?」に対する回答だ。1年生でも4人に1人、3年生はわずか7%しか、気持ちよく起きていない結果となった。

 かつての中学生がどうだったかは覚えていないが、自分自身は毎晩たっぷりと眠っていたためか、起床時にそれほど苦労した記憶はない。やはり今どきの中学生は、絶対的に睡眠不足になっているようだ。

 学力向上に向けて、勉強と睡眠の関係をしっかり見直したいという門馬校長の狙いは当を得たものだった。

 この日の講師は、国立精神・神経医療研究センター(東京・小平市)の研究員で臨床心理士、そして東京都スクールカウンセラーも務めるの綾部直子さん。おっとりした優しい口調で生徒たちに語りかけた。

きちんと眠ると、覚えたことが記憶として定着します

優しい口調で生徒たちに語りかける綾部直子さん

生徒たちに語りかける綾部直子さん

 みなさん、お父さんやお母さんから「早く寝なさい!」「いつまでゲームやっているの?」「早く起きなさい!」と言われていませんか?

 日本の小学生が8時間半、中学生7時間と少し、高校生は6時間半ぐらいが平均の睡眠時間です。アメリカの研究によると、中学生の睡眠時間は8時間半~10時間ぐらいは寝てもいいと言われています。先ほどのアンケート結果を見ても、中学生のみなさんは全然足りていないことがわかりますね。

 睡眠の役割には二つあります。一つは、体を休めること。夢を見ているときには体を休めているわけです。これをレム睡眠と呼びます。もう一つは、頭を休めているノンレム睡眠です。個人差はありますが両方を90分ぐらいずつ繰り返しているのです。

 深く眠っているノンレム睡眠のときには成長ホルモンが出て、みなさんの体を作ってくれています。一方、浅いレム睡眠のときには、自分の記憶が整理されたりします。だから勉強した後に、きちんと眠ることで、覚えたことがしっかり記憶として定着したりするんです。 

 睡眠は個性――理想の睡眠時間を知りましょう

 ところで、みなさんは毎晩何時間寝るべきなのでしょうか? 8時間? それとも9時間?

 正解は「みんなが違う」です。睡眠には一人一人の個性があります。目覚めたときにすっきり感じられるかが大切なのですが、そこに至るまでに必要な時間はみんな違うんです。7時間ですっきりと目が覚める人もいれば、10時間は寝なくちゃ、という人もいます。だから、自分に必要な睡眠時間がどれぐらいかを知ることが大切なのです。

 だったら、どうすれば自分にとって理想的な時間がわかるのでしょうか。

 正解は「学校などで昼間、眠くならず、勉強の集中できればOK」です。

 もちろん、お昼ご飯の後やプールの授業などの後に眠くなるのは、誰にでも起きることなので大丈夫です。でも、午前の授業中から眠くなるようなら睡眠時間が足りないというサインです。しっかりと夜に睡眠を取るように心がけてください。

スマホは寝る30分前まで

 さて、みなさんの体の中には「体内時計」と呼ばれるものがあります。毎日、太陽の光を浴びたり、朝ごはんを食べたり、学校に行ったり、運動したりして、体の中の時計を動かしています。

 実は、この時計は毎日リセットされています。きちんと正確に動かすためには、毎日、同じ時間に眠り、起きる習慣が大事なのです。夜更かししたり、朝寝坊をしたりすると、時計が狂って体のリズムが乱れ、昼間の集中力や記憶力が悪くなったりします。イライラしたり、キレやすくなったりもします。やる気、楽しい気持ちも減って、落ち込んだ気分になりやすくもなります。ですから、受験勉強も夜遅くまで長時間がんばることはあまり効率的ではありません。

 では、しっかりと睡眠を取るためにはどうすればいいのでしょうか?

 まずは、毎日、朝食を食べる習慣をつけること。少しでもいいから、何かを口に入れる習慣をつけてください。また、あまり遅い時間に夕食を取らないことも大切です。食べたものを消化するために時間がかかって、眠りの質が悪くなります。

 そして、夜に明るい光を浴びすぎないこと。寝る直前にゲームをやったり、テレビを見たり、スマホなどを使ったりすると、ディスプレーの光の影響で寝つきが悪くなります。ゲームやテレビ、スマホは、寝る30~60分前にはやめて、リラックスする時間を作るようにしましょう。

 何よりも大切なのは、心配事を布団の中に持って行かないこと。あれこれ考え事をしていると、寝つくのが難しくなって、結果的に浅い眠りになってしまいます。これは大人も一緒です。心配事があって、眠りにくい日が続くようのなら、自分一人で抱え込まないで、ご家族や学校の先生に相談するようにしてください。

 「自分はうまく眠れていないな」と自覚している人は、ちょっと眠くても、毎日同じ時刻に起きるようにしてみてください。そして、積極的に朝の太陽の光を浴びたり、朝食を食べたりすることで、徐々に朝型の生活に変わっていき、夜も早く眠れるようになります。体内時計が整うには1~2週間ぐらいかかりますので、この間は休日も朝寝坊しないようにすることが大切です。(以上、抜粋)

 3年生の高山桃華さんは、講演の後、「最近は塾に行くようになって、テレビはあまり見なくなったけれど、夜10時以降にスマホで1~2時間ぐらい動画サイトを見てしまいます。布団に入ってから眠るまで30分ぐらいかかってしまうので、『スマホは寝る30分前にはやめるように』という綾部先生のお話を守りたいと思います」と話していた。

(医療ネットワーク事務局専門委員 染谷 一)

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