認知症を理解し、予防しよう

武地 一さん(4)「認知症カフェ」って何?

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藤田保健衛生大学医学部認知症・高齢診療科教授
武地 一(たけち・はじめ)氏

 自宅にこもりがちな認知症の人や家族が安心して集える場として、「認知症カフェ」と呼ばれる活動が全国に広がっています。地域住民や医療・介護の専門職ら、誰もが参加できるのが特徴で、自由に語らう中で認知症への理解が広がり、介護する家族の悩みの解決にもつながると注目されています。

 長年、認知症の診療に携わっている藤田保健衛生大学の武地一教授(認知症・高齢診療科)に聞くシリーズの最終回では、「認知症カフェ」の成り立ちや実際の取り組み、その役割などについて伺いながら、認知症になっても安心して暮らせる社会とは何かを考えたいと思います。

(本田麻由美)

病気を受け止め、自分らしさを発揮できる場

武地 一氏

武地 一氏

――「認知症カフェ」とは、どういうところなのですか?

 認知症の人や家族、地域の住民、医療関係者ら誰でも参加でき、くつろいだ雰囲気の中で気楽に話ができる「居場所」でしょうか。

 オランダで1997年に始まった「アルツハイマーカフェ」が出発点で、認知症についての情報を提供し、認知症の人や家族がお互いの経験を分かち合い、孤立しないようにするのが目的です。また、地域住民や専門職にとっては、本人・家族に接することで、認知症への理解をより深める場でもありますね。

――オランダの取り組みが日本でも広がっているのですね。

 はい。その取り組みが他国にも広がる中、日本でも2012年に厚生労働省が定めた「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)」に「認知症カフェ」という言葉が正式に盛り込まれました。「認知症カフェ(認知症の人や家族、支援する人たちが参加して話し合い、情報交換等を行う場)」等を普及させると言及したことで、その内容や意義などが広く知られるようになりました。

 厚労省によると、2016年3月末現在で、全国722市町村に2253か所の取り組みがあり、市町村やNPO法人、介護サービス事業所など運営者もさまざまです。民家や公民館、病院などを会場に、参加者が一緒にお茶を飲んだり、音楽を聴いたり、みんなで料理を作ったりと、それぞれに特色があるようです。

――最近は、がんの患者や家族、医療関係者らが「カフェ」や「サロン」という形で集う活動も活発ですよね。同じ経験を持つ人たちが思いを分かち合うことで、病気と向き合う力につながるということでしょうか?

 そうですね。カフェという言葉が「マジックワード」で、くつろいだ雰囲気をイメージさせます。病院を受診するとか、行政の窓口に相談するというのは少し堅苦しいけれど、「カフェ」と言われると気楽にしていていいと感じられるのでしょう。認知症の本人には本人の思いや不安があり、家族には家族が背負っているものがある。それを、自然にはき出すことを促し、上手に受け止めていくことを支える場が「認知症カフェ」であり、全体をコーディネートするのがカフェの役割なんです。

 本人と家族が一緒に来ることも多いですが、家族は家族同士で気持ちを受け止め合ったり、悩みを相談し合ったり。本人には本人の受け止め方があります。

認知症カフェ1

武地氏がかかわる認知症カフェ(京都市内で)

 例えば、私は5年ほど前から京都市内で認知症カフェの運営に関わっているのですが、そこの常連に、Aさんという70歳代後半の男性がいます。彼は、「認知症になってよかった。認知症にならなければ、こんなふうにいろんな人と出会って、話をする機会はなかったと思う」と言うんです。

――「認知症になってよかった」と? 思いがけない感想ですね。

 この男性は、私の外来患者さんで、認知症の早期の段階ですが、診察中は医師と患者という少しかしこまった感じで話をされます。でも、カフェではお互いに普段着ですから、私とも楽しく、気楽な調子でおしゃべりが弾みます。そんなAさんが、カフェでこんなふうに話してきました。

 

Aさん:ここに集まっている人は病気のことが共通点でしょ。でも、病気のことを話すばっかりじゃなくて、いろんなアホな話も何でも話せるからいい。自分の弱い部分もみんなに分かってもらっているから、とても気楽になれる。弱いところを隠さないといけない場所はしんどい。

 実は、認知症の人の多くが、「外では弱いところを隠そうとしている」と言います。「何度も同じ話をしてしまう」「約束したことを忘れてしまう」などということは認知症の症状として表れているのですが、それを何とか隠そうとして、息苦しさを感じて生きている。でも、カフェでは、周りがそういうことを理解しているから、同じ話を繰り返していても気兼ねなく居ることができる。だから、楽しく来ることができるんだと言いますね。

――カフェは「心理的な治療・ケアの場」とも言えそうですね。

 誰でも、年を取っていく自分を受け止めながら普通に暮らしているんだけど、そこに認知症という複雑な要素が加わると、本人も自分の生活を縮小させてしまい、自分らしさを発揮できなくなる。つまり、のびのびと生きていけなくなっていくという思いを持っているのです。それに対し、カフェは、「人間性を回復する」と言えば言い過ぎかもしれませんが、自分らしさを回復し、発揮する場所でもあると思います。

――そんなふうに認知症の人が自分らしさを発揮して生活する姿に接することで、地域の人たちの認知症への認識が少し変わるかもしれませんね。

認知症カフェの様子2

武地氏がかかわる認知症カフェ(京都市内で)

 私たちが認知症カフェを始めたのも、「認知症になっても、より豊かに生きていける」ということを、もっと多くの人に知ってもらいたいという願いからです。そういう場を提供することで、多くの人に理解してもらえれば、「認知症になっても悪いことばかりではない」という認識につながるのではないかと。医療関係者にとっても、病院ではなく、日常の暮らしの姿に接することで学びの場になります。

 同時に、現在、認知症の人と家族への支援がすっぽり抜けてしまっている初期の「空白期間」を埋める役割も担っています。

――「空白期間」とは?

 認知症の本人グループが提言していることですが、軽度認知障害(MCI)から初期の認知症の時期を「空白期間」と呼んでいます。この時期に適した支援がないことから、“空白”と指摘されているのです。

――介護保険のサービスとか使えないのですか?

 実は、デイサービス(通所介護)などの介護保険サービスの対象となるのは、軽度から中度に移行する辺りの時期から。少し状態が進んでからなのです。

 一方、老人クラブやボランティアグループ、認知症予防教室といった元気高齢者向けのサービスや集まりはいろいろありますが、こうした自立した人たちの中に入ると、MCIや初期の認知症の人たちはなじめず、排除されてしまいがちです。

 しかし、最近は早い時期から診断される人が増えています。思いがけず初期の認知症と診断された一番不安な時期にケアがない。それに、医療も診断だけでケアをしないケースが多いのが実情です。ちょうど、物取られ妄想とかイライラや暴言といった症状が出始め、家族も不安を抱えている時期なのですが。

 こうした時期に本人も家族も安心して集える場や、介護保険サービスの対象となる前のケアとしても、カフェの重要性が認識されてきているのです。

人と人との関係性を再構築するという「治療」

――家族は家族同士で悩みを相談し合うなどして受け止めているということでしたが、具体的には?

 妻が認知症になった男性介護者2人の間で、こんなやりとりがありました。70歳代のBさんは「妻はまだまだ大丈夫」と思っていたのに、介護保険の「要介護1」と認定され、少しショックを受けている様子で、妻が「要介護2」と認定されている先輩介護者のCさんに話しかけていたのです。

 Bさん:あなたの奥さんは「要介護2」だそうだけど、そんなに重いんですか?

 Cさん:一緒に暮らして毎日様子を見ていると、できないことも増えてきてるなというのが分かるので、要介護2は妥当だと思ってます。近所の人には「徘徊(はいかい)することもあるかもしれない」と伝えてもいますよ。

 Bさん:そうですか……。

 Cさん:あなたの奥さんを見てるとまだ軽い段階のようだから、何かおかしなことを言ってくると、正論で言い返してしまうのではないですか? 私も最初の頃は「何おかしなこと言うてるんや!」と叱ってしまっていたんですよ。でも、病気なんだから「それではあかん。叱ったらあかん」と教えてもらいましたよ。

 Bさん:そうなんです。つい、以前の妻と比べてしまうんです。あんなにしっかり家事をやってくれていたのが忘れられなくて。見たところ、そう変わりないのに、やってることにおかしなことも多くなってきて、それを受け止められないんです。でも、Cさんのお話を聞いて、勉強になりました。

 我々医師が同じようなことを言っても、Bさんには理解してもらえないことが多いのですが、同じ立場であるCさんに言われると、「そうなんです。ついつい以前の妻と比べてしまうんですよ」と、受け止めが進むことも多いのです。以前と比べてしまうのは、よくあること。「でも、まあ仲間がいるんだ」という気持ちが、そうさせるのでしょう。

 一般に、女性より男性の方が受け止めが悪いですね。普通に外来で説明しても、なかなか受け入れられないことが多いです。

――認知症に対して、社会には何となく「何も分からなくなる」「何もできなくなる」というイメージが広がっていることもあり、本人も家族も葛藤が多いのが当然だと思います。

 「認知症とは、(他者との)関係性を破壊していく疾患」だと表現している専門家もいます。記憶障害や妄想、暴言・暴力など「自分の思いを伝えにくくなる」「自分らしさを表現しにくくなる」という症状があることからですね。

 一方で、そういう人に対して「傷つける」「できることをさせない」などの行為をしてしまうのが人間の本性でもあります。介護者も、そうした普通の人間であるから、良心で関わっていても、なかなか認知症のケアを上手にできるわけではない。

 だから、認知症の治療・ケアでは、今ある関係性を壊さないようにする、もしくは再構築することが、とても大事になってきます。そういう意味でも、認知症カフェの役割はとても大きいものだと思いますし、多くの方々に、こうした考え方を知ってもらいたいと思っています。

――認知症の治療・ケアに、認知症の人と他者との関係性を維持・再構築するという考え方があるのは興味深いですね。先生がカフェ活動を始めたのは、何かきっかけがあったのですか?

 2012年に京都市内で「京都式認知症ケアを考えるつどい 認知症を生きる人たちからみた地域包括ケア~京都の認知症医療・介護の全体像をデッサンする~」(同実行委員会主催)が開かれました。そこで、認知症の人がより豊かに生きていけるような社会をつくっていくことを目指した宣言「2012京都文書」が、1000人を超える参加者によって採択されました。

 私は当時、京都大学病院の「物忘れ外来」で15年ほど診療を続けていて、その「つどい」にも関わっていました。だから、自分自身も何かを踏み出そうと、物忘れ外来のメンバーや学生、市民ボランティアの皆さんと計画し、2012年9月に京都市内に1号店をオープンしたのです。

 普段の診療の中で、認知症の本人の「自分らしさを発揮できない」思いや家族のつらさ、認知症に対する社会の偏見などを強く感じていました。一緒に始めたメンバーも同じ思いで、認知症の人が豊かに生きられるということを示せば、世の中の疾病観というものも変わっていくんじゃないかなと考えています。

――実際にカフェを始めてみて、どうでしたか?

認知症カフェに通う人たちの声

認知症カフェに通う人たちの声

私自身も、外来だけで患者、家族に接しているのと比べ、本人や家族の日常生活や人生経験を同じ時代に生きる人間としてダイレクトに感じ、「認知症と生きる」ということをまったく別の角度から見ることにもなるなど、いろいろな学びになっています。

 現在は、京都市内で二つのカフェを運営しており、一つめは認知症の人と家族、スタッフ限定。二つめは地域の住民も含め誰でも参加できるタイプにしています。小学校の空き教室や地域の公共的な場所を借りて開催しています。

――二つのタイプに運営を分けているのは、理由があるのですか?

 認知症特有の難しさを考えてのことです。一つめのカフェでは、認知症の人や家族が安心して自分たちの思いを話したり、自分らしさを発揮できたりすることを意識しています。

 認知症の人は、その症状として、言ったことを忘れたり、約束を守れなかったりということがあります。認知症を正しく理解していないと、そうした症状のある人を「約束を守れない人」と捉えてしまう。同じことを何度も話し、意思決定ができない状態の人を「自分のことを決められないダメな人」と見てしまうという現実があります。症状の部分をのぞけば、その人らしい味わい深い魅力があるのに、病気への理解が十分でないことで、認知症の人を会話に入れないなど排除するようなことになってしまう懸念もあります。

 二つめのカフェは、多くの人への啓発も考えて、カフェの存在を広く周知しています。将来的には、住民の誰もが参加するカフェが広がり、さらに、地域の住民や高齢者の集まりそのものが「認知症カフェ」の役割を果たすようになれば一番いいと思っています。これから超高齢社会となっていく中、そうした地域社会をつくっていくことが、誰もが安心して暮らせる社会につながると思います。そのためにも、より多くの人が認知症を正しく理解し、適切な支援の在り方について知ることが大切です。

(おわり)

【プロフィル】 武地 一(たけち・はじめ)
藤田保健衛生大学医学部認知症・高齢診療科教授
【略歴】1961年生まれ。京都大学医学部卒業。福井赤十字病院、京都大学大学院、大阪バイオサイエンス研究所、ドイツ・ザール大学生理学研究所などで臨床・研究を行い、1999年、京都大学医学部付属病院に物忘れ外来を開設。認知症を中心に高齢者医療、地域連携、介護者支援などに取り組んできた。日本認知症学会および日本老年医学会専門医。2016年4月より現職。2016年度日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞(奨励賞)受賞。近著に「認知症カフェハンドブック」がある。

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