高血圧をコントロールしよう

減塩では「後進国」の日本…取り組み、世界と差

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滋賀医科大学 教授 三浦克之さん

日本人の食事、1950年代に比べ食塩摂取量は低下

 最近は「日本食」の良さが強調されていますが、伝統的な日本食は決して良い面ばかりではありません。醤油しょうゆ味噌みそ、漬物などの伝統的食品には高食塩のものが多く、かつての日本は世界でも最も食塩摂取の多い国の一つでした。1950年代の調査では、東北地方の人は1日30グラム近い食塩を取っていたことが分かっています。このため高血圧が蔓延まんえんし、脳卒中が多発しました。

 その後の減塩対策や冷蔵庫の普及(食塩による食品保存の減少)で、東北地方も含めて日本人の食塩摂取量は大きく低下し、現在では1日11グラム程度まで減少しました。日本人も長い期間をかけて食塩の少ない食事に慣れ、それを「おいしく」感じるようになったのです。おそらく現代の日本人は、1950年代の食事は塩辛すぎて食べられないでしょう。

年を取ると血圧が上がるのは常識?

 1980年代に世界32か国で食塩摂取量と血圧を測定する研究(インターソルト)が行われました。その結果、ブラジルやパプアニューギニアで原始的な生活をしている人々の食塩摂取量は1日3グラム以下であることが分かりました。野生生物も同程度ですから、生き物の中では文明化した人類だけが多量の食塩を取っていることが分かります。

 また食塩摂取量がとても少ない集団では、年齢が上がっても血圧が上昇しないことも分かりました。下のグラフのようにブラジルのヤノマモ族の血圧は20歳代から50歳代までほぼ変わらず、男性の最高血圧は約100mmHg、女性の最高血圧は約90mmHgで一定であり、高血圧の人はいませんでした。

  このように、年齢とともに血圧が上がるのは、子供の頃から多量の食塩を取っている文明国での話であり、決して「常識」でないことが分かります。

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日本の減塩目標よりさらに厳しい世界目標

  伝統的に食塩摂取量が多く、脳卒中が多かった日本では、長い間、減塩対策に力を入れ、世界でも「減塩先進国」であったと思います。実際、日本人の食塩摂取量はかつてより大きく低下しました。

  しかし日本を含む東アジアの食塩摂取量は、世界の中で見るといまだに一番高いレベルにあります。現在、日本の食塩摂取量の目標値は、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、1日あたり男性8グラム未満、女性7グラム未満で、以前より厳しくなっています。WHO(世界保健機関)が定めいている目標値は5グラム未満とさらに厳しい数字で、日本は減塩の努力を継続する必要があります。

世界の減塩対策、社会全体での取り組みに

  減塩の努力を個人にだけ負わせるのは限界があり、社会全体で減塩の環境を整える努力が世界では進んでいます。これは減塩のポピュレーションアプローチと呼ばれるものです。

  減塩のポピュレーションアプローチにはいろいろな形があります。その一つに加工食品の減塩対策があります。「減塩のススメ~できることから少しずつ」で紹介した加工食品の食塩含有量表示も対策の一つです。イギリスでは消費者に分かりやすく表示する対策が進んでおり、例えば食塩の多い食品には赤信号の表示を付けるなどしています。

  また、加工食品の食塩含有量を政府が指導あるいは規制をして、少しずつ下げる対策も進んでいます。イギリスではその効果で、下のグラフのようにパンの食塩含有量が過去10年間でしっかり下がってきています。イギリスではパンからの食塩摂取が問題なのです。ほかに、乳製品や肉加工品なども含め、法的に含有量の規制をはじめた国々もあります。

  学校や病院で使う食品を行政が購入する際、食塩含有量の高いものは購入しないという規制をしている国もすでにたくさんあります。さらに、食塩の多い食品に課税する国も出てきています。

  このように世界各国がWHOの減塩目標達成に向けて努力している中で、日本は減塩「後進国」になりつつあります。「減塩」は、異常な「高塩」社会から脱して、人間本来の正常な状態に戻していくことです。国民全体が無理なく減塩を達成できるような環境作りを進めていく必要があります。

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miuraphoto【プロフィル】滋賀医科大学教授 三浦克之 (みうら かつゆき)さん
1988年、金沢大学医学部卒業。1999年、米国ノースウェスタン大学客員研究員、2002年、金沢医科大学医学部助教授などを経て、2009年から滋賀医科大学医学部教授。2013年から、同大アジア疫学研究センター長を併任。

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