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「品性を忘れるな」「お金がすべてと思うな」…生の陰影をつづった伊集院静さん

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 生きることの喜びも、悲しみもひと一倍深く味わい、その経験を書くことにぶつけた作家だった。「どんな短い人生も、全うするには希望がいる」「作家に必要なものは、反骨精神だ」

「品性を忘れるな」「	お金がすべてと思うな」…生の陰影をつづった伊集院静さん

伊集院静さん(2016年10月29日撮影)

 文学や人生観について聞くと、真っすぐに言った。

 海の美しい瀬戸内の小さな町で、朝鮮半島出身の親を持つ在日2世として育った。人生に影を落としたのは、大学時代に弟を海の事故で亡くしたことだ。通夜の際、弟の遺体から離れなかった両親の姿が忘れられなかったという。

 大学卒業後、作詞やCMの世界で注目を集めるようになった。仕事を通じて知り合い、周囲の反対を押し切って結婚した女優の夏目雅子さんは、27歳の美しい盛りに白血病で逝った。

 当時35歳だった伊集院さんは、抑えようとしても怒りがわき上がり、ひたすら酒を飲み続けた。「でもね、どうしても自暴自棄になりきれなかった」。故郷の防府の抑揚が少し残る口調で取材にこたえた。

 「自分の息子をすでに一人亡くした母を、これ以上悲しませてはいけないと、心のどこかで思っていた」

 吉川英治文学新人賞を受賞した短編集「乳房」に、「くらげ」と題した一編がある。行方不明の弟を捜すため海へボートでこぎ出した兄が、海で弟の化身のような無数のくらげを目撃する。人間の一瞬の命のきらめきが言葉に とも されていた。

 <品性を忘れるな。自分だけのために生きるんじゃない。お金がすべてと思うな>

 2020年1月の本紙に寄せたサントリーの新成人向けの広告の一節だ。生の陰影を知り、滋味のある文章をつづる大人の作家がまた、一人いなくなった。(文化部 待田晋哉) 

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