文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ココロブルーに効く話II 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

被災者も医療者も「遠慮」は無用――東日本大震災時の避難所における夜間診療で見えたこと――

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 能登半島地震の被害に遭われた方々には、心からお見舞いを申し上げ、一刻も早い復興を願ってやみません。家屋の倒壊などで避難生活を送られている被災者には、感染症や身体の代謝の問題、血圧変動に関わる脳・心臓の疾患などが表れてくることが懸念されます。生活上の制約やストレスが続くため、平時よりも睡眠の障害が起こりやすく、メンタルケアがさらに重要となる時期でもあります。

 2011年3月の東日本大震災のとき、私は医療支援チームの一員として宮城県に入りました。今回は、その経験から印象に残ったことをお話ししたいと思います。

夜間診療で「聴ける」声

被災者も医療者も「遠慮」は無用――東日本大震災時の避難所における夜間診療で見えたこと――

 東北地方を中心とした大地震、そして津波の発生から1か月半後、私たちは仙台市若林区に入りました。震災直後の急性期治療は落ち着き始めており、復旧しつつある同県内の医療機関と避難所との連携が課題となっていた時期でした。

 仙台市内の避難所では1000人以上の方が生活しており、がれきの撤去や津波に流された店舗や自宅の復旧、それに災害で職場を失ったためハローワークに通うなど、誰もが大変なご苦労をされていました。働き盛りの世代にとっては家族を守ることが最優先で、自分自身の疲労や健康状態は後回しになっているケースが多く見受けられました。それに加え、不調を自覚したとしても、すぐに受診できるほど、地域の医療機関は復旧していませんでした。

 私たちの医療支援チームは、当時の避難所(仙台市の若林体育館など)で夜間の診療を担当しました。かぜや胃腸障害などの感染症だけではなく、家屋の倒壊に伴う粉じんによる (せき) や喉の痛み、アレルギー症状、心理的なストレスからくる不眠、胃腸症状などを訴える人がたくさんいました。夜間に受診してくる人たちのほとんどは、日中の時間を自分の仕事や復旧作業などに費やしていたり、かかりつけの診療所が閉鎖したりで通院できなくなった方たちでした。

 このような過酷な環境においては、どうしてもメンタルケアは難しくなります。赤ちゃんから老人まで、誰もが不自由な思いをしているため、家族のことで精いっぱいになり、なかなか弱音を吐けない人たちにとって、自分自身の「心の不調」は訴えにくいものです。もしも避難所の中に「心のケアチーム」という看板を立てたとしても、気軽に立ち寄る人は少なかったと思います。

 実際に、何人かの方々に、「悩み事や心の面での不調はありませんか?」と尋ねても、たいていは「大丈夫」との答えが返ってきました。

 むしろ、一人一人の脈をとり、声をかけてご苦労を労いながら「体」を診ていくと、震災で失ったことの「悲しみ」や将来への「不安」、絶え間ない余震や二次災害への「恐怖」、なかなか眠れないなどの実際の症状など、メンタル面での実情を語ってくださるようになりました。平時の医療機関のような「待ち受け」の姿勢でメンタル面の診察ができない避難所では、体を診るプロセスにおいて、心の内側を聴くことができたのです。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

koyama-fumihiko_prof

小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2024年3月、新曲「 きみに春がくる 」をテイチクエンタテインメントよりリリース。

過去コラムはこちら

ココロブルーに効く話

ココロブルーに効く話II 小山文彦の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事