高血圧をコントロールしよう

メタボと高血圧~その結末は?

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東京女子医科大学教授 市原淳弘さん
(高血圧・内分泌内科)

 メタボリックシンドローム(メタボ)は、高血圧発症リスクの約7割を占める病態と考えられています。内臓脂肪の増加によって起きる物理的および化学的変化が血圧を上昇させる原因となるだけでなく、メタボ病態によって変化した腎臓の、塩を排出する能力の低下の原因にもなります。また、メタボの結果、増加するホルモンやメタボの原因に関わる神経経路によって起きる脳への影響も、高血圧の発症に関与します。ここでは、これらのメカニズムを解説したうえで、メタボによって起きる高血圧の結末を描き、メタボの予防と解消がいかに大切かをお話しします。

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メタボで増える毛細血管の網

 メタボになると、肥満体形によって体表面積が増加するため、皮膚の下にある組織に酸素や栄養分を運ぶ毛細血管と呼ばれる細かい血管の網が広がります。この毛細血管の網が拡大すると、網全体に十分な血液を送り込ませるために心臓は頑張らなければなりません。具体的には、心臓が拍動するごとに出る血液量が増加します。その結果、血圧が上昇してしまうのです。

酸素不足と血液ネバネバ

 内臓脂肪が増加すると、胸とおなかの境である横隔膜が持ち上がり、胸の動きが制限されるため、呼吸が不十分になり、体全体の酸素が不足します。また、メタボが重症化すると、気道の周囲にも脂肪がたまるため、気道が圧迫されて呼吸が円滑に行えず、酸素不足はさらに深刻化します。

 自律神経系には、血圧を上げる交感神経系と、それを抑制する副交感神経系がありますが、酸素不足は脳にある自律神経系に作用して交感神経系を刺激するので、血圧が上昇します。さらに、メタボで増加した血液中の中性脂肪は血液の粘度(ネバネバ)を増加させます。ネバネバした血液を全身に運ぶためには、高い圧力で血液を押し出すことが必要なため、血圧は上昇していきます。

メタボ腎臓は塩分の排出が苦手

 正常な腎臓では、塩分を余分に取っても腎臓から排出されるため、血圧は上がりません。しかし、メタボの腎臓では、塩分を上手に排出できないため余分な塩分は体の中にまり、血圧は上昇します。

 ではなぜ、メタボの腎臓は塩分を排出するのが苦手なのでしょうか?

 これには、三つの理由が考えられています。第一に、過剰な脂肪が腎臓の中に溜まり炎症が引き起こされることによって、塩分が尿中に出ていかなくなることが考えられます。第二に、メタボの内臓脂肪から出る物質がレニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系(RAAS)というホルモン系を活性化させます。RAASは腎臓に働いて尿中への塩分の排出を抑えます。第三に、前述のメタボ病態での交感神経系の活性化は、腎臓の中の交感神経系にも波及し、その直接作用として腎臓からの塩分の排出を抑えます。

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活性化する脳内の交感神経系

 メタボで増加した内臓脂肪からは、レプチンというホルモンが多く出ますが、レプチンは脳内の交感神経系を刺激するため、前述の腎臓を介したメカニズムによって塩分が体内に溜まり、血圧が上昇します。

 また、脳の中には POMC(proopiomelanocortin)経路と呼ばれる食欲やエネルギー消費、体重を調節する重要な神経系があります。この神経系は、肥満を起こしメタボに至る原因に関わります。通常は過食によって体重が増加しそうになっても、脳の中のPOMC経路が興奮することによって、エネルギーを消費させるホルモン系が活性化し、その結果、体重は増加しません。しかし、POMC経路に異常が生じると、過食によって体重が増加してメタボになるばかりか、交感神経系に過剰な刺激が加わり、血圧が上昇してしまうのです。

悲惨な結末回避へメタボ解消を

 ここまでの話で分かったように、メタボ高血圧の主な原因は、どうやら腎臓と脳にあるようです。

上昇した血圧は、さらに腎臓や脳にストレスを与えますので悪循環が起こり、多くの薬を飲んでも血圧が下がらない難治性高血圧になっていきます。血圧が高いままの状態が長く続くと、血管が傷み動脈硬化が起きてきますので、脳卒中や心筋梗塞を起こすだけでなく、腎臓が徐々に機能しなくなり、透析療法を開始せざるを得なくなってしまいます。さらに、全身の血行不良によって、歩くと足が痛くなる下肢閉塞性動脈硬化症や、脳の血流低下による認知症を引き起こします。

 したがって、食事療法や運動療法を頑張ってメタボを解消することは、高血圧発症の予防だけでなく、その先に待ち構える悲惨な結末を回避することにつながるのです。

ichiharaphoto150【プロフィル】東京女子医科大学 市原 淳弘(いちはら あつひろ)さん
1986年、慶応大学医学部卒業。米国Tulane大学医学部生理学教室講師、川崎市立井田病院内科医長、慶応大学医学部准教授などを経て、2011年から東京女子医科大学教授(高血圧・内分泌内科)。日本高血圧学会理事。
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