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太陽生命 田中勝英社長インタビュー(上) 認知症で困る人をなくしたい

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 認知症になった時の経済的負担に備える認知症保険が注目を集めています。
 太陽生命保険は、2016年3月に発売した国内初の認知症治療保険の契約数が、1年で16万件を突破したと発表しました。終身型保険の場合、60歳女性なら月8,000円程度の保険料で認知症への備えができることで人気になっているようです。

 厚生労働省は認知症の高齢者数は2012年時点で約462万人、2025年には高齢者の5人に1人にあたる700万人に達すると推計しています。一方、家計経済研究所(東京都千代田区)の調べによると、「要介護4か5で重度の認知症」の在宅介護費用は、1か月平均約13万円に上り、経済的負担が重くのしかかります。

 超高齢社会の課題にいち早く着目した太陽生命保険の田中勝英社長(62)に、認知症保険開発の背景をはじめ、「健康経営」のあり方、これからの生命保険業界の社会的使命について聞きました。

 

高齢者の暮らしの不安を解消

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――要介護状態になった時への備えとしては、公的な介護保険もあります。それとは別に、なぜ認知症に特化した保険を発売したのですか?

 公的な介護保険には、金銭的な保障はありません。もしも要介護状態になると、介護費用の自己負担分はもちろんのこと、ご家族が仕事を辞めざるを得なくなったりするなど、思わぬ経済的負担がかかってきます。公的介護保険では不足する部分を保障する、認知症に特化した保険が必要だと考えました。

 当社が発売した「ひまわり認知症治療保険」は、アルツハイマー型など脳の組織変化による認知症と診断され、その症状が180日継続すると、最大で300万円の一時金を受け取れます。5年以内にがんの手術をした人などを除くと、大きな病気をした方や健康に自信のない方でも加入していただけるようになっています。加入後、一時金の受け取りは認知症との診断が基準であり、要介護状態になったかどうかは要件ではありません。

――2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。保険金の支払いコストのリスクも考えられますが。

 社会の不安を軽減するのが、保険会社の使命と考えています。寝たきり状態でなくてもお支払いができる終身介護保険「とことん介護」を2000年に開発しましたが、これも高齢社会が到来し、お年寄りやそのご家族など、一番困る人たちの役に立つサービスを提供したいという思いが背景にありました。

 高齢社会における介護のあり方は私のテーマのひとつです。最初に介護保障特約付団信(団体信用生命保険)を作ったのも当社です。

 一家のご主人が30歳代で若年性アルツハイマー(型認知症)になって介護が必要になった場合、たとえ住宅ローンがあっても仕事を辞めざるを得ないのが現実です。また、国の介護保険の適用は40歳以上なので、介護保険のサービスも使えず、奥さんがご主人の介護をしなければならなくなる。30歳代で認知症になる可能性は非常に低いですが、万が一、そうなったら治療費も介護費用も生活費も大変なことになります。そんな時にきちんと保険金が下りるような仕組みをと考えたのが介護保障特約付団信です。

――それが認知症治療保険の前段階にあったということですか。

 そうです。これがなかったら、今回の認知症治療保険は作れませんでした。さまざまな疾病について、年齢ごとの発症率など詳細な基礎データがなければ生命保険は作れません。終身介護保険や介護保障特約付団信をいち早く開発したおかげで、わが社には豊富なデータが蓄積され、認知症治療保険の開発が可能になりました。これこそが先ほどのリスクについてのご質問への答えです。

――高齢者の加入者も多くいらっしゃったのですね。

 3年前、太陽生命には、70歳以上のお客さまが約60万人いましたが、保険の内容や請求の仕方などが、よく理解できなくなっている方も多くいました。そこで、どの会社よりも高齢者に優しい会社になろうと、「ベストシニアサービス」という取り組みを始めました。

 このサービスは、70歳以上のお客さまを一人一人訪問して、契約内容の確認など、ご加入いただいている保険のことをもっとわかっていただこうというものです。社員みんなで手分けして約60万人全員に連絡した結果、いろいろなことがわかってきました。

 すでにお亡くなりになっている方がいたり、保険金請求をされていないお客さまがいたり。中には『自分一人では請求書が書けないが、そのために息子に来てもらうのは悪い。迷惑かける』との理由で保険金請求をしていないお客さまもいらっしゃいました。この訪問サービスを通じて、高齢者のお客さまが感じている暮らしの心配、認知症など健康への不安もよくわかってきました。そんな不安解消のお手伝いをしようと、認知症治療保険、それに支払いの専門知識のある職員が直接お客様のもとに伺ってご請求手続きをサポートする「かけつけ隊サービス」が生まれました。

認知症治療保険加入者に「予防アプリ」

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――保険加入者の健康増進や認知症の予防にも積極的に取り組んでいると聞きました。

 多くの人の生活習慣を調査した研究から、運動習慣のある人は、ない人に比べて認知症の発症率が低いことが分かってきているそうです。また、認知症の中には早期に発見して適切に対応すれば治るタイプもあるし、たとえ治らない場合でも、早期からの治療・ケアで進行を遅らせたり症状を緩和したりすることが期待できるといいます。そこで、認知症治療保険を作る時、この保険に入ったら、できるだけ早期に、例えば認知症予備軍ともいわれる「MCI(軽度認知障害)」の段階で発見できるような仕組みを考えました。

 日本から認知症で困る人をなくしたい。認知症治療保険はそのためにあります。まずは運動習慣を持ってもらうことで予防につなげ、さらに早期発見に努めていただくためのお手伝いをしたいと思います。

 一般的には、事故が起こった時に保障するのが保険だと思われていますが、そうではなく、事故を起こさないための保険にしたい。最近の自動車保険では、自動ブレーキなど安全装備があるお客さまの保険料を安くするなどの仕掛けをしています。これは、事故を減らす努力の一つです。生命保険も同様に、病気を減らす努力をしたいと考えています。

――具体的には、どのような取り組みをしているのですか?

「認知症予防アプリ」では、歩行数などが画面に表示される(=写真左)。

 国内初の「認知症予防アプリ」(=写真左)を、認知症治療保険に加入いただいているお客様に提供しています。これは、歩行速度を継続的に測定し、速度が急に遅くなると、お客様に通知するスマートフォンのアプリです。東京都健康長寿医療センターの大渕修一先生に監修していただきました。35歳を過ぎると、1分間で5メートルほど歩行速度が遅くなるそうですが、これが急に遅くなったら、認知症やMCIの予兆の可能性があるというのです。そこで、変化があればいち早くご本人に通知して、早期受診のきっかけにしていただければと思っています。また、とりたててスポーツをしていない人でも、毎日適度に歩くことで運動習慣を身につけてもらえるよう、アプリで応援する仕組みになっています。

 アプリには、あらかじめご指定いただいたご家族に、ご本人の状況をお伝えする見守り機能もつけています。先日は、アプリを通じておばあさんの歩行が少なくなったことを知ったお孫さんが、心配して連絡を取ったら、入院していたということがありました。お孫さんに心配をかけまいとしたおばあさんの配慮だったのですが、お孫さんから連絡をもらったととても喜んでいたそうです。

――「ひまわり認知症治療保険」は、比較的簡単な申告で加入できるタイプのようですね。

 本当に保険が必要な人はリスクの高い人ですよね。「将来が不安」「後々の生活が心配」など、個人が感じるリスクは様々です。だからリスクの高い人にも入っていただけるのがいい保険だと思います。本来、保険というものは、弱者を保障するためなのですから、だれでも入れる保険でないといけないというのが私の持論です。

(聞き手・菅谷 千絵)

田中 勝英(たなか・かつひで)
【略歴】1954年生まれ、香川県出身、1977年慶應義塾大学経済学部卒。同年太陽生命保険相互会社(現太陽生命保険株式会社)入社。徳島支社長など全国6拠点の支社長、営業部長などを経て、2001年取締役契約サービス部長、2004年常務取締役、2007年取締役専務執行役員お客様サービス本部長、2009年代表取締役副社長営業本部長、2011年代表取締役社長(現職)、兼株式会社T&Dホールディングス取締役(現職)

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