辻仁成さん「海外で生きる日本人の物語を伝えたい」…ウェブマガジン創刊への思い

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辻仁成さん

辻仁成さん

 「ヨミドクタープラス」でコラム「太く長く生きる」を好評連載中の作家・辻仁成さんが10月21日、  ウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設した。デザインといっても美しい意匠の紹介サイトではなく、「人が作るものはすべてデザイン」と広くとらえ、デザインにかかわる人間の物語を届ける“ライフスタイルマガジン”だ。パリ在住の辻さんが編集長を務め、ヨーロッパを中心に世界各地に自ら足を運んで取材する特集は題して「トップストーリーズ」。日本画家の千住博さん、建築家のばん茂さん、サッカーの岡崎慎司選手ら世界で活躍する9人が執筆する「ナインストーリーズ」。世界各地で暮らす約40人の日本人が生活者の目線から最先端の情報を発信する「パノラマストーリーズ」などで構成している。新しいプロジェクトへの意気込みを辻さんに聞いた。

 ※「デザインストリーズ」はこちら

――なぜ、ウェブマガジンを始めたのですか?

 パリに住んで15年。今は、息子と2人で暮らしていますが、なぜ、パリに住んでいるのかなってよく考えるんです。好奇心旺盛なので海外で頑張っている日本人を知ると、会いに行って、どうしてここで活動しているのか質問するんですが、それぞれに運命に導かれた物語があって面白いんですよ。スペインのサグラダ・ファミリアの彫刻監督を務める外尾悦郎さんもそのひとり、被災地支援に取り組む建築家の坂茂さんもそうです。海外で生きる日本人の物語を伝えたいというのがウェブマガジンを始める理由のひとつ。ドキュメンタリーみたいなものを作る気持ちです。自分でプラットホームを作ってしまえと思って仲間に話したら「面白い!」と言ってくれたんです。

――小説家、映画監督、ミュージシャン、息子さんへの愛情が詰まった料理を作るシングルファーザーとさまざまな顔を持って、発信していますが、今回は編集長ですからニュアンスが違いますね。

辻コラム番外5 本もコンスタントに30年近く書き続けてきましたし、小説家としても地道に書いていて、自分自身の発信はずっと続けています。今度は自分の力だけじゃなくて、もっと多くの人のアイデアを発信したいという考えです。フランスは最近、日本人の留学生が減って、中国や韓国からが多くなっています。小説家で海外にいる人も少ない。僕は長く海外にいるので、これは何かやらなきゃとも思いました。今、世界はこんなに変容しているんだということを日本人に届けたい、世界各地で暮らしている生活者の目線を持った日本人のメッセージを伝えたいと思っています。「もっとあなたの話を聞きたい。書いてもらえませんか」と口説くのが編集長としての醍醐だいご味でもあります。編集の仕事は面白いですよ。

デザインを求めてヨーロッパ各地を取材

――「トップストーリーズ」は辻さんがヨーロッパを中心に各地を自分で取材し執筆する特集ページですね。

 関心のあるところにはまず行って、そのデザインはなぜ生まれたのか取材します。1回目はコペンハーゲンのいすがテーマ。ヤコブセンやウェグナーという北欧家具の有名デザイナーに関する取材に行ったら、フィン・ユールのいすに出会った、その話。インテリアや小物だけではなく、モスクワの赤の広場やイスラエルの嘆きの壁も行くつもりです。なんとなく知っているけどよくは知られていない世界を見てもらい、生きている中、生活の中に取り入れてもらいたいです。ライフスタイルデザイン、人生のデザインをここで提案していきます。

――辻さんの取材には、息子さんも同行しているのですか?

 これまで息子と旅をしてきました。そこで出会った人たちに話を聞き始めたのも、きっかけのひとつです。日本でいうと中学2年で、学校がある時はなるべくパリにいるようにして、週末は一緒に行きます。一緒に旅をしともに世界を感じて生きたい。ただ、ヨーロッパのホテルはツインがなくてダブルベッドなんですよ。問題はそこで、彼は160センチぐらいあるから、ぶつぶつ言いながら「あっち向いて寝てくれ」なんて言っています。息子の視点が面白くて、原稿にも入れていきます。これまで、色々な人生の壁を乗り越えてきました、父親として息子の成長を見守り、彼との生活を通じての人間的な部分も伝えられたらと思っています。

千住博、坂茂、岡崎慎司……世界で活躍する9人が執筆

辻コ6ラム番外――「ナインストーリーズ」は、辻さんが依頼した海外で活躍する9人のページですね。

 各分野の第一線で活躍している方々で、海外で頑張る尊敬する日本人9人。建築家の坂茂さんは、ポンピドーセンターの建築を機にパリに事務所があったので、知り合いました。建築を通した被災地支援活動をしていて、一緒に熊本にも行きました。鈴木健次郎さんはパリにオートクチュールの店を構えるタイユール(テーラー)。若手ではイギリスのサッカーチーム、レスターシティーFC所属の岡崎慎司選手。「ゴールを目指すデザイン」という切り口で記事を書いてくれます。スポーツ新聞で「岡崎、居場所がない」という記事が出たので、ラインで励ましたら、その日に2点入れたんですよ。チェルシーとの試合に息子と2人を招待してくれました。

――「パノラマストーリーズ」は、海外各地からの情報発信セクションですね。

 日本人が世界各地から自分たちの生活のメッセージを送ってくれます。40人ぐらいの方に執筆を依頼しているので、このパートがウェブマガジンで一番大きなブロックになります。ロンドン、ミラノ、ウィーン、ニューヨーク、パース……。デザインが中心だけど、中には、日本で仕事をやめてオーストラリアの片田舎に移住した人もいます。生活者の目線が大事です。読むとなるほどと思う。われわれの生活のヒントにもなります。

人間はデザインの中で生きている

――なぜ、「デザインストーリーズ」というタイトルにしたんですか?

 ある時、飛行機に乗っていて、ふっと周りを見まわしたら、目に入るものがみんなデザインだったんですよ。隣のおじさんはすごい時計をしている。ジャケット、帽子、いす、天井もすべてデザイン。これはすごい。われわれ人間は、デザインの中で生きている。一方で窓の外には自然があって、何ひとつ人間が作ったデザインはない。デザインっていうのは、人間が作ったものなんですよ。自然は反意語で、神のデザイン。自然とデザインの間に人間の物語があるんです。だから「デザインストーリーズ」だなと考えました。

――運営体制は?今後の展望について教えてください?

 パリと日本にいる数名のスタッフとやっています。原稿を編集長である私がすべて確認します。現時点では、自由に編集や発信をしたいので、広告も考えていません。利益目的ではなく、数人の仲間が協力し合って出来上がるインディーズの同人誌という感じです。この先は、もしできるなら、ヨーロッパのツアーとかをやりたいですね。モンサンミシェルが好きなので、そこで僕が現地で話をするとか、「デザインストーリーズ」のチームで何かできればいいなぁ。色々なご縁があってたくさんの人と出会ってきて、今にたどり着いています。だからこそ、人間をつないでいくものにしたい、「空港のようなプラットホーム」、人生を振り返り未来を見る場所になればと思っています。

(聞き手・渡辺 勝敏)

※「デザインストリーズ」はこちら

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』など多数。最新刊『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』(主婦の友社)が9月9日より発売中。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。オフィシャルホームページはこちら!
 現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

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辻仁成「太く長く生きる」