辻仁成「太く長く生きる」(32)「ユーチューブで成績アップ作戦」

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(最終)新世代賞 ポスター-(B2)教師と父母の面談。頭が痛いのは子供たちばかりじゃない。

 

 ◇ ◆ ◇  

 体調が悪くせっておりましたら携帯に息子の学校の教頭先生から電話があり、飛び起きてしまいました。なんでも、「去年受けていたエチュード(課外補習授業)を今年は受けないようだが、ハンデがあるので今年も引き続き受けるべき」という指導でした。ハンデというのは親が(つまり私のこと)フランス語をしゃべることができないので、ほかの子よりも不利だということのようです。笑。耳の痛い助言ですね。仕方ないので今年もエチュードに参加させることにしました。毎週、2回、授業の後に学校に居残りをし、先生たちのアドバイスを受けて弱いところを補強させるプログラム。1年間で120ユーロ(約1万5000円)ほどです。しかし、塾に通うよりもうんと安いので親は助かります。 

 息子の通う学校は進学校で100パーセント、大学へ上がります。フランスはバカロレアと呼ばれる日本の大学入試センター試験のようなシステムがあり、ここを通過しないと大学生になれません。息子の学校は全員がバカロレアを突破するので、進学校といえるでしょう。我が息子、昨年は落第の危機にありましたが、親子で頑張り、この秋からA組(成績でアルファベット順にクラス分けされている)になりました。息子いわく、新しいクラスメートはみんな「ドラえもんの出木杉君みたい」だとか。ともかく、順調に成績を伸ばしています。そのこともあってエチュードを申し込まなかったのです。 

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 実は、彼が成績を伸ばしたのには秘策がありました。それはユーチューブです。日本のユーチューバーは最近、いろいろと問題を起こしてたたかれておりますね。内容も人によりさまざまですが、人気ユーチューバーの番組の中にはちょっと見せるのがはばかられるようなものもあります。個人的にはビートボクサーでもあるダイチ君、いいなと思います。 

 ところが、フランスのユーチューバーたちが作る番組は日本とはちょっと違っているのです。先輩たちが後輩たちに何かを伝える、割と向学心あふれる番組が多いのです。たとえば中国系フランス人のユーチューバー、ケビンは日本の東大のような大学に通っていますが、400万人ほどのフォロワーを持っており、バカロレアを突破するための秘策などを面白可笑おかしくアドバイスします。1000万人フォロワーを有するシプリアンは映画製作などを実践してみせ、かなり本格的な映像制作番組を作ったりしています。そこで私が目を付けたのは、息子の不得意科目である、化学、物理、歴史、ラテン語、スペイン語などを専門とするユーチューバーたちです。彼らは実際に先生だったり大学院生だったりするのですが、ユーチューブですから、もちろん楽しく教えてくれます。息子はユーチューバーが大好きな今どきの子なので、そのおかげで、とっても前向きに勉強に取り組むようになりました。実際、その手の番組を見るようになって、息子の成績はうなぎのぼり。落第するかも、と言われていましたが、今年、見事にV字回復を果たしたのです。 

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 先ほど紹介したケビンが通うグランゼコールという大学は東大並みの超難関大学なのですが、ケビンがグランゼコールの良さを語るものですから、ある日、息子はケビンのような大学生になりたいと言い出し、猛勉強をスタート。勉強というものは、本人がやる気が出るまでの勝負じゃないでしょうか? やる気が出たらもう親の出る幕はありません。 

 「ぼくは大学に行けるかな? ケビンのような大学生になりたいんだ」 

 と言い出す始末。これって、親としましては、シメシメな話ですよね? シングルファーザーなのでいろいろと大変でしたが、ここにきて乗り越えられそうな自信がついてきました。それもひとえにフランスのユーチューバーたちのおかげなのです。ケビン、ありがとう!!! 

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 PS、後日談ですが、息子から教わったのですが、フランスのユーチューバーが日本のユーチューバーの作品を先日批評していたらしいのです。「彼らがバカみたいな番組を好んで作るのは、日本人がいつもまじめに生きているから、バランスをとるために必要な行動なんだ。ぼくは日本のユーチューバーたちの、はちゃめちゃな番組も面白いと思う」と。なるほど、こういう見方もあるんですね。実に新鮮です。 

今日のひとこと。 『子供が勉強を好きになるまでが親の仕事かな。』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』など多数。新刊に『父 Mon Père』(集英社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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