辻仁成「太く長く生きる」(16)わたしの周りにいる人たち

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
よく散歩します。サンシュルピュス教会前広場。

よく散歩します。サンシュルピュス教会前広場。

 ◇ ◆ ◇  

 今の自分というものは、たぶん、歩いてきた過去の道のり+自分を取り囲む人間たちによって出来上がっているのじゃないか、と思います。過去はもうどうすることもできないけれど、周囲の人間たちに関してはまだどうにかなるかもしれません。よく見抜くことが大事です。いいやつだと思っていた人間が実際には悪い影響を与えていることもありますね。その場限りで調子のいいことを言う人間は大勢います。そういう人間に自分の大切な未来を真剣に相談してしまったらどうなるでしょう? 適当な、無責任な、いい加減な返事をされたらたまったものじゃありません。とくに弱っている時、いいことを口にする人間にすがる傾向があります。でも、そういう時にこそ注意をしなければならない。本当に自分のことを心配する人間はむしろ「いいこと」は言わないのではないか? 逆に苦しい時にこそ、本当のことを助言してくれるのではないか? 一緒になって人の悪口をいい、面白おかしく、けしかけてくる人間ばかりなのです。なぜか? 自分には関係のないことだからです。そして、人が傷つくのが面白いのでしょう。深い意味もなく、適当な助言をして、その場で薄っぺらいカタルシスを手に入れているようなやからに囲まれたら、いったいどうなりますか? たまったものじゃありません。でも、そういう友達を招いているのは自分自身なのです。そういう人間関係を自分の周囲に配置したのは他でもない自分です。  

 私はよく13歳の息子に「パパは人を見る目がない。イエスマンばかりをそばにおいて、裸の王様になっている時があるね。気を付けたほうがいいよ」と言われます。やれやれ。そして、私が傷つくと、息子は、「身から出たさびだよ。仕方ない」と偉そうなことを言います。でも、ここ数年を振り返る限り、息子の言っていることは間違いではありませんでした。私の周囲では息子が一番苦言を惜しまない人間のようです。でも、まだ13歳。13歳に大人のどろどろとした話はできませんね。

 ◇ ◆ ◇ 

 時々、冷静になって、自分を構成する周囲の人間たちについて考えを巡らしてみるのもいいかもしれません。友達や仲間や知人を疑うわけではなく、その星の配置、配列を俯瞰ふかんしてみる必要があるでしょう。配置された星の性格がわかれば、配置換えをすればいいのです。どの星のそばにいるべきか、どの星から遠ざかるべきか、という具合に。苦しいことが続くな、と思うのであれば、今の星の配置、配列がよくない可能性があります。

  運とかツキというものは人間が運んでくるものです。たぶん、いい運というものは、悪い人間には運ぶことができません。悪い人間が運んでくるものは最終的に自分を滅ぼすものだったりします。それに飛びついては一巻の終わり。

 さらに言えば、相手が自分にとって悪い人物か必要な人物かの判断は難しいですね。心底極悪な人間なんてめったにいないからです。私がここでいうところの悪いというのは、犯罪者のような悪い人のことを指すわけではありません。悪い影響を持ち込んでくる人のことです。そして、その人たち、表向きは非常にいい人で、愛想がよく、世話好きで、いろいろとやってくれる人間だったりします。そういう人は「いい人」にカテゴライズされがちですが、ここをはき違えると苦しいことが襲い掛かってくるのです。あの人いい人だよね、と素直に決めつけてはいけません。用心しなきゃならない。それは表面の問題に過ぎない。私の親しかった友人のA氏は周囲にこのような人間ばかりを配置しました。そして、その人は不幸になりました。周囲の人間たちに面白おかしく扱われてしまった。彼の人生は壊滅的になったのです。私は調子のいいこと、都合のいいこと、その場限りのお世辞を言えなかった。苦言ばかり呈してしまい、最終的に煙たがられ、嫌われてしまいました。彼は今頃後悔をしていることでしょう。でも、もう助けることができません。そばに置くべき友人の配列を間違えたのです。

今日のひとこと。 『自分が変われば世界も変わる。

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』など多数。近著には『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』(主婦の友社)がある。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

辻仁成「太く長く生きる」