文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

文字を読みづらい、重いものを持てない 障害あっても読める本 普及へ…読書バリアフリー法施行から4年

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

学校・図書館へ導入 促進…点字 大きな活字 絵記号 PC活用

 重い本が持てなかったり、文字が読みづらかったりして、本を読むことが難しい人たちがいる。誰もが読書できる社会を目指し、2019年に「読書バリアフリー法」が施行されて4年。学校や図書館などで利用しやすい本の導入を進めようと、当事者らが啓発活動を進めている。(田中文香)

■多様な方法

文字を読みづらい、重いものを持てない 障害あっても読める本 普及へ…読書バリアフリー法施行から4年

渋谷区立神南小で、点字付き絵本を紹介する佐藤さん(左)と、一緒にりんごプロジェクトを進める古市さん(東京都渋谷区で)

 「私のように視覚障害がある人、寝たきりでページをめくることができない人、知的や発達の障害があってうまく文字が読めない人など、紙の本を利用できない人はたくさんいます。ですが、読書には色々な方法があります」

 東京都渋谷区立神南小の教室で12月7日、全盲の図書館司書、佐藤聖一さん(63)が児童たちに語りかけた。佐藤さんは、東京都品川区のNPO法人・ピープルデザイン研究所の「りんごプロジェクト」による出張授業の講師だ。

 取り組みは、当事者や保護者らの有志が20年に始めた。学校や公立図書館などで障害のある人が利用しやすい「アクセシブルな本」を紹介し、「りんごの棚」の設置を呼びかけている。大きな活字の本や点字本のほか、パソコンなどの端末で音声と文字・画像を同時に視聴できる「マルチメディアDAISY(デイジー)」を紹介する。

 この日は同NPO理事の古市 理代みちよ さん(54)も講師を務めた。古市さんの長男・裕起さん(19)はダウン症で知的障害があり、文字の読み書きが苦手だ。しかし2年前、平易な文章やピクトグラム(絵記号)が使われる「LLブック」と出合い、初めてひとりで本を読むことができたという。

 佐藤さんが点字付き絵本を読み、古市さんがLLブックを紹介すると、神南小の児童たちは「おもしろい」「わかりやすい」と感想を述べた。同小は近くりんごの棚を設置し、児童たちが蔵書を選ぶという。

 オンラインで録音図書や点字図書を貸し出したり、DAISYの書籍を提供したりする仕組みがあるが、こうしたサービスを知らない人も多い。佐藤さんは「まずはアクセシブルな本の存在を知ってもらうことが重要」と話す。

■取り組み「道半ば」

 読書バリアフリー法の施行後、出版社は多様な書籍づくりに取り組む。

  樹村房じゅそんぼう は11月、漫画家・津島つしまさんの「つたえたい きもち」を「LLマンガ」として出版した。軽度の知的障害がある女性が同じ作業所に通う青年に恋をする物語で、1コマの情報量を絞り、短いせりふにするなど、わかりやすい表現に配慮した。小学館は22年12月以降、車いすを使う韓国の作家・キム・ウォニョンさんの「だれも私たちに『失格の 烙印らくいん 』を押すことはできない」を点字版、電子書籍など7種類で刊行した。

 政府も、全国の図書館や出版業界で音声でも読み上げられる電子書籍やオーディオブックなどの普及を進める。

 とはいえ、こうした取り組みはまだ緒に就いたばかりだ。

 全国出版協会出版科学研究所の調査によると22年、出版市場に占める電子書籍の割合は3割で、大半はコミックだった。

 全国公共図書館協議会の22年度報告書では、録音資料の貸し出し実績があるなどの調査指標を満たす公立図書館は2割未満だ。

 野口武悟・専修大教授(図書館情報学)は「読書バリアフリーは、まだ業界を挙げた取り組みになっているとはいえない。障害の有無にかかわらず、誰もがアクセシブルな本を選べるようになれば、読書のすそ野が広がる」と話す。

◆りんごの棚= 障害がある子どもなど誰もが読書の喜びを体験できるコーナー。1990年代にスウェーデンの図書館で始まった。全国公共図書館協議会の2021年度の調査報告書によると、りんごの棚がある国内の図書館は都道府県立で6館(12・8%)、市区町村立で96館(7・1%)。

電子書籍の充実願う

障害者も読める本 普及へ…「読書バリアフリー法」4年

市販の電子書籍で小説を読むようになった中野さん(愛知県豊田市で)

 難病の「ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー」患者の中野まこさん(32)(愛知県豊田市)は、手の力が弱く、スマートフォンで電子書籍を読んでいる。

 中野さんは「自立生活センター十彩」(同市)の代表を務め、障害者が地域で自立して暮らせるよう支援している。1人暮らしで電動車いすに乗り、24時間の介助が必要だ。夜間は人工呼吸器を装着する。

 電子書籍を読み始めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった約3年前。「1人でゆっくり本を選んで読むことができ、棚から取ったり並べたりするのに人に頼む必要もない。気が楽になった」と語る。

 学生時代、紙の本を利用していた。「机に置いてめくるのは一苦労で首も痛くなった。図書館や書店は通路が狭く、車いすで行きづらかった」と振り返る。

 当時の思いを改めて強く認識したのは、作家・市川沙央さんの「ハンチバック」を読んでからだ。今夏の芥川賞受賞作で、重度障害者が紙の本を読む困難さを、当事者の視点で描いている。

 中野さんは、「読みたい本が電子化されておらず、あきらめることもある」と話したうえで、「本の仕事に関わる方たちに当事者の声を聞いてもらい、誰もが本を読めるよう一緒に考えてほしい」と語る。

(2023年12月18日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事