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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

子どもの目にピンセットが刺さった…なぜ、こんな恐ろしい事故が起こるのか

 とがったものが、身体に刺さることがあります。頭部以外の場所に刺さった場合は、その傷口を閉じればいいのですが、頭部に刺さると重傷化し、重い障害を残したり、死亡したりすることもあります。今回は、子どものまれな刺傷事故についてお話しします。

子どもの目にピンセットが刺さった…なぜ、こんな恐ろしい事故が起こるのか

イラスト高橋まや

乳幼児にとがったものは持たせない

事例1: 2023年10月12日、長野県山形村の保育園で、6歳男児の右まぶたにピンセットが刺さり、脳内から出血した。このピンセットは、クラスで飼っているカエルに餌を与えるためのもので、長さは25センチで、自由に持ち出せる状況であった。子どもは、手にピンセットを持っていて、すべり台を腹ばいですべっていた。

 ピンセットが子どもの目に刺さり、脳内に到達したという話は初めて聞きました。そこで、どのようなメカニズムで起こったのかを推測してみました。

 なぜ腹ばいですべったのでしょうか? ふつうはすべり台にお尻をつけて滑るはずです。その場合、腕は自由に動かすことができ、手に持ったピンセットが目に近づいてきたら避けることができて、刺さる可能性は低いと思います。

 腹ばい状態では、すべり台の中で腕を自由に動かすことはできません。ピンセットを持った腕は前方に伸ばした状態ですべっていたはずです。すべり台の降り口で、腕の先の部分は急に減速し、そこに子どもの顔や体幹部分が強くぶつかり、手に握っていたピンセットのとがった部分が目に突き刺さり、 眼窩(がんか) を貫いて後頭部まで達したと思われます。

 頭部は、ほとんどの部分が硬い頭蓋骨で覆われ、外部の衝撃から脳を守るようになっていますが、目の奥と鼻の奥、上あごの奥は薄い骨となっており、これらの部位にとがったものが強い力で侵入すると、薄い骨を貫通して脳内に達することになります。

 乳幼児が歩いたり、走ったりする場合は、とがったものを手に持たせないことが必要です。すべり台で滑る時は、腹ばいですべらない、手に何も持たない、持たせない必要がありますが、これらはむずかしい時もありますね。

 保育の場に、5~6センチ以上の長さのピンセットは持ち込まない。ピンセットは使わず、スプーンやへらを使用するといいと思います。年長児には、とがったものを手に持っているときの危険性について、動画を作って教えるのもいいと思います。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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