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ろう者や難聴者の親の多くは手話を知らない 子どもにどう教える?…支援の取り組み広がる

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 耳が聞こえなかったり、聞こえにくかったりする乳幼児が手話を獲得するのを支援する取り組みが各地で行われている。聴覚に障害がない親だと手話を知らないことが多く、家庭で教えられないからだ。活動には、同じ境遇の家族同士をつなぐ役割もある。(田中文香)

同じ境遇の家族 交流の場にも

「わかる」を重視

ろう者や難聴者の親の多くは手話を知らない 子どもにどう教える?…支援の取り組み広がる

こめっこのろう者スタッフとゲームをし、手話で盛りあがる子どもたち

 「『あっ ちょうちょ!』 あおむしが、きれいなちょうになりました」

 今年8月5日、大阪府立福祉情報コミュニケーションセンター(大阪市東成区)の一室で、ろう者のスタッフが絵本「はらぺこあおむし」の文章を、子どもたちに手話で伝えた。子どもたちもスタッフの表情や手の動きに夢中になり、にぎやかに手を動かした。

 活動の主体は、心理発達の研究者やろう者らで作るNPO法人「手話言語獲得習得支援研究機構」(同市中央区)だ。大阪府の手話言語条例に基づくプログラム「こめっこ」を実施し、0~6歳の乳幼児が遊びながら自然と手話を獲得するのを支援している。この日は子どもと保護者ら約70人が参加した。

 「こめっこ」には、手話劇や、リズムにのって体を動かしながら手話に触れる「手話ぱんぱん」と呼ばれる活動もある。子どもたちが手話を獲得し、「目で見てわかる」「伝わる」経験を積むのを重視している。活動は日本財団の助成を受けており、小学生以上が対象のプログラムもある。

 参加者には、人工内耳や補聴器を利用して日本語と手話の両方を使う子や、手話をコミュニケーションの主言語としつつ、日本語の読み書きを学ぶ子もいる。このため手話と日本語のバイリンガルが育っている。

仲間と出会う

 スタッフによる音声通訳もあり、手話が得意ではない保護者や、聞こえるきょうだい児も参加できる。保護者がろう者らから手話を学習でき、幅広い年齢層のろう者や保護者、聞こえない親を持つ聞こえる子ども(CODA)らと出会う場にもなっている。

 大阪府内に住む小橋史佳さん(38)と千穂子さん(34)夫婦は聴者だ。「こめっこ」で手話を学びながら、生まれつきの重度難聴の息子(3)を育てている。小橋さん夫婦は、「手話があれば大丈夫だと思えるようになった」と語る。

 「こめっこ」の活動には、息子が1歳の時から親子で参加している。聴覚の活用は難しく、手話を第1言語として育つ息子は現在、親を追い越す勢いで手話のや話せる内容が増えている。史佳さんは「成長を感じてうれしい」と笑う。

 千穂子さんは、ろうの若者やろう・難聴児の親とつながりができ、「困った時に頼れる人がいると安心できた」と話す。

 中等度難聴の中川かずのりさん(45)は成人してから補聴器を使い、音声のみで生活してきた。手話に出会ったきっかけは、聴者で妻のひろさん(44)と結婚し、中等度の難聴である息子(4)がこめっこに通い始めたことだ。

 十儀さんは「子どもが生まれてから手話に出会い、40年近く聞こえる人の半分以下の情報量で暮らしていたことに気づいた。漏れている音がたくさんあり、曖昧な部分は推測していたが、聞き間違いや覚え間違いで困ることも多かった」という。

 息子は補聴器を使っており、コミュニケーションは手話で始まった。手話を獲得し始めたことで、聴覚を活用して聞こえていた音声日本語の獲得も進み、現在、聞こえる人には音声で、聞こえない人には手話で話しかけ、手話と音声の両方を使い分けながら育つ。家族で手話を学び、家庭内でも手話のコミュニケーションが増えているという。

 十儀さんは、「手話は聞こえにくい私や息子が全てを理解するために必要で、大切な言語」と話す。亙世さんも「手話やろう文化を学ぶことができ、こめっこは安心感に包まれる場所。家族でより深い会話ができるように手話を学び続けたい」と話している。

広がる取り組み

 こうした取り組みは他の自治体でも広がっている。

 神奈川県は「こめっこ」の活動を参考に、20年に乳幼児の手話獲得事業「しゅわまる」を始めた。県聴覚障害者連盟が受託し、同県藤沢市などで、ろう者と聴者のスタッフが運営している。最初はスタッフの手話を見ているだけだった子どもたちが、手話で多様な表現をするまで成長したという。

 また前橋市で、ろうや難聴の子どもの放課後等デイサービス・児童発達支援事業所を運営するNPO法人「きらきら」は11月19日、「しゅわまる」のスタッフを招き、手話での工作や体操、生活の中で使える単語やフレーズを取り入れた遊びなどを教わった。同法人は、同じようなプログラムの導入を検討している。

 ろう者で「しゅわまる」に携わる松本大輔さんは「『しゅわまる』は、子どもが居場所として安心でき、保護者も手話の必要性を考えられる場になっている」とする。

言語と定義 条例化進む

 国内の教育現場は戦前、聞こえる人と同じように発声し、口の形を読み取る「口話法」を重視し、手話を排除した。それ以降、手話は、ろう学校の生徒間や地域のろうコミュニティーなどの仲間うちだけで伝わる時期が長く続いた。

 その後、手話は研究を通じて独自の文法体系を持つ「言語」であることが明らかになり、2011年には改正障害者基本法に手話が言語だと記された。現在、全国で手話言語条例の制定が進む。

 国内の耳鼻咽喉科の医師らで作る専門学会によると、生まれついての難聴の人は1000人に1~2人いるとされる。補聴器や人工内耳を使って、地域の小中高校に通う事例も多い。

 金沢大の武居渡教授(聴覚障害教育)は「補聴器や人工内耳を活用しても聞こえる程度には差がある。手話も使えた方が得られる情報は多い」と指摘する。

 ろう者や難聴者のほとんどは、聞こえる親の元に生まれるとされ、手話を家庭や学校で自然と身につけることが難しい場合もある。武居教授は「乳幼児に手話を教える人材の育成や、自治体の予算拡充などが必要だ」と訴える。

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