文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ココロブルーに効く話II 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

高齢者の「物忘れ」「ぼんやりしている」は本当に認知症? 実は「ココロブルー」からくる「仮性認知症」かも

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 高齢者に「最近、物忘れが増えた」「ぼんやりしている」などの変調が起きた時、身近な人は認知症を疑うことが多いでしょう。しかし、医師の問診や脳や身体の検査の結果、見かけ上は認知症のようであっても、その実態は異なる、「仮性認知症」と診断されるケースがあります。その原因は、意外な心理的ストレスにあることも少なくありません。

返答は遅く、「わかりません」が多いものの

高齢者の「物忘れ」「ぼんやりしている」は本当に認知症? 実は「ココロブルー」からくる「仮性認知症」かも

 サカエさん(70歳女性)は、長男さんご夫婦と同居しています。「物忘れ」を主訴に、長男の妻であるトシコさんに連れられて初診されました。奥ゆかしく、ゆっくりとあいさつされるサカエさんですが、私の質問に答える際には、ずっと伏し目がちで、自信がなさそうでした。

小山: 物忘れに気づいたのは、いつ頃からでしょうか?

サカエさん: どうでしょうか……、わかりません。トシコさん、どうかしら?

トシコさん: 1か月ほど前からだと思います。物の置き場所を忘れたり、同じことを何度も尋ねたりするようになりました。

小山: ご自身でも、最近、調子が良くない感じはありますか?

サカエさん: はい……、年齢でしょうか。それもわかりません。

 私は、サカエさんに、生年月日、今日の日付・曜日、今いる場所について尋ねました。いずれも正答されましたが、返答は遅く、そのほかの質問に対しては「わかりません」が多く、普通の対話でもとても時間がかかる様子が印象に残りました(典型的な認知症の方は、返答にさほど時間がかからず、とりあえず何か答えて、場を取り繕ったり、何かを質問されて見当違いのことを返したりしても、気にするそぶりも見せずにあっけらかんとしていることが多いからです)。

孫の遠方への進学が喪失感に

 記憶力と脳などの検査を行った結果、記憶力については正常と認知症との境界域ぐらいで、脳のMRIでは年齢相応の変化(加齢に伴う脳の 萎縮(いしゅく) )を認める程度でした。脳血流の検査では、前頭葉に軽度の血流低下を認めましたが、それは認知症のパターンよりも、うつ状態に近い所見でした。ホルモンバランスなども含めた血液検査では、特に異常はありませんでした。

 初診から1週間後、検査結果を踏まえて再度診察としました。

小山: 先週の検査では、認知症とまではいえない結果でした。

サカエさん: ボケているわけではない、ということですか?

小山: はい。脳の機能や状態は、ご年齢を考えるとさほど悪くありません。この1か月が、普段の「 ()() 」ではないのだろうと思います。 

サカエさん: そうですか。やっぱり? ただ元気がなくなっているだけなのかしら。

トシコさん: モエカのことかね、おかあさん。

小山: モエカさん?

サカエさん: 孫です。先月、遠方の大学に進学しました。

トシコさん: モエカが遠くに行ったので、おかあさん(サカエさん)は、毎日寂しくなっちゃったんです。

小山: 話し相手がいなくなったのですか。

サカエさん: はい、電話もよこさないし……。私は一日中、誰とも話さないの。

 そこまで言うと、サカエさんは泣き出してしまいました。トシコさんも含めてお話を伺うと、孫のモエカさん(18)は、幼い頃から「おばあちゃん子」で、サカエさんも彼女を「猫かわいがり」してきたようでした。進学を機に、モエカさんが遠方で暮らすことについて、お孫さんの将来がかかることなので、サカエさんは口には出さなかったものの、やはり望んではいなかったことなのでしょう。モエカさんからサカエさんにLINEのメッセージは届くものの、電話で話すことはないようです。また、息子夫婦は同居しているとはいえ、昼間は仕事に出ているため、日中ずっと一人で過ごしているサカエさんの姿が目に浮かぶようでした。

小山: 文字や絵文字より、声を聴いて、話せた方がいいですよね。

サカエさん: はい。でも、私が慣れればいいのですから。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

koyama-fumihiko_prof

小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2024年3月、新曲「 きみに春がくる 」をテイチクエンタテインメントよりリリース。

過去コラムはこちら

ココロブルーに効く話

ココロブルーに効く話II 小山文彦の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事