【特集】睡眠のヒント

朝食で体内時計のリセットを ~時間栄養学による良い睡眠のコツ~

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早稲田大学先進理工学部・柴田重信教授

柴田ポーズ② 睡眠のリズムには、体の二つの仕組みがかかわっている。起きて活動をしていると、脳に睡眠物質がたまってきて眠たくなるのがひとつ。もうひとつは体内時計の働き。脳の視交叉上核しこうさじょうかくという部分が支配し、約24時間のリズムを作っている。これをマスター時計にして、体内時計は肝臓や皮膚など全身の細胞にも組み込まれている。例えば腸や肝臓にも働きが活発になる時間とそうでない時間がある。このような時間と食事の関係を研究する時間栄養学が近年、関心を集めている。何を食べるかではなく、いつどのように食べるか。よい眠りに役立つ食べ方について、時間栄養学を専門にする早稲田大学先進理工学部の柴田重信教授に聞いた。

――時間栄養学では、どのような研究をしているのですか?

  私たちの体は1日のリズムを持っています。リズムを作るのが体内時計で、脳の中で視神経が交叉する視交叉上核にあります。体内時計は24時間よりもやや長く、朝起きたら光を浴びて、目から入る光の刺激でリセットすることができます。それ以外に脳の大脳皮質や海馬、肝臓、腎臓、肺など全身の組織に時計遺伝子が働いていることがわかっています。約3万の遺伝子のうち15%が時間で変動すると言われています。「夜食をとると太る」と経験則として知っていますね。夜間に食べると吸収は下がりますが、消費されないので太ることが、実験からも確かめられています。体内時計に食や栄養が制御され、逆に食事も体内時計を制御する、そういうメカニズムなどを研究しています。

朝食とは、必ずしも朝に食べる食事ではない

――ぐっすり眠るには、規則正しい食事が大事と言われますが、どうしてでしょうか。

  体内時計のリズムを整えるには、朝食が大切です。食事をすることで、インスリンが分泌され、時計遺伝子が発現して時計がリセットされます。光の刺激と同様に、朝食を食べることで、眠りから活動に向かうリズムが整えられるわけです。朝食というのは、必ずしも朝に取る食事に限りません。1日で一番長く食べなかった後で取る食事です。朝食、昼食、夕食のインターバルは、夜から朝が最も長いので通常は朝の食事になります。英語で朝食をbreakfastと言いますね。文字通りには、break(破る)fast(断食)という意味です。その意味での朝食をしっかり取ることで、体内時計のリズムが整い、質のいい睡眠につながります。

――朝食には何を食べると効果的なのでしょうか。

  体内時計をリセットするという点からは、ご飯やパンなど基本的には糖質をとればいいのですが、たんぱく質と組み合わせると効果が高いですね。魚の脂にもリセット効果があります。睡眠だけではなく、健康のことを考えて、肉や魚、野菜などを取ってから最後に糖質を取るというのが望ましい食べ方です。こうするとインスリンの分泌が緩やかになり、血管を傷つける急激な血糖値の上昇が避けられるからです。私たちの研究で、朝、肉や魚などのたんぱく質を食べる方が夜食べるよりも筋肉が増えることがわかっています。日中は体を動かすからです。魚にご飯、みそ汁という和風の朝食はバランスがとれていて、体内時計のリセットに良いと思います。

――体内時計のリズムを整えるためには朝食、昼食、夕食のバランスはどうするのがよいのでしょうか。

  夜の食事が多いと夜型に動くので、夜は軽め、朝の食事を重くしたいところです。20代から50代の1200人で調べたところ、朝食:昼食:夕食の比率は、2:3:5でした。予想通り、全体に夜が重いです。特に30代の男性は朝が少ない傾向が見られました。せめて3:3:4にしたいですね。眠っている間、体温は1、2度下がります。朝は活動するため体温を上げる必要があるので、同じ内容の食事を朝と夜で比べると、朝食べた方が熱になりやすい、つまり食べたものが消費されやすいことがわかっています。データを見ても、朝食の比率が低い人は太っていて、夜型のリズムに傾きがちなので睡眠時間が少ない結果でした。

カフェインは体内時計を遅らせる

――夜の飲み物としてホットミルクがすすめられることがありますが、科学的な根拠はありますか。

  体内時計を調整し、眠りに影響するメラトニンというホルモンがありますが、牛乳にはメラトニンを作るアミノ酸のトリプトファンが豊富です。牛乳は習慣で朝飲む人が多いのですが、骨粗しょう症対策としてカルシウムの吸収を期待するのなら夕食時に飲んだ方が効果的です。夜のホットミルクには理由があるということです。飲み物で言えば、コーヒーなどカフェイン飲料には覚醒作用がありますが、体内時計を遅らせる作用があることもわかっています。ブルーライト(パソコンやスマホなどの光)も体内時計を後にずらすので、眠りのためには、カフェインと同様に夜間は避けたいですね。

――シフトワークで生活のリズムが変わってしまう時、食事についてはどのような配慮をすればいいのですか。

  恒常的に生活時間が一般社会とずれるのなら、眠って目覚めた時の食事を朝食と考えて、生活のリズムを作ればいいのですが、1週や2週に1回、8時間ずれるといったシフトワークは負荷がかかりますね。体内時計はそんなに大きく動かないので、夜勤用の生活はせず、通常の生活をベースにして、仮眠を取ったり、夜間は最低限の食事に抑えたりして対処するのがいいと思います。

柴田重信(しばた しげのぶ)早稲田大学教授(先進理工学部、電気・情報生命工学科)
1976年九州大学薬学部卒、1985年ニューヨーク州立大学Research Associate、1995年九州大学薬学部助教授、1996年早稲田大学人間科学部教授、2006年から現職。日本時間生物学会副理事長、薬剤師、臨床検査技師。

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