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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

財津一郎、元大関朝潮、在宅死の願いはどうすれば、かなえられるのか?

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8割以上が自宅で亡くなった時代も

 かつての日本では、在宅死が当たり前でした。1951年の在宅死率は82.5%です。しかし、1961年に国民皆保険制度がスタートし、少ない負担で入院治療が受けられるようになったこと、また核家族化が進んだことで在宅死は減少していき、1977年には病院死率が在宅死率を初めて上回りました。その後、在宅死率は激減して2005年と2006年には12.2%と過去最低を記録しています。

 その後、2010年代半ばからは、在宅死が徐々にですが、増加傾向です。これは、過剰な終末期治療の見直しとともに、国と厚労省が音頭を取って在宅死を奨励するようになったからです。厚労省は、膨張する一方の医療費を抑制し、「自宅で死にたい」という国民の希望を実現するため、「病院から家へ」の号令のもとに、さまざまな取り組みを行っています。

足りていない在宅診療のスタッフ

 医療・介護・生活支援・住まいを包括的に提供しようという「地域包括ケアシステム」の整備も進められていますが、課題を抱えている自治体も少なくありません。医療の面では、在宅医療に責任を負う医療施設として、「在宅療養支援診療所」の制度ができたのは2006年ですが、思うように増えません。訪問診療をする常勤医師3人を配置し、24時間対応できる医師や看護師を置くという条件があるためです。

 日本には、多くの開業医がいて、身近なところで医療が受けられるのは便利ではありますが、近年はその弊害も目につきます。在宅医療を普及するため、厚労省は高い診療報酬を設定。つまり医者の目の前に大きなニンジンをぶら下げて誘導しようとしているのですが、食いつきがよくありません。24時間対応をするには、医師一人では無理なわけですが、開業医というのは、お山の大将ですから、他の医師や職種の人たちと連携してまで、社会のニーズに応えて在宅医療ができるようにしていこう、とならないのが理由のひとつでしょう。

看取りには体制整備が必要

 手広く在宅医療を行っている医療グループでは、24時間体制を敷くために、首都圏に多数の拠点を構え、60人以上の医師を集め、看護師、運転手でチーム体制を整えて運営しているところもあります。そうなると、そこらの開業医とは異なる経営センスが必要です。在宅医療の優れた運営主体が増えてほしいものだと思います。また、訪問看護師もまったく足りず、看護師さんのなかで訪問看護に従事している人は1割にも達していません。

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。前新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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