認知症を理解し、予防しよう

コミュニティーで認知症予防に取り組む 小熊祐子さん (上)

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 慶応義塾大学の小熊祐子准教授のグループは、神奈川県藤沢市のコミュニティーにおいて、身体活動を活発にすることで認知症の予防を目指す試み「ふじさわプラス・テン」を続けています。自治会館などを拠点に、地域住民の身体活動を増やすため、住民やボランティアの協力を得ながら進めてきた手作りの研究とも言えます。研究室を出て地域に溶け込み、住民と一体になって健康長寿を支援するユニークな試みについて寄稿していただきました。

慶応義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授
小熊 祐子 氏

小熊 祐子(おぐま ゆうこ) 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センター准教授

小熊 祐子准教授

 カラダを動かすことで、生活習慣病だけでなく、認知症の予防にも役立つのをご存じですか。2012年時点において、我が国の認知症の高齢者は約462万人、2025年には700万人を超えるといわれています。約10年で1.5倍にも増える見通しです。認知症予防が急務となる中、高齢者の身体活動が注目されています。

 身体活動とは、あらゆる身体的な動きをいい、スポーツ・運動だけでなく、仕事、移動、家事、子育て、余暇などのすべての動きを指します。

 厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、「18歳から64歳では元気にカラダを動かし一日60分、65歳以上では強度は気にせず40分」を健康のための身体活動の目安としてすすめています。

今より10分多くカラダを動かしましょう

 加齢とともに、メタボリックシンドローム(メタボ)やうつだけでなく認知症やロコモティブシンドローム(ロコモ)といった生活機能に低下をきたすリスクが高くなります。日常の身体活動量を増やすことで、これらのリスクを下げることができます。疫学研究の結果をまとめると、一日10分の身体活動でロコモや認知症のリスクを8.8%減らせる換算になります。

 アクティブガイドでは、身体活動増加のために、多くの方に共通するメインメッセージとして「プラス・テン(今より10分多くカラダを動かす)」を発信しています。

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 そこで、私たち慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科は、2013年度から藤沢市と協働で、アクティブガイドを活用し、地域全体で身体活動を増やす取り組みを始めました。高齢者をターゲットに、「プラス・テン」をメインメッセージとしており、この取り組みを「ふじさわプラス・テン」と名付けました。

 

地域の皆さんと「ふじさわプラス・テン」に取り組んでいます

 「認知症の割合が増えていることに自身の意識も高くなって、参加することになった」「運動と認知機能の研究について非常に関心があった」。「ふじさわプラス・テン」の研究に参加した理由をこう話すのは、自治会やサークルなど地域のグループの方々です。

 2015年度から、「ふじさわプラス・テン」では、週1回以上活動中または、これから活動開始の60歳以上の地域のグループに初回・半年・1年後と3回にわたり、健康チェックを行っています。各グループの活動場所に足を運び、身体活動量チェック、体力テスト(筋力、柔軟性、バランス)、iPadを使った認知機能チェック、運動と健康に関するアンケートなどを行い、研究・実証しています。現在では、藤沢市の10グループの皆さんと一緒に研究に取り組んでいます。

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 10分間の「ふじさわプラス・テン体操」でカラダを動かしましょう

 この研究を始める際、私たちは、なかなかカラダを動かさない人たちにも身体活動をしてもらいたいという思いがありました。また、身近な場所でご近所の方やご友人とできることや、身体活動を継続できる仕組みづくりが必要だと考えました。

 住民の方々からの要望があり、藤沢市保健医療財団の方々が中心となって「ふじさわプラス・テン体操(以下、プラス・テン体操)」を考案しました。柔軟性運動、有酸素運動、筋力増強運動、バランス運動を組み合わせた10分間の運動プログラムです。ナレーションの解説付きで、なじみの童謡に合わせてカラダを動かすことができます。

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 プラス・テン体操を続けている地域のグループの皆さんからこんな声が届きました。「友人が増え、いつも参加していない人が運動するきっかけができる」「プラス・テン体操も最近取り入れて、みんなとワイワイしながら楽しむことができる」「周りから刺激を受けるようになって認知症予防にもいいはず」。グループで集まってプラス・テン体操を行うことで、外に出ることやカラダを動かすことが習慣になり、それが楽しみにもなっているようです。

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 また、プラス・テン体操によるカラダへの効果を実感している方もいます。「バランスが取れるようになって助かっている」「自宅でもプラス・テン体操をしていて、ひざの筋力に効果があると思う」。さらに、しばらく集まりに来ない人がいると心配になって声を掛けにいくというように「プラス・テン」をすることで社会的交流にも変化が見えています。そのことが、認知症予防にも良さそうです。

 認知症予防には、アタマとカラダの両方を同時に動かすことがオススメ、ともいわれています。体操やウォーキング、その場足踏みをしながら、食べ物や生き物などに限定した「しりとり」や動物の名前、野菜・果物の名前、「あ」の付く物などの「古今東西ゲーム」、100から順に「3」や「7」を引いていく「計算」をすると、カラダを動かしながらアタマも使うことができます。

運動を含めた健康的な生活が大事です!

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 最後になりますが、認知症予防には何か単一でとても効果のある方法があるわけではありません。運動は認知症予防も含め多くの健康上の効果があり、行うことをぜひおススメします。また、ご近所の方やご友人と一緒に運動を行うことで社会的交流ができるのでおススメです。ただ、運動だけではなく、食事や脳トレ、血管リスクの管理(血圧やコレステロール値の調整など)もあわせて行うことが大事です。運動していれば大丈夫、と思わず、プラス・テンをきっかけに、他のことにも注意を払いましょう。詳しくは、ホームページもご覧になってください。

 皆さんも“プラス・テン”を始めてみませんか?

 

 

【プロフィル】 小熊 祐子(おぐま・ゆうこ)氏
 慶応義塾大学スポーツ医学研究センター・同大学院健康マネジメント研究科准教授

【略歴】1991年慶応義塾大学医学部卒。同医学部内科助手、スポーツ医学研究センター助手を経て、2005年より現職。医学博士。02年、公衆衛生学修士(ハーバード公衆衛生大学院)。13年より神奈川県藤沢市で「ふじさわプラス・テン」の活動を始めた。地域住民と一体になって身体活動を促し、認知症の予防を目指す小熊准教授が代表を務める研究(「身体活動コミュニティ・ワイド・キャンペーンを通じた認知症予防介入方法の開発」)を、日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究開発事業として展開している。専門はスポーツ医学、運動疫学。共著「サクセスフル・エイジング 予防医学・健康医学・コミュニティから考えるQOLの向上」(慶応義塾大学出版会)、論文「身体活動と健康 アクティブガイドを活用して」(KEIO SFC JOURNAL Vol.14 No.2 2014)などがある。

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