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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

あなたが眠れない原因は「不眠恐怖症」「寝室恐怖症」かもしれません

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。

 今現在不眠症でお悩みの方の多くも、以前はぐっすり眠れていたはずです。ところが、いったん不眠症に陥ると、それをこじらせてしまうことが少なくありません。なぜなのでしょうか? そこには多くの不眠症患者さんに共通する不眠恐怖症、寝室恐怖症の問題が潜んでいるからなのです。この恐怖症は不眠を悪化させる「体の変化」まで引き起こします。

「疲れているのに旅先で眠れない」は正常な防衛本能のため

あなたが眠れない原因は「不眠恐怖症」「寝室恐怖症」かもしれません

 旅先で眠れなかったという体験をされたことはあるでしょうか? 観光で歩き回って体は疲れているのに、妙に頭がさえて寝つけない、夜中に目覚めてしまう、眠りが浅いなど、不眠がちになる方がいます。寝室、布団、照明、香りなど就寝環境が異なることをストレスと感じて緊張し、体が警戒警報を発するためです。いわゆる「枕が変わると眠れない」という現象です。

 このような一時的な不眠(短期不眠)は正常な体の反応と言い換えることもできます。外敵から身を守るために、ストレスがある(危険を感じる)時には眠気を払って神経を研ぎ澄ます――。自然 淘汰(とうた) を生き延びるために必須だったかつての能力の名残とも考えられています。旅先だけではなく、ちょっとした心配事がある、翌日に大事な仕事を控えている、試験があるなどの時、私たちの多くはこのような短期不眠を経験しますが、数日もすれば再び眠れるようになります。

 ところが、心配事が続いたり、震災のような大きなストレスが生じたりすると不眠症は長引いてしまいます。いったん不眠症が長引くとなかなか質の良い眠りを取り戻せなくなることが知られています。カナダで行われたある調査では、症状が1か月以上続いている慢性不眠症の方は、その1年後でも90%以上、5年後ですら約60%に症状が持続していたそうです。

原因が解消されても不眠症が「一人歩き」を

 不眠症が一定期間持続すると治りにくくなるメカニズムには、冒頭に書いた不眠恐怖症、寝室恐怖症が大きく関わっています。大部分の短期不眠の場合、心配事や仕事のストレスなど原因がはっきりしており、原因が解消されれば再び眠れるようになります。つまり、不眠症は結果であって、原因ではないわけです。ところが慢性不眠症は事情が異なります。不眠が続くことで、「今晩も眠れないのではないか……」など、睡眠に対する不安感が芽生えます。寝室恐怖は、毎晩寝床で眠れずに苦しい時間を過ごすことでも生じます。就寝時間が近づくと、普段であれば軽い眠気が出てくるはずですが、不眠恐怖症、寝室恐怖症のために緊張が高まり眠気が訪れません。ソファーではうたた寝できるのに、寝室に向かっただけですっかり覚めてしまう患者さんも珍しくありません。つまり不眠症が結果ではなく、さらなる不眠の原因になってしまうのです。

 ご家族の病気や受験などが原因で不眠症に陥った方が、心配事が解決した後にも不眠症状が続いてしまうなどはその一例です。うつ病の不眠も典型例です。うつ病患者さんの90%以上は不眠を経験しますが、うつ病が治った後にも不眠症が残ってしまう患者さんが後を絶ちません。これもうつ病の勢いが強いときに何か月にもわたって不眠症で悩んだことが原因です。このように、いったん不眠恐怖症、寝室恐怖症に陥り、それが続いてしまうと、元々の不眠の原因が解消されても不眠症が一人歩きを始めてしまうのです。

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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