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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

旅立ったビーグル犬のチコ君 屋上で一緒に夕焼けを眺めた飼い主との穏やかな日々、看取った飼い主も安らかに逝った

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旅立ったビーグル犬のチコ君 屋上で一緒に夕焼けを眺めた飼い主との穏やかな日々、看取った飼い主も安らかに逝った

旅立つ少し前のチコ君(「さくらの里山科」で)

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は2012年4月1日にオープンしました。直後の数年間は、飼い犬、飼い猫との同伴入居は年に1件あるかないかという程度でした。そして同伴入居される方は、本コラムでも紹介してきましたが、末期がんで余命3か月の状態で愛犬と共に入居された方や、難病で歩くことも難しいのに愛犬の世話だけは必死に行っていた方、ご自身が病気になり、愛猫を残していくくらいなら一緒に死のうと思い詰めていた方など、重いドラマを背負っている方ばかりでした。

 それが、同伴入居される方がだんだんと増えていくにつれて、そのようなドラマチックな背景などなく、普通に愛犬、愛猫と一緒に入居される方が増えてきました。これはとてもいいことだと私たちは思っています。いずれは、高齢者がペットと一緒に老人ホームに入ることが当たり前の世の中になってほしいものです。

 ドラマチックな同伴入居が多かった状況から、普通に日常生活的な同伴入居が多い状況に切り替わったターニングポイントとなる事例の一つが、川辺浩子さん(仮名、90歳代女性)と愛犬のビーグル犬「チコ君」だったように思えます。2016年に入居されましたので、開設5年目のことでした。

 入居当時、チコ君は既に13歳になっていました。犬の13歳というと、そこそこの高齢です。ビーグル犬の平均寿命は12~15歳ですから、チコ君はちょうど平均寿命に達した年代でした。

 ビーグル犬は、茶色と白と黒で構成される特徴的な毛色と柄が有名です。チコ君はその3色が色あせて、よくわからなくなっていました。そんなチコ君と川辺さんが一緒に歩いている姿は、まさに長年連れ添った伴侶そのものでした。

 「さくらの里山科」に入居する前の数か月は川辺さんが入院していたため、チコ君は息子さんが預かっていました。その期間を除けば、“2人”はずっと一緒に生きてきたのです。そして、入居されてからも、ごく自然に一緒に過ごしていました。

 入居当初のチコ君は、高齢ではあっても元気いっぱい。おそらく、他の犬と一緒に暮らすのは初めてだったのでしょう。同じユニット(区画)で暮らすポメラニアンのチロやミックス犬(雑種犬)と思われるルイたちと、とにかく一緒に遊びたくて、ちょっかいを出しては、自分よりもはるかに小さいチロに「ガウッ」と怒られ、しゅんとなっていました。

 このようにチコ君は、川辺さんと常に一緒にいるわけではありませんでした。ユニットの中で、自由に動き回り、自分の生活を楽しみながらも、大部分の時間は川辺さんの傍らにいました。屋上を散歩するのが日課となった川辺さんですが、もちろんチコ君が一緒です。屋上で夕焼けを一緒に眺めている“2人”の後ろ姿は、今も私たちの脳裏に焼き付いています。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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