文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

担当医とうまくコミュニケーションをとるにはどうすればよいですか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
担当医とうまくコミュニケーションをとるにはどうすればよいですか?

イラスト:さかいゆは

 患者さんと医師のコミュニケーションの場である診察室。

 様々な思いを抱えた患者さんと、最善の医療を提供しようとする医師が、緊張感の中で言葉を交わし、方針を決めていきます。ただ、診察時間には限りがあり、ゆっくり語り合うわけにもいかない現実があります。

 医師は、待合室に待たせているたくさんの患者さんたちのことも気になり、早く診察を切り上げようと、伝えるべきことを早口でバーッとしゃべったりします。

 患者さんも、医師が急いでいるのを感じとり、伝えるつもりだったことも心にしまい、説明を理解できていなくても「わかりました」と答えてしまったりします。

 必要最低限のやりとりに絞ることで、診察時間は短くなり、効率がよくなったようにも見えますが、こんな診察では、患者さんのモヤモヤが蓄積し、行き違いが生じ、重篤な副作用を見落とす危険もあります。数をこなすだけの外来診療は、医師にとってもストレスが大きく、やりがいを感じられず、医療の質も落ちていきます。

心の余裕のために、患者と医師で雑談を

 患者さんにとっても、医師にとっても、必要なのは「心の余裕」で、そのために役立つのが「雑談」です。

 私が、「雑談のすすめ」をコラムに書いたのは、2020年のことでした。( 診察室で病気や治療に関係ないことを話してもいいんですか?

 診察室では、患者さんも医師も緊張して身構えていますが、ちょっとした雑談ができれば、緊張がほぐれ、心の余裕が生まれ、お互いの気持ちが近づきます。

 話すのは、家族、仕事、趣味の話、最近楽しかったこと、日常のささやかなエピソードなど、なんでもOKです。自分の「推し」のことを熱く語るのもありです。患者さんが何を大切にしているのかを共有できれば、治療方針を考える上でも役立ちます。

 「貴重な診察時間で、雑談なんかしている暇はない」という声も聞こえてきそうですが、わずかな時間でも雑談はできる、というのが私の実感です。

 何をしゃべってもいいと思えることが重要で、それは大きな安心感につながります。気になっていることがあれば、心にしまいこむことなく、自然に話せるようになり、正確な診断や、適切な副作用対策にもつながります。わからないこともちゃんと聞けて、医師の説明も理解しやすくなるでしょう。

 わずかな雑談が潤滑油になって、診察室での対話がはずめば、それは、むしろ、能率のよい医療につながります。お互い時間に追われてあせった状況で判断を下すより、心の余裕をもって判断した方が、よりよい医療ができるはずです。

「担当医と雑談するなんて、絶対無理です」

 そんなわけで、私は「雑談のすすめ」キャンペーンを展開してきました。一般市民向け、患者さん向け、医療者向けの講演会でも、そんなお話をさせていただき、賛同してくださる方も多いように感じています。

 ただ、講演会のあとに、患者さんからよく言われることがあります。

 「担当医と雑談するなんて、絶対無理です」

 「もともと説明が少なく、会話もほとんどありません」

 「いつも不機嫌で、とても気軽に話しかけられる相手ではありません」

 「ずっとカルテの方ばかり見て、私と目を合わせることはありません」

 「そんな担当医とうまくコミュニケーションをとるにはどうすればよいですか?」

 なかなか厳しい現実です。

 「それでも、雑談をトライしてみてはいかがですか」

 と答えたこともありますが、それができたら苦労はない、と返されました。雑談なんてしたら、担当医の機嫌を損ねて、関係をもっと悪化させてしまうということでした。

 病気や治療と向き合うだけでも大変なのに、さらに担当医のご機嫌をうかがわないといけないとは、しんどいですね。

 その担当医の資質や性格にもよるところが大きく、患者さんの努力ではどうしようもないのかもしれませんが、うまくコミュニケーションをとることは医療の基本ですので、なんとかする必要があります。

 もちろん、医師側の教育をきちんとしていくのは大前提です。私よりも若い世代の医師は、コミュニケーションに関する教育をそれなりに受けていて、昔とは意識は変わってきているように思います。医師になったあとも、試行錯誤を重ねながら患者さんとのコミュニケーション能力を高めていきますので、ある意味、患者さんが若手医師を教育する立場にあるとも言えます。

 私自身、これまでの医師人生で、個性豊かな患者さんたちと出会い、いろんなことを教わって今に至っています。「雑談のすすめ」も、私の大切な患者さんたちに鍛えられて至った境地です。私自身さらに学びながら、患者―医師関係をよりよくするような医師教育についても取り組んでいこうと思っています。

 医師が心の余裕をもって診療するためには、身体的・時間的な余裕も必要で、医師の働き方改革や、医療体制の改善も進めていかなければなりません。人手不足の問題もありますので、私としては、特に腫瘍内科医の育成に力を入れていきたいと考えています。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takano-toshimi03_prof

高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」の一覧を見る

最新記事