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医療・健康・介護のコラム

認知症の人に「男女が立っているトイレマーク」は伝わりにくい? わかりやすい色づかいやイラストは…福岡市の取り組み

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 福岡市では、高齢者が暮らす介護施設や街中の公共施設で、認知症の人が利用しやすくなるようなデザインを導入する独自の取り組みを進めています。ポイントは、「どうすればわかりやすいか」を考えること。多くの人が過ごしやすい空間づくりにもつながりそうな工夫です。(粂文野)

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

介護施設「香風館」のトイレのドアは、濃い色で目立つほか、ピクトグラムが目に入りやすい高さに大きく描かれている

 11月上旬、高齢者21人が通いや泊まりで利用している介護施設「香風館」(福岡市東区)を訪ねた。

 建物に入って、まず目に留まったのは、色づかいの工夫だ。それぞれの居室のドアはオレンジや黄緑、トイレのドアは紺色で、白い壁やフローリングの廊下の中で、はっきりと目立つ。

 認知症の症状や、加齢の影響などによって、物が見えにくくなったり、視界が狭くなったりする場合があるとされる。こうした色づかいにすることで、目的の場所を自分で見つけ、行動することを支えている。

 反対に、物置のドアは壁と同じ白で、誤って入ることがないようにした。

 日中、利用者がすごす大きな部屋から、見えやすい位置にトイレを配置したのも工夫した点の一つだ。

 トイレの紺色のドアには便器に人が腰掛けている姿を絵で示したピクトグラムと、「トイレ」という文字が白で表示されている。前かがみの姿勢になりやすい利用者の目に入りやすいように、床から120センチほどの高さを目安に配置している。

 トイレ内も、床や壁に色を付けて、白い便器を認識しやすくしてある。

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

トイレ内は、手すりや便器を見つけやすいように、壁や床の色を工夫している

 記憶に頼らなくても、状況を理解するための手がかりがその場で得られれば、「できること」は広がる。

 施設の管理者で看護師の篠原義典さん(50)は「認知症の症状があり、自宅では一人でトイレに行くことが難しい利用者が、ここでは、声をかけると自分でトイレまでたどり着き、用を足すこともあります」と説明する。

事例まとめ手引に…福岡市

 こうした香風館の工夫は、福岡市が2020年にまとめた「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」の内容を取り入れたものだ。

 同市では18年から、「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」に取り組んでおり、その活動の一環として作成した。英スターリング大の「認知症サービス開発センター」の研究成果を参考に、同市の委員会が認知症の人に聞き取り調査した結果も盛り込んで約50ページにまとめた。

 その中で、香風館でも取り入れている色の組み合わせの工夫や、ピクトグラムや文字を使ったサイン(目印)の活用などを、具体的に「30のポイント」として紹介している。

 「室内の明るさの調節」も、周囲の状況を把握しやすくしたり、転倒しにくくしたりするためのポイントだという。香風館では、複数の暖色の照明や窓のブラインドを調節することで、十分な明るさを確保できるようにしてある。

 このほか、生活感のある家具などを置いて「自宅のような雰囲気をつくる」ようにすると利用者の安心感につながることを解説。視界に入る掲示物を減らすなど「乱雑な空間にしない」ことで、目的の物を見つかりやすくするといった工夫も紹介している。

 冊子のタイトルは「認知症の人にも~」となっている。こうした「やさしいデザイン」の普及が、「認知症の症状がある人にとどまらず、多くの人にとって使いやすい空間づくりにつながる」(市認知症支援課の笠井浩一課長)という思いが込められている。

 香風館のほか、市内の公民館や地下鉄の駅の一部など50か所以上で導入されており、今後は、公園や駅前広場など屋外にも広げ、やさしい街づくりを進める予定だという。

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

 福岡市は、家庭や街づくりで「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」を活用してもらうため、冊子を販売しているほか、ホームページでも公開している=QRコード。

 2023年9月には、市内の公共施設に「認知症フレンドリーセンター」を開設。様々なデザインの工夫を実際に取り入れた施設で、誰でも見学できる。

 ガスコンロやエプロンなど認知症の人にも使いやすく作られている商品の展示や、認知症の人の見え方を再現した拡張現実(AR)を体験できるコーナーもある。

街の表示にも拡大必要

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

 福岡市の「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」の作成に関わった日本サインデザイン協会常任理事の定村俊満さん(72)=写真=に話を聞いた。

 「やさしいデザイン」は、年齢や性別、障害の有無にかかわらず、誰にとっても使いやすい「ユニバーサルデザイン」の考え方が基本になっています。

 認知症の症状の表れ方は人によって様々です。どうすれば多くの人に伝わるデザインになるかを考えるため、私たちは、福岡市内の認知症の高齢者97人に聞き取り調査をしました。

 例えば、「ここはトイレですよ」と示すマーク。男女の立っている姿を並べたよくあるマークを見てもらうと、トイレであると伝わったのは35%でした。「人が2人立っている」など、見たままを回答する人が多いことがわかりました。

 そこで、「物」と「人の動作」の組み合わせでピクトグラムを作りました。便器と座る人の姿を描くことでトイレを表すマークだと伝わりやすくなります。

 色づかいや明るさの工夫でも、理解しやすくなることが分かっています。

 街のバリアフリー化は進んできましたが、認知症をはじめ、精神障害や知的障害のある人などが生活しやすい環境づくりは、まだまだだと思っています。

 例えば、街中で目に入る情報量が多過ぎると、混乱につながる場合がある。多くの人にとって分かりやすく、誰かが取り残されないような形で、看板や標識を適切なものに見直すといったことも必要です。

 「やさしいデザイン」の視点で環境を改善していくことで、誰でも、当たり前に出かけられる世の中にしていきたいと思います。

自宅環境も整える…目印に思い出の品・濃い食器にご飯

 「やさしいデザイン」は、自宅の環境を生活しやすく整える時にも参考になる。

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

 福岡市の手引は、「居室や自宅前に、思い出の品や目印を置く」ことをポイントの一つとして紹介している。認知症の人が外出から戻った時、自分の住まいの場所がわからなくなる場合もある。家の扉はどれも似ているが、自分が使っていた物や、昔の写真などの目印があれば、手がかりになって見つけやすい。

 トイレの扉にわかりやすいマークを貼るなど、介護施設「香風館」で紹介した取り組みも参考にしたい。トイレに自分で行けることは、本人にとっても、同居の家族にとっても大切なことだからだ。目立つ色の組み合わせを使ったり、周囲の明るさを調整したり、工夫を取り入れやすそうだ。

 日々の食事でも工夫できる点がある。白いご飯を、黒など色の濃い食器に盛りつけると、食べ物をはっきり認識できて食欲の増進につながるという。

 NPO法人「イシュープラスデザイン」が出版した「認知症世界の歩き方 実践編」にも、住環境を整えるヒントが紹介されている。

 例えば、収納棚は扉を外すか、中が見えるタイプの商品を選ぶとよいという。中に何が入っているか思い出せなくても、必要な物を取り出しやすいからだ。

デザインにやさしさ…目立つ色づかい・絵や字で誘導

樋口さんの自宅の台所の棚。見えない奥の方ではなく、手前に物を置くようにしているという=樋口さん提供

 文筆家でレビー小体型認知症の当事者の樋口直美さん(61)は、自宅の台所の棚には、必ず、目に入りやすい手前の位置に物を置くようにしているという。

 樋口さんのケースでは、目立った記憶障害はない。ただ、フライパンに蓋をして中が見えなくなると、調理中だった魚の存在を忘れてしまうこともあるという。以前、棚の奥から賞味期限切れの食材が大量に出てきた失敗もあり、物の配置を変えた。

 樋口さんは、「認知症や加齢によって難しくなることが様々に出てきても、工夫して補うことで、生活を続けていくことができる人も少なくない」と話している。

(2023年12月19日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

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