辻仁成「太く長く生きる」(31)「BIO天国フランス」

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(最終)新世代賞 ポスター-(B2)フランスはとってもBIOブーム!

 

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 渡仏した15年前、スーパーに行ってびっくりしたことがありました。卵の消費期限がひと月以上! 怖くなり、生卵を食べることができなくなりました。そこで足繁く通うようになるのがBIO(有機)専門店! 日本でも有機食材店が増えてきましたが、まだまだ浸透していません。東京滞在中に一番困るのが、このBIOショップが首都圏に少ないという点です。ところがパリ市内、今はそこかしこに有機食材専門店が存在しています。 

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 渡仏した15年前によく通っていたナチュラリアは、パリ首都圏に90店舗以上あります。最近、しょっちゅう通っているのがビオ・セボン。低価格で消費者に人気のチェーン店です。とにかく安い。主夫としては助かります。ほかにもフランス全土で250店展開するビオ・コープや高級志向のロー・ヴイヴ、全国展開しているビオモンドなど挙げればきりがありません。 

 有機野菜や有機食材しか使わないレストランの数も増えました。個人的には家族経営の小さなレストラン「veggie」の野菜サラダが好き(ただし、ネット評価は2・5!笑)。自分で野菜サラダを作ろうと思うとかなり買いこむ必要があり、その日の気分で好きなものを食べたいだけ選べるこの手の店はありがたい存在なわけです。連日、途切れることのない大行列。パリジャン、パリジェンヌの健康志向の高さがうかがえます。 

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 1970年代初頭に欧州各地で行われた農業見本市などから広まり、フランスでも有機農業を促進する運動が広がりました。80年には政府が有機農業を認証するようになります。ダイオキシン汚染や鳥インフルエンザ、狂牛病などの影響もあり、消費者もBIO食品を求めるようになり、21世紀になると、有機農業への税法の緩和による後押しでBIO食材の拡大が促進されました。消費意識がぐんと広まり、大手スーパーマーケットにも有機コーナーが登場、その後、有機食材だけのマルシェ(市場)ができたり、全国に専門店がチェーン展開するという流れにつながります。フランス人が有機食材を選ぶようになる必然がここにあるわけです。 

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 私がよく行くBIO専門スーパーの食材は本当に豊富。大手スーパーに負けない品数がそろっています。しかも、それが買い求めやすい値段で買える時代になったことが大きい。15年前、有機食材は普通のものより3割くらい高い印象がありました。しかし、今は、店によっては変わらない金額で買えるようになりつつあります。豆腐も豊富です。もちろん、日本で売られているような豆腐はありませんが、豆腐を材料として加工した様々なアイデア商品が棚を埋めつくしています。各種スパイスと混ぜて作られたもの、カレー風味の豆腐とか、豆腐というよりもパテのような練り豆腐に近いもの、豆腐ハンバーグなども地中海風、インド風、アラブ風と何種類も存在し、本当に様々な豆腐が棚でひしめき合っています。豆腐が体に良い、というイメージの広がりがその根源にあるのでしょう。もともと豆腐の味はフランス人にはたんぱくすぎるので、彼らの口に合った豆腐がアレンジされ、広まったという次第です。慣れれば別物としておいしいと思えるようになりましたよ。笑。 

 BIO専門店では、お米とか穀物とかスパイスや豆類が量り売りされており、便利です。食べたい量を少量でも買うことができるからです。ワイン、ビール、コーヒー、お菓子、ジュース、お肉、チーズ、あらゆる野菜まで、ほぼすべての有機食材が存在しています。ありがたいだけではなく、面白いし楽しい。育ち盛りの息子を育てるシングルファーザーとしては本当に助かっています。この流れ、日本でも広まる日が来るのでしょうか? 

今日のひとこと。 『体が喜ぶおいしいは、まず心が喜ぶおいしいから』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』など多数。新刊に『父 Mon Père』(集英社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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辻仁成「太く長く生きる」

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