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【PR】高齢者はご用心 コロナ禍で進行する「フレイル」

 加齢により身体機能や認知機能が衰え、要介護状態に移行する手前の段階を示す「フレイル」という言葉をご存じですか。高齢者の健康のためにはフレイルを予防することが重要なカギになります。ところが、現在コロナ禍で強いられている外出自粛などの暮らしの変化が、フレイルを悪化させる要因になりかねないといいます。長年高齢者医療に携わっている東京都医師会の西田伸一理事に話を聞きました。

>西田伸一 </strong>東京都医師会理事、医療法人社団梟社会 西田医院理事

三つの要素が相互に作用 認知症にも

 フレイルとは、日本老年医学会が中心となって高齢者の健康維持を呼びかけるために提唱している言葉で、英語のfrailty(虚弱)をもとにしています。大きく身体的、精神的、社会的という三つの要素があり、身体的フレイルは、運動量の低下から筋肉量が落ち身体機能が低下すること、精神的フレイルは気力の低下やうつ状態などのこと、社会的フレイルは人との交流が乏しく孤立した状態のことです。それぞれ相互に作用し合い、例えば身体的フレイルで外出できなくなる→社会的に孤立する→気力がなくなる→うつになるといった負のスパイラルに陥ることで、症状はさらに進行し、そこから認知症に移行するというケースが非常に多く見られます。

 口の機能低下を指すオーラルフレイルも注意が必要です。人との交流が減ってしゃべらなくなる→脳の活動が低下し口の周りの筋力が衰える→食欲が低下し硬いものが噛みづらくなる→口の周りの筋肉がさらに衰える→食べたものでむせて誤嚥(ごえん)性肺炎を起こす。そうした悪循環を招く恐れがあるのです。

外出自粛が影響 家にこもりきりに

 実は新型コロナウイルスの感染が拡大している今、フレイルやその先の認知症になる方が増えています。外出自粛で多くの高齢者が家にこもりきりになっていることが関係しています。外来診療の現場で私自身、そのことを感じています。久しぶりに診察にきた高齢の患者さんで、歩き方がおかしい、活気がない、物忘れが進んだという方が明らかに増えた印象があるのです。特に一人暮らしの方に多いようです。

 フレイルを予防するために、自宅でできるさまざまな運動が推奨されています。筋肉量を維持するためにはとても大切なことですが、自粛期間がこれだけ長引くと、フレイルの症状をトータルで防いでいく必要があります。そのためには、ある程度外に出て体を動かす、人と会ってお互いの表情を見ながら話をするといったことが非常に重要になってくるのです。

正しい知識を身につけて、正しく自粛を

 コロナ第3波の渦中で、もちろん感染防止を第一に考えなければなりません。ご存じのように会食や人が密集するところを避けるなどの対策は必要です。一方、その時々の感染状況を見ながら、適切な感染対策を行った上で外出することをおすすめしたいと思います。感染リスクを恐れるあまり、一歩も外に出ないという方もいます。家にこもりきりで、自粛ばかりを訴える情報源しかないような環境にいては、余計に外出するのが怖くなってしまうということもあるかもしれません。しかし、フレイルを放置することで要介護状態になってしまう危険性にも、しっかり目を向けなくてはいけません。

 感染対策とフレイル予防――。その両立のためには、自身の健康状態やその時々の状況を考えて行動する必要があり、素人では判断が難しいケースもあるでしょう。そんな場合には、何でも相談できる、かかりつけ医が身近にいると助かります。医療機関ではそれぞれに感染予防対策を十分行って診療していますので、外来診療の現場での感染事例はあまり報告されていません。恐れず診察を受けて、適切な指導をあおいでいただきたいと思います。今は電話での相談も受け付けていますので、不安なことや分からないことがあれば、電話で医師にたずねてみるのもよいでしょう。そして、正しい知識を身につけて過度な自粛生活を見直すこと、正しく恐れることが大切なのです。

規則正しい生活 健康寿命延伸のために

 あまり人のいない自宅周辺を散歩するくらいなら、それほど感染対策に神経質になる必要もないでしょう。人との交流ということでは、今は閉鎖しているところが多いかもしれませんが、地域の集いやサロン、カフェなどを利用するとよいと思います。もっとも、そうした集いの主催者の多くは、医療者ではなく民間のボランティアなどのため、地元の医師会などがきちんとした感染対策の指導をすることも大切になります。私自身も感染状況を見ながらですが、できるだけそうした交流の場を提供できればと考えていて、今は近所の一人暮らしの高齢者を対象にした集いを行っています。少人数で、もちろんマスク着用やしっかりした換気、互いの距離を十分に保ったうえでの集いですが、みなさん、楽しく過ごされています。

 栄養面でいうと、コロナ禍では何もすることがないから食べ過ぎて太る方、動かないから食事量が減って痩せる方、ふた通りいるようです。いずれにしても気をつけたいのは中年の時のようなメタボ対策を続けてしまうこと。高齢者にとっては低栄養ということになりかねないのです。血液検査でも、若い頃なら注意喚起される数値が、年をとると問題なくなるということがあります。ある時期を過ぎると、メタボ対策からフレイル予防に意識をかえる必要があるのです。年齢の目安としては65~75歳くらいですが、その人自身の健康状態も関係しているので、そのあたりについても医師にアドバイスをあおぐとよいでしょう。

 人生100年時代といわれ、日本人の平均寿命は今や84歳を超えます。しかし、健康寿命は約75歳。要介護等、健康に支障をきたした年数が10年近くある計算になります。その年数をどのように過ごすか、今から考えなくてはいけません。このコロナ禍においても、健康意識や自己管理能力を高めて規則正しい生活を送り、フレイル予防に努めてもらいたいと思います。

 

◆プロフィル

西田伸一 東京都医師会理事、医療法人社団梟杜会 西田医院理事長

にしだ・しんいち 1985年、帝京大学医学部卒業後、同大学付属病院 救命救急センター。2000年、父が倒れたことを機に西田医院を継承。訪問看護や在宅医療にも取り組む。