辻仁成「太く長く生きる」(34)「期待」

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 ◇ ◆ ◇  

 人に期待し過ぎちゃだめですね。むやみにぽんと夢を他人様に預けてしまうようなものですから、期待通りにならないときの落ち込みと後悔といったらありません。だいたい私たちが抱える多くのストレスというのは、つまり期待したものが実現しないときに生まれるのです。人に期待するというのは「あの人だったら~に違いない」を相手に押し付ける行為で、それは他人への依存といってもいい。期待=依存ですから、期待通りにならない時、人間関係もおかしくなってしまうわけです。じゃあ、どうすればいいのかというと、期待ではなく信頼すればいいでしょう。「人に期待」というのは結果を待ち望むことであり、しかも人任せにするということになります。逆に、「人を信頼」というのは結果を待ち望むことだけじゃなく、結果が最悪ダメでもそこへ至る過程や努力した他者を尊重することにつながります。人に、と、人を、の差こそが、期待と信頼の差なのじゃないか、と思うのです。 

 ◇ ◆ ◇  

 それでも人間は他人に期待をしてしまいます。私も人に委ねて期待し、なかなか結果が出なくてつらい思いをしたことが何度かあります。信頼の先にあるものは何でしょう? 期待の先にあるものが失望だとすれば、信頼の先にあるものは自信じゃないでしょうか。難しいかもしれませんが、まず人に期待するのをやめる。つまり、人に期待するから苦しくなるわけですから、期待しなければストレスがぐんと減るわけです。そんなことできるの? もちろん簡単ではありませんができると思います。他人に期待するから苦しくなるので期待は絶対しない。だから自分でやる。他人を信じないのじゃなく、他人に押し付けるのをやめて、まず、もっと自分を信じてみる。自分を信頼するという方向にもっていくのです。つまり、結果がダメでも、それは期待じゃなく信頼ですから、また頑張ろうということになる。自分を信じて応援することが、自信という信頼に行きつく方法かもしれません。 

 ◇ ◆ ◇  

 他人に依存するから他人に期待をしてしまう。そして、期待が裏切られると自分のせいなのに人のせいにしたくなり人間関係にひびが入ります。悪循環ではありませんか? 人に期待するのは、ひとっ飛びに結果がほしいからです。しかし、そもそもひとっ飛びに結果を出すというのは、それだけの無理を連れてきます。自分でコツコツ一からやるのが億劫おっくうなので、他人の才能や懐や力を利用しようという根性に他なりません。これではいい結果は生まれないし、最良の人間関係は築けません。この期待するという人任せ、運を天に任せるような期待を一度捨ててみるべきです。そして、大変でも自力でコツコツとまず自分を信じて進むしかありません。才能や懐や力がないのでそれは大変な労力を要すると思いますが、自信がつけば結果以上の成果が得られるはずです。私は「期待し過ぎじゃないか?」とよく自分を戒めます。期待する自分を恐れるというのも一つの手かもしれません。期待して何か成果が出たか、思い返してみてはいかがでしょう? 期待してがっかりした記憶の方が圧倒的に多いはずですから。そのくらい期待というものはかなわないものなのです。人に期待して叶わない時に生じる失望や落胆が人の人生をおかしくさせます。人に期待はしない。自分を信頼する、が一番正しい方法かもしれません。第三者と一緒に何かを始める時も、「期待しています」と言わないで「信頼しています」と言うと、まず自分自身が気楽になるものです。 

今日のひとこと。 『信頼する気持ちは愛です。期待する気持ちは欲望です。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』など多数。近著に『父 Mon Père』(集英社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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