辻仁成「太く長く生きる」(38)「泣いて生まれて笑って死んで」

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辻38回目写真

我が家にあかんぼうがやって来た!

 

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 少し先の話ですが、来年2月22日初演で「99才まで生きたあかんぼう」という舞台の作・演出をやります。チケットはすでに発売になっておりますが、なんと劇場は前作「海峡の光」(中村獅童主演)を杮落こけらおとしさせていただいたよみうり大手町ホール。ということはヨミドクターの本拠地ということで、つながりました、勝手に・・・。笑。 

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 「99才まで生きたあかんぼう」は、0歳でおぎゃーと泣いて生まれた男の子が人間らしい数々の苦難を乗り越え立派な料理人に成長し、最期、愛する者たちに看取みとられながら99歳で亡くなるまでの一生の物語です。主人公は料理人ですが、その男の一生にかかわるすべての人々をたった6人の男優たちが演じ切ります。本作はコメディ仕立てですが、もちろんずっぷり泣ける話となっております。主催は日本テレビ、そして出演は、村井良大、松田凌、玉城裕規、馬場良馬、松島庄汰、松田賢二の、今を時めく旬の面々です。 

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 人間はなぜか泣いて生まれてきます。なのに、両親は笑っています。不思議な光景ですが、ここに人間の一生のなぞかけ、かけひきが凝縮されておる気がしませんか。当然、科学的根拠があるからこそ赤ん坊は泣くのでしょうが、私には、これからはじまる一生を不安に思って赤ん坊は泣くのに違いない、と思えてなりません。前世の記憶がまだ残っていて、いやだいやだ、またあんなに面倒くさい一生を生きるのなんかまっぴらごめんだ、と泣いているのじゃないか? 笑う両親や親戚の人たちはこの子が生きる途方もなく大変な一生を知っているくせに、みんな口をそろえて「可愛かわいいねぇ」と笑うわけです。赤ん坊が必死でわめき散らせば散らすほどに、大人の眉根はどんどん開いていくのですから、なんとも奇妙でなりません。そして赤ん坊はまもなく笑うことを覚えます。泣くことは生まれつきできたわけですが、意思を持って笑うことは人生の先輩たちに教わります。両親や親戚の人たちの笑顔がまさに教師。彼らが一生懸命あやすので赤ん坊も機嫌がよくなり笑うわけです。この泣き笑いは人間に一生付きまといます。誰かが生まれると笑い、誰かが死ぬと泣きます。くだらないことで大笑いをしストレスを解消する時もあれば、他人に苦しめられ涙を流すこともあります。けれども、人間は生まれて死ぬまで、ずっと泣き笑いの中にあるのです。すごいことじゃないですか? できることなら幸福な笑いに包まれていたいですし、泣く時には心を浄化させられるような涙を流したいものです。つまらない笑いのせいで苦しくなることもあり、涙のおかげで救われることもあります。泣いて笑うことはまさに人間の人間らしい行動の基本と言えるでしょう。 

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 うちに出入りをしている若夫婦の元に赤ん坊がやってきました。先日、その生まれたばかりの赤ん坊が我が家にやって来たのです。息子も私もびっくり。若い夫婦はいつも二人組だったのに、そこにもう一人増えて三人組になっておりました。「いるいる」と私がいいますと、息子君が「来たね、ほんとうに」と漏らしました。私があんまり赤ん坊の扱いが上手なので、息子君が驚いていました。「だって、お前をこうやって育てて来たんだぜ。おむつも換えたし、お尻だって拭いたよ」とからかいました。一同、大笑いです。「やめてよ、恥ずかしい」と苦笑する息子。しかし、それが人間。そのつながりこそが人間の輪です。うちの子は1月の半ば、14歳になります。この子が家庭を築いた時、そこにどんな赤ん坊がやって来るのでしょう。けれども、間違いなく、その子も泣いて生まれてくるはず。よしよし。泣く子は育つと言います。今から楽しみでなりません。 

今日のひとこと。 『幸福とは、泣いて生まれて笑って死ぬこと』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』など多数。近著に『父 Mon Père』(集英社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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