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低血糖での事故に無罪、インスリン投与量自己判断に分かれる評価…「生活実態認めた」「数値管理徹底必要」

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 神戸地裁で今月7日、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)に問われた女性に、無罪(求刑・禁錮1年2月)の判決が言い渡された。糖尿病を患う30歳代の女性が治療用のインスリンを投与後、運転中に血糖値が下がり過ぎて意識障害に陥り起こした人身事故。判決では「意識障害や事故は予見できなかった」と結論づけ、自身の経験に基づいて投与量を決めた判断を認めた。関係者は「糖尿病患者の生活実態を踏まえたもので評価できる」とするが、判決の影響を不安視する声もある。(上田裕子)

■測定できず

低血糖での事故に無罪、インスリン投与量自己判断に分かれる評価…「生活実態認めた」「数値管理徹底必要」

 糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気。高血糖状態が長引くと様々な合併症を招く恐れがあり、血糖値のコントロールが必要になる。生活習慣によって起こる「2型」と異なり、「1型」は血糖値を下げるインスリンが十分に分泌されないのが特徴で、血糖値を測定しながら1日数回の注射をしなければならない。

 判決によると、1型糖尿病だった女性は2021年10月、神戸市北区で乗用車を運転中、インスリン投与による低血糖症で意識もうろう状態になり、対向車に衝突。運転手ら3人に重軽傷を負わせた。

 女性が低血糖症になるまでインスリンを投与してしまったのはなぜか。

 女性はこの日、血糖値の測定器を自宅に忘れて外出していた。普段は血糖値を測った上でインスリンの量を調節して投与していたが、測定器がなかったため、食事の内容などから自身の経験に基づいて投与量を決めたのだという。

■難しい結論

 裁判では、女性が低血糖症から意識障害を引き起こす可能性を予見できたかどうかが争点となった。

 検察側は、女性が投与したインスリンは必要量を大幅に超えるとし、「過剰な量であることを女性は認識しており、運転中に低血糖症になることは予見できた」と主張した。

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神戸地裁

 これに対し、判決では、主治医の見解などから「『明らかに過剰』とまで言える量ではない」と指摘。さらに「食事に含まれる糖質量を計算しづらい外食時、自身の経験に基づいて投与量を決めることは許容される」とし、「過剰と認識していたとは言えず、意識障害に陥る予見可能性も認められない」と退けた。

 ただ、難しい結論だったことを反映してか、松田道別裁判官は無罪を言い渡した後、「説諭」として、こう付け加えた。「刑事責任はないが、不適切さは否めない。二度と起こさないで」

■「対策徹底を」

 投与量を経験などに基づいて決めた女性の判断を認めた判決に、関係者の意見は分かれる。

 患者の支援にあたる日本糖尿病協会ペイシェントサポート委員会は「本来は測定器を携帯し、測った上で投与するのが望ましいが、測れない状況はどうしてもあり、その際は自身の判断に基づいて投与量を決めている。判決では、こうした事情を『医師の指導の範囲内』と認めてくれた」と歓迎しつつ、「事故が起きたことは事実。患者には低血糖がいかに危険かを理解してもらい、運転前の測定などの対策を徹底してほしい」とする。

 一方、懸念の声も。交通事故に詳しい丹羽洋典弁護士(愛知県弁護士会)は「血糖値の管理を客観的な数値ではなく自己判断と経験に広く委ねる結果につながりかねない」とし、「数値に基づく管理を徹底しなければ、同じような事故が起きかねない。社会的には受け入れにくい判決内容ではないか」と指摘する。

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